『勇気』が『悠希』になれるまで 5
窓の外の大木の落ち葉が色付き始め、秋を感じさせるように少し肌寒くなってきた。
そういうわけで衣替えをする季節だと言わんばかりに、悠希のお母さんが色とりどりのパジャマを持ってきた。衣替えというには少し遅い気もするが、病院の中は空調がよく効いていて今の今まで気が付かなかったことも理由の1つだ。本命の理由としては、今までは身体が動かなかったこともあり、病院で貸し出しされている検査衣でいることがほとんどだったのだけれど、歩いたりはできないけれど、身体が大分動くようになってきたこと、今までより話せるようになったこと、食事も普通のものが食べられるようになり、点滴の必要がなくなり、検査衣でいる必要がなくなったためだ。
パジャマが変わること自体は特に反対も何もない。半袖の検査衣だと少し肌寒くなってきた頃だったからである。
だからと言って、これは、困る。
そこに並べられたのは、ピンクや黄色といったパステルカラーの可愛い女の子用のパジャマだったからだ。水玉模様やチェック柄、中には花柄なんてのもある。
うん、悠希が着る分には似合っていて可愛いと思う。佳奈にだって似合うはずだ。だけれども、それを僕が着ることとはまったくの無関係なのだ。
実際この身体は悠希の身体だ。自己認識があろうがなかろうが間違いなく、寸分の狂いもなく悠希の身体だ。
だけれども中身は中学生男子である僕だ。100歩譲って黄色や水色とかだったらまだよかった。小学生ぐらいの時だったらそんな色のパジャマを着ていたこともある。だけれど、悠希のお母さんが手にとって僕に着せようとしているのは薄いピンクのいかにも女の子といったパジャマだ。このパジャマを着ることには抵抗がある。僕は精一杯首を横に振って抵抗する。
「じゃあ着替えましょうか、勇気くん」
ニコニコ笑顔で悠希のお母さんが、僕にとって無慈悲な宣告を告げた。
「はい、おしまい。似合ってるわよ」
抵抗虚しく、僕は今、先のピンクのパジャマを着ている。サイズが少し大きいのか、ダボっとしていて手が少し隠れている。パジャマだけではなく、下着まで全て着替えさせられた。下着はブラとパンツがお揃いの白い下着だった。知り合い(幼馴染)のお母さんに下着の着替えをさせられるというのはどんな羞恥プレイかと、思い出すたびに顔が熱くなる。
今までは、というか今回もだけれど、下着や検査衣は着せられていたのであまり意識はしていなかったけれど、改めて認識してみると、なんというか、こう、……恥ずかしいのだ。
男の時はトランクスを着用していたので、下着としてはゆったりとスペースがあったけれど、女の子のパンツは、完全に肌に密着してくる。身体つき的にお尻もそんなに大きいわけではないけれど、あの小さい布面積の中に、なぜこうも収まるのか。
さらに当たり前といえば当たり前なのだけれど、男の時にあったあれが今はない。そのせいで、股の間が余計にすっきりとして見える。
代わりに、胸には悠希の身体に対しては大きい胸の膨らみがある。悠希のお母さんからBカップの70だと教えてもらった。
今まではただ付けられていただけだったので、サイズまで知ったのは今日が初めてだ。正直よくわからなかったけれど、幼馴染の秘密を覗いているようで、とても恥ずかしかった。
恥ずかしくもあったけれど、これがBカップなのか……という多少残されている男心に何か感動したものがあった。
しかしやっぱり、ブラジャーはしていると苦しい。胸が圧迫されているような、男の時にはつけない、不慣れなものをつけているためか、邪魔で邪魔で仕方がない。誰もいない時は外すのが安定だな、と密かに決意を新たにする。
ちらりと横に備えられた鏡を見る。
そこにはパジャマ姿でベットに座る、幼馴染であり、僕の姿がある。
自分だとも認識しているので、似合ってない気がするパジャマ姿に、どうしようもない恥ずかしさを覚える。
幼馴染のパジャマ姿が似合っていて可愛いと思っている認識もある。
僕はどうなっていくのだろうか。そんなことを考えていると、
「パジャマだけでこんなに抵抗されたら、退院したら大変よねぇ。私服は勇気くんにも抜け道があると思うけど、制服までは避けられないからねぇ」
という声。悠希のお母さんは顔に手を当て困った顔をしていた。
そこでハッとした。
学校に行くようになったら、今の姿からいって、女子制服、つまりはスカートを履かなくてはいけないことに、今更ながらに気がついたのだった。
そんなのまるで、女装した変態みたいじゃないか。
「う……どうしよ……」
つい声に出てしまった。
頭を抱えてうんうん唸っていると、悠希のお母さんが優しく抱きしめてくれた。
「ゆっくり考えればいいわ、最悪中学ぐらい行かなくたってどうにかなるだろうし」
いやいや、それは現代日本としてはどうなのさと思う。僕はただスカートを履くのが嫌なだけでどうしようか考えていたのだけれど、学校に行きたくないと思われたのだろうか。
よく考えると、今の中学には行けないかもしれない。
この幼馴染の顔で、「入れ替わっちゃいました、勇気です!」なんて言おうものなら気持ち悪がられてしまうだろう。そう思うと、スカートを履くこと以上に学校へ行くこと自体が怖くなった。
ぎゅっと悠希のお母さんが抱きしめてくれている。抱きしめられてるのが心地よく、僕も抱きつく。今はその言葉に甘えてしまおう。
とりあえずは歩けるようにならないと始まらないし、まだ中学2年の秋だ。中学卒業までは1年以上あるではないか。
考えるには時間はたっぷりある。……はずだ。
この人の優しさに今は甘えていよう。
「でも、やっぱり女の子の服に慣れるのは早いほうがいいわね。今度ワンピースタイプのパジャマ買ってきてあげる」
……僕に残された考えるための時間は、一気にタイムリミットが迫っていた。




