ペパーミント恋愛歌
ペパーミントのガムを噛みながら
外国の歌を聴いている
英語「2」の私に理解できるはずもないけれど
ベィビィを繰り返すそれはたぶん
恋愛歌なんだろう
ベィビィ ベィビィ ベィビィ
オー オー オー
それはすがるような声じゃない
怒るような 叫ぶような
傍にいてとせがむような声じゃない
どうして隣にいないのかと咎めるような
強い女性の声
私もこれほど強くあればよかった
「ごめん」と一言しか残さなかった彼に
「どうして?」とさえ訊けないで
私はたぶん泣き出しそうな顔で
なんとか彼を見ることしかできなかった
ベィビィ ベィビィ ベィビィ
オー オー オー
私は何も悪くない
私と別れようだなんて
あなたおかしいんじゃないの
この歌の女性なら
きっとそう言っただろう
味の薄れたガムを噛みながら
真似ごとのように呟いてみる
私が悪かったのなら
そう言ってくれればいいじゃない
きっと努力できたのに
他に好きな女の子がいるのなら
そう言ってくれればいいじゃない
絶対に負けやしない自信があるのに
これは私の言葉じゃない
爽快さの消えた
生ぬるいガムのよう
意思のない
中途半端な言葉だけを
口の中で転がしている
ベィビィ ベィビィ ベィビィ
オー オー オー
一緒になって口ずさんでみる
読めない名前の女性の強い声が
自分のもののように聴こえる
彼からの着信に
携帯電話が震えている
ガムを吐き出すのも忘れて
必死で彼の声に耳を澄ませる
「ごめん」
まったく同じ台詞で
まったく逆のことを言う
彼の言葉
ベィビィ ベィビィ ベィビィ
オー オー オー
「ごめんなさい」
彼がなにかを言う前に
私の弱さが溢れる前に
音のしなくなった携帯電話をただ見つめる
私は少し強くあれただろうか
耳元で響く歌声は
どこか遠くに聴こえてる
ベィビィ ベィビィ ベィビィ
オー オー オー
一緒に口ずさむと
ふいにイヤフォンがはずれて
情けない声と
涙が溢れてくる
弱い私の
精一杯の強がり
味のわからなくなったガムを吐き出して
一人きりで歌おう
弱さを吐き出すように
ベィビィ ベィビィ ベィビィ
オー オー オー
読んでいただきありがとうございました。