プロローグ3
聞き間違いだろうか?
と、自分の耳を疑った。
みんなが生きていることは喜ばしいことだ。
だけど、バスがまるまる崖から落下した大事故、犠牲者が俺一人だけというのは何とも自分にとって皮肉ではあるが、幸運だったといえる。
色々、思うことはあるが、今は素直に吉報として受け取っておこう。
「……あの」
アフロディテさんがしまったといわんばかりの困りで、俺の様子をうかがっていた。
「よかったです。
みんなが生きていて……俺一人死んでしまったことは、少し複雑ですけど」
そう言うと、不安そうではあるがホッと胸をなでおろした。
確かに、この天使さんたちの間違いで死んでしまったが、今のこの俺がいるので死んだ実感もない……なにより、漫画や小説の中でしか味わえないと思っていた異世界への転生が味わえるのだ。
むしろ、願ったり叶ったりである。
……やり残したことがないといえば嘘になるが、あちらでの未練もそこまで大きくない。
「では……転生を行います。」
ちょうどいいタイミングでアフロディテさんが転生を始める。
少しずつだが、意識が遠のいていくのがわかる。
「もう少しすれば、新しい世界での…新しい人生が始まります。」
「…そうみたいですね」
元々、透けていた自分の体がさらに薄くなったような気がする。
「何から何まで…ありがとうございます」
「いえ…私たちのミスでこうなってしまったのです。
お礼など…受け取れません…」
「なら……」
お礼を言っておいておかしなことだが、確かにこの場面で俺からいう言葉ではない。
ならば、ふさわしい言葉というのはと考えると自然と口にしていた。
「行ってきます。」
はにかみながら、そういうとアフロディテさんも微笑み
「行ってらっしゃい」
と、言葉を返してくれた。
その言葉を聞くと同時に意識はかき消された。
間
「いやぁ~おもしれぇ、おもしれぇ」
少年にも少女にも見える人物は実に年相応な笑顔で世界を見渡していた。
「ヴィーナスが何かしたようだけど…まぁ…いいか
それもそれで面白いもの」
一人愉快に無邪気に楽しんでいる。
親父から離れて正解だった。
親父と兄貴の近くにいたらこんな楽しいことがあったなんて、知ることもできなかった。
「この人間たちどうするかな」
おもちゃを手にした子供のように笑顔になる。
あっちの世界で事故のように見せかけた神隠し
約40人ほどの人間を消し去った。
なぜこんなことをするのと、ほかの神々は口うるさく僕を言及するだろう。
決まっている。面白いから!楽しいから!
小さな者たちが互いを貶めあう状況を見ることはこの上なく楽しい。
「そうだ……あのヴィーナスが送った世界に…」
世界をめちゃくちゃにする。
そう考えると自然と笑いがこみあげてくる。
そうだ!こいつらに戦争を起こさせよう!
それには、力が必要だね。
神の力を模した武器をまた騙して作らせよう。
考えが止まらない、こぼれる笑みを我慢することを放棄する。
あぁ……なんと楽しい時間だ。
「また、一人で不気味に笑ってる…」
ひょっこりと、別の部屋から顔を出したのは獣の耳と尻尾が生えたこれまた、少女だった。
「失礼な、不気味とはなんだ、不気味とは」
「それだけ、笑ってたら不気味に見えるよ、ロキ」
「だって、面白いことがあったら、笑ってしまうだろ…フェンリル」
「私は、おなか一杯になればそれでいい」
フェンリルはそういうと、眠たそうにあくびをしながら戻っていった。
共感されなかったことが少し寂しく思うが、まぁ…今はこっちに集中しよう。
「さてさて…楽しい時間の始まりだ」
白い、無の空間に漂う40人ほどの魂を見つめながら、ロキはそうつぶやいた。
あの世界よりも、魂が1つ抜け落ちていることも気づかずに…