布製の絵本の話
”ほほほ”さんの、救急車騒動のあと、僕とクラウス先輩は、サンタランドへ帰り
今は、ひたすら勉強中。一週間目。もう、頭が限界だ。
僕は、ひたすら日本語の字を書く練習で、これがなかなか覚えられない。とほほ。
”ひらがな”と”カタカナ”は、クリア。今は、小学校3年生の国語の教科書を
読んでる所。もちろん、漢字の書き取りも、後でテストされる。
先輩は、ミシェル先輩と何か難しい研究らしく、サンタアカデミーの魔法学の
講師を呼んで、図書室にこもってる。
僕も早く魔法が使えるようになりたいけど、まだ、呪文で使う古語の初歩だ。
サンタランドはもう晩秋。敷地の並木の落ち葉もおち、山は茶色と
常緑樹の濃い緑の二色になってる。
冬で雪にサンタランドが雪に埋もれる前に、少しでいいから、魔法の実践練習を
やりたい。
(魔法の練習は、被害が出た時最小限になるよう、大抵は外で練習するそうだし)
忙しい東京での修行(?)も、ちょっと恋しくなってきたころ、
クラウス先輩と、出かける事になった。
今度は、”主に目の不自由な子供のための布の絵本作りグループ”に、参加するとか。
これは、見回り隊のリーダーの鈴木さんが、
「ボランティアを研究してるなら」と、紹介してくれたものだ。
鈴木さんも グループに入って活動中。
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そこは、普通の住宅街の一室で、居間よりは狭いけれど、家具が作業台とミシン
しかない8畳間だった。
女性ばかり4人のグループで、僕はちいさくなって、絵本作りリーダーの、石黒さん
の話しを聞いいた。
「ここでは、眼が不自由な人のための絵本を作っています。
例えば、触ってわかるように立体的に物をはりつけたし、このように、
出し入れして、楽しめるようになってます。」
そういって、絵本の中のドラエモンのポケットに、いろんな小物を入れる
のを、やってみせてくれた。
ただ、僕にはいまいち、ピンとこない。
サンタランドでは、子供は五体満足で生まれてくるから。
年配になっても、魔法の力があるので、中途失明して苦労して っというたぐいの
話しも聞かないし。
「目の不自由な子供のためのおもちゃや、絵本ってまだまだ少ないんですよ。
彼らは、眼が見えないかわりに、耳がよく、手先の感覚が鋭いですから、
その能力をのばすためにも、こういう”触る事のできる絵本”がたくさん必要なんですよ」
僕がボケっとしてると聞いてると、先輩が、
「実際、眼を閉じて絵本に触ってみるといい」
作業中に申し訳ないけど、「かくれんぼ」という、グループ自作の布の絵本で
トライした。主人公が、どこに隠れているかさがす本だ。
探す以前に、目の前が暗闇になると、途端に不安になった。
先輩、丁寧に目隠しまでいてくれちゃって・・
そこでさわる布やいろんな素材の感触が、手にビンビンつたわってくる。
それと、横にいる先輩の言葉も頼りだ。
「この本は内容は単純だけど、人気あるのよ。しょっちゅう、壊れやほつれを
なおさないと、いけないくらいね」
グループの一人が、笑って教えてくれた。
絵本に触ると、その作者の思いが、僕に伝わってきて、ホンワカ気分になった。
一生懸命に作ってる姿が、想像できる。
僕は、”ダンケシェーン”と片言のドイツ語でニッコリお礼を言った。
ここでは、僕は日本語はあまり喋れない って設定だったものな。
その後は、黙々と作業。
僕は器用な方らしく、布を切ったり縫ったり、貼りつけたりと、
手早くこなすことが出来た。最初はクラウス先輩の通訳つきで、指示とおりに。
出来たら、自分の思うように、作らせてもらった。
作ったのは、布製の小さな果物、イチゴとかバナナとか。
出来が良かったのか大好評。僕は、手先のこういう仕事が好きみたいだ。
寮の自分の部屋で、ヒマをみて作ってみよう。
作業も終わり。みんなでお茶会になった。
ボランティアというより、半分、趣味のサークルのようなのよ。
なんて、笑いながら、話しが弾んでる
「素晴らしいですね。個人で工夫されて
作られてるようで、感心しました。で、作った本はどこに?」
クラウス先輩が、いかにも学生 と 質問を続ける。
本は図書館・点字コーナー、病院の小児病棟と 需要は多いそうだ。
ただ、共働きも多く、作り手が少ないのが悩みだと、
石黒さんはため息をついた。
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作業する人も作品も、素晴らしいかった。
でも、僕は寮に帰ってから、もっと元の問題で考え込んでいた。
「先輩、生まれつき目が見えないなんて、大変すぎです。
目の見える人が殆どなのに、不公平です
目の不自由な子供たちが、目見えるようになるプレゼント、ないんですか?」
「ニコ・・お前のその優しくて単純な所は、俺は好きだよ。
そうだな。人の世界は不公平だな。生まれつき耳の聞こえない子、口のきけない子
体に病を抱えて生まれてくる子、もしくは、生まれる事すらかなわなかった子・・
いっぱいいるな。・・・」
先輩の言葉で、僕は黙ってしまった。僕と先輩のいるホールは、
微妙な静けさだった。
なんでもプレゼントで解決できないかと、考えた僕があさはかだった。
それ以上に、先輩が 何もできない事を悲しんでるのが口調でわかった。
そもそも、なんのためのプレゼント集め&配り なんだ?
僕は、配る方は、よく知らないけど・・
僕の心の疑問は、顔に字で出てくるのか?先輩は答えてくれた。
「実は俺もミシェルも、配るほうは、よく知らないんだ。部署が違う。
配る方のサンタは、サンタランドでも別格らしい。
例えば、”これだけのプレゼントを集めてきてください”と
仮に、配布係りサンタが、指示をしたとすれば、俺たちは、
”それは、キツいっす。無理かも”とはいえるけど、”イヤです”とはいえない。
プレゼントの効力は、俺は知らないけど、少なくともニコ、プレゼントが
もらえた時はうれしかったろ?
俺にわかるのは、とりあえずそのくらいかな。たよりない先輩で悪いが」
先輩は、知ってる限りの事を、わかりやすく丁寧に教えてくれた。
ありがたくて頭があがらない。
そうだ、感謝の気持ちをプレゼントにしてあげよう。
確か、ミシェル先輩が、”クラウスは顔ににあわず、イチゴが大好きなんだ”
って言ってたっけ。
「先輩、いつもありがとうございます。感謝の気持ちをこめて、
部屋に飾っておける布製の小さなイチゴ、作って先輩にプレゼントします」
僕は、100㌫感謝の心からなんだけど、先輩はつれなかった。
「いや、そんな少女趣味ないし、謹んで辞退するから」
先輩は、わけわからんって顔で、足早に自分の部屋に帰って行った。




