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ケイという人間

 ケイは暫定的に自分の部屋となっている場所に戻った。


「はぁい、ケイ君。おはよ」


「んみゅ……」


 部屋に入ると、なぜか二人の女性に迎えられた。リルリットは殆ど寝ている様だが。


「あ、ン・ケセラさん、と……リルリットさん。お早うございます。どうかしたんですか?」


 一瞬勝手に自分の部屋に入られたかと思ってムッとしかけたが、考えてみればこの部屋はケイのものではない。文句を言うのも筋違いかもしれない。


「安心してぇ、長居する気はないからぁ。ただ、ちょっと質問がしたくってねぇ」

「質問ですか?」

「ええぇ。ちょっとねぇ。いいかしらぁ?」

「構いませんけど」

「じゃあ質問ねぇ。ケイ君って喧嘩とか強いのかしらぁ?」


 質問の意図が掴めなかった。ン・ケセラと言えば昨夜の行動が行動だけに、何か裏があるような気がしなくもない。だが、いくらなんでもこの質問に特別な意味を求めるのは無理があるような気がした。


「僕は……弱い方です」


 結局彼は正直に答えた。


「走るのは早い方?」

「平均ぐらいですね」

「体格は? ニンゲンの中では大きい方なのかしら?」

「小柄な方です」

「ふぅん……もしかして、ケイ君って人間の群れの中では弱い方だった?」

「……そうです」


 ケイにとって楽しい問答ではなかったが、素直に答えるとこうなってしまう。そして、この答えがン・ケセラにとっても望んでいたものと違うことも、落胆した表情から読み取れた。


「ううん……やっぱりわからないわねえ……」


 ン・ケセラはぶつぶつと何かを呟きながら考え事をしている。


「私から、いいか?」


 そんな、ン・ケセラはを横目に、偉くしっかりした口調でリルリットが口を開いた。半分寝ていると思ったので、二人は少々驚いた。


「ケイは、この世界に呼ばれた時、何をしていた?」

「え?」

「走っていたとか、眠っていたとか、あるはず」


今度は流石にケイも返答に窮した。

 いや、答えは簡単なのだ。『自殺しようとしてました』。でも、そう答えると二人に一体どう思われるだろうか。


「どうした? 言えないか?」

「あ、その……落下してました」


 返答を急かされ、ついそんな言葉が出た。嘘でもないが、ぼかしすぎ。何とも臆病なケイらしい返答だ。


「落下? どんな、場所から?」

「高い場所です。僕の街で有数の建物です」

「何故、落ちていた? 事故か?」

「あ、いえ、その、自分の意志で」


 なし崩し的に全部言ってしまった。


「自分の意志で、落ちたのか? 変態か?」

「リルリット……」


 ン・ケセラがリルリットの脇腹を小突く。そして、ケイに聞こえないようにその耳に囁く。


「自殺ってやつよぉ、きっと」

「ジサツ? 何だ、それは?」

「自分で自分を殺すこと。自分の意志で死ぬことねぇ」

「わからん。何故、そんなことを、する?」

「さぁ? でも、あまり前向きにすることじゃないと思うわよぉ」

「ふむ……」


 ン・ケセラの答えに満足したのか、リルリットはケイの方に向き直った。


「話を、戻す。建物の、高さを、教えて欲しい」


 ケイはいつだったか調べた建物の情報を思い出した。


「約150m……って言って分かります?」

「大体は」


 日本語が通じるのである程度予測はついていたが、単位も日本人の使用するものと同じで良かったようだ。


「ケイ百人分、ぐらいだろ?」

「え、あ、はい」


 独特な表現をする人だった。


「わかった。もういい、邪魔したな」


 リルリットは、スタスタと部屋から出て行ってしまった。


「あ! ちょっとぉ、リルリット、もういいのぉ? リルリットってばぁ!」


 ン・ケセラもそれに続いて出て行く。


「あ、ケイ君。邪魔しちゃって御免なさいねぇ」


 ただ、扉の前でちゃんと振り返って言うあたり、意外と真面目なン・ケセラだ。


「いえ、気にしないでください」

「そう言ってもらえるとありがたいわぁ。またねぇ」


 今度こそン・ケセラは出て行った。


「何だったんだろうな……」


 よく意図が掴めなかった。だが、考えてわかるわけでもないだろうと割り切ったケイは、考えをこれから始まる会議のことに向けた。


「僕は、どう振舞うべきなのかな?」

 

下出にでるべきなのか、ちょっと高圧的に出るべきなのか。実際に可能かどうかは別として、方針ぐらいは決めておきたいケイであった。

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