一人で暮らす事とは
あの後、先輩は僕にはさっぱりわからない言葉で、魔法を
かけてくれた。”よし、これで”心の声”は、必要以上は聞こえなくなる。
後は、もう少し、木陰で休んでだな”
田町第4町内会では、見回り隊は4人、おばさんからおばあさんまで。
対象は11人の一人暮らしで、仕事をしていない老人、身障者だそうだ。
見回りを前に、リーダーの鈴木さんに僕らの事を紹介してもらった。
「こちらが、クラウス君、ドイツからの留学生で日本にでのボランティア
活動の研究をされてるそうです。日本語はペラペラだから心配なしね。
隣は、クラウス君の従妹でたまたま遊びにきたニコル君。
日本語が出来ないので、今日は、一緒にきたそうです。
じゃあ、みなさん、今日はよろしくお願いします。
通りで挨拶をして、ノンビリと通りを歩いて行く。
見回り隊は本当は8人いるところ、都合のいい人が回るっていう事だそうだ。
週に1回。火曜日。午後2時に巡回する。
リーダーの鈴木福子さん曰く、
「本当は、もっと対象者はいるんですけどね。”迷惑だかから来ないでくれ”
って、いわれちゃったりしてる所もあるし。案外、面倒なのよねこういう事。
だから、顔色と様子を見ながらね。まったりやっていくしかないの」
なぜ、”迷惑に思う”のか、最初はわからなかったけど、見回りを終えると、
なんとなくわかったきもする。
見回りされた人達も、反応はいろいろだった。
あたりわわりのない挨拶で終わる人、
ここぞとばかりに、自分がいかに大変かを訴える人、
(中には、本当に病気や金銭的な面で大変な人の時は、民生委員
もしくは、ダイレクトに区役所の係りに連絡するそうだ。
見回りは、あくまでも、チェックのようなもので)
たいしたことのない身内の自慢話、愚痴、相談事、にも
見回り隊は、聞く。
今回は何事もなく終わったけれど、さすがに、いろんな人がいるなと、
電車で思った事と同じく思った。
サンタは、いろんな人達を相手に”ありがとう”の感謝の言葉を
もらわなければいけないけど、
これだけ人がいたら、こっちもどう対応していいか困る。
親切でやったつもりが、”余計なお世話、迷惑、別にどうでもいいのに etc”
いろんな反応がかえってくるだろう。
親切のつもりが、頭ごなしに怒られたら、僕はどうしよう・・
見回り後は、鈴木福さんの自宅で茶飲み話になってた。
他へ連絡事項がないかぎり、見回りの記録のみで、詳細は残さないそうだ。
これは防災のためらしい。不在の日が漏れて、空き巣に狙われたら大変だとか。
これは、徹底してるそうだけど、最初から断る人は、ここの所を心配してるようだ。
「それでもね、このあいだ、斜め向かいのおばあさんの所の、自転車が
両輪ともパンクしてたのよ。それでおばあさんは、大騒ぎ。
うちらのせいで、不在時がわかり、イタズラされたって。
確かの中学生のイタズラだったの。近所中の自転車のタイヤを
夜中にパンクさせて回ったそう。幸い、補導されで、うちらの疑いは晴れたけどね」
鈴木さんは、お茶を飲んで、はぁっと息をはきだした。
心なしか、疲れてる?小太りで健康そうだけど。
他の人達は、噂話になってる。近所の噂話は残念ながら悪口や不幸な話しが多い。
ちょっとイヤな気分。
ー・-・-・-・--・-・-・--・-・-・-・--・-・-
「まあまあ、噂話もな。役に立つこともある。何かあったとき、
いちはやく駆けつける事の出来る体制にもって、いけるかどうかが
ポイントだって、佐田さんが言ってたしな。」
佐田さん、本当にいろんな事、知ってる。
僕らが町内の境界にさしかかったとき、僕は、足が引き止められる気がした。
後ろを見ても誰もいないし。つかんでもいない。お金持ちの一人暮らしらしく、
見回りは拒否された人だ。通称”ほほほのおばあさま”
鈴木さんたちに最初”私は、見回りは結構ですわ。ほほほ”
と、断った事からきたんだとか。
その”ほほほ”さんが、SOSを出してる。声は聞こえないけど、なんとなくわかる
クラウス先輩もわかったようで、玄関のチャイムをならしたけど。
反応はない。遅る遅るドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。
郵便受けの小窓から、のぞいてみると、廊下におばあさんが、倒れて
うなってるのが見えた。
「先輩どうしよう?倒れてる。ほほほ さん。」
「よし、じゃあ、ドアあけて入るか」
開けてって鍵が・・・あ、ドアが開いた。
(そか、魔法か)(この家、古くて助かった。鍵もショボかったし)
それからは、てんやわんやだった。
先輩が介抱するかたわら、僕は鈴木さんの家に連絡に走った。
救急車がきて、鈴木さんが付き添っていったけど。
ーー・-・-・--・-・-・-・-・--・-・-・-・
サンタランドに戻って、先輩に話しを聞くと
”ほほほ”さんは、いわゆる”ぎっくり腰”で、一日、倒れていたそうだ。
先輩はとても感謝され(で、プレゼント、ゲット)その一方、
鍵の事を聞かれてて、鍵はかかってなかったと、ごまかしたそうだ。
僕は、都会の複雑さを味わったきがする。
いろんな人と考え方もあり、付き合い方も難しいって事。
ちなみに、その語の”ほほほ”さんは、腰が全快じたあと、最高齢の見回り隊の
一人として、日々、頑張ってるそうな。




