死線を踊る Ⅲ
うつ伏せに寝台に寝転がっていたらヌイが心配そうに声をかけてきた。
「まだ痛むのか?」
「……体はなんともねえ」
羅青の能力に準じる体はさすがに治癒力が凄まじい。傷はすぐに治るし、炎症もすぐおさまる。だが――体以外の何かが痛む。
最初に犯されたあとヌイが言ったとおりに体調はよくなった。
胃が小さくなったのと筋力の衰えは仕方ないものの、動いても眩暈がするようなことはなくなった。少しずつ静養するしかなかった。
粥やシチューぐらいしか受け付けなかった胃が少しずつまともになったが、まだ多くは食べられない。筋肉も落ちた分は少しずつ戻ってきている。
ただ、当然の権利のようにヌイが自分を抱くのだけは慣れない。
体ではなく心の方が。
女より確率は落ちるし、変化したばかりではそう簡単には孕まないとヌイは言っていたが――孕むのを恐れながら犯されるってのは、どんな拷問だ。
そんなおり、サリュウが目を覚ましたため遠出できるようになったヌイが近くの村に必要なものを入手するためでかけ――王都の陥落と団長の死の情報を拾ってきた。
いてもたってもいられずヌイの反対を押し切って廃村を出てきたが、集まる情報は――『シエイカ傭兵騎士団』の壊滅と王都の陥落。
クラシードという国は滅んだ。
『シエイカ傭兵騎士団』はなくなった。
これからどうすればいいのか分からない。
まったく、何のために生き残ったのか。
「なあ」
「なんだ?」
「ここらへんは『シエイカ傭兵団』の馴染みだったんだってな」
「? ああ、だからサナミさんがここを防衛線に選んで――」
そこでサリュウはヌイが戦争が始まってから『シエイカ傭兵騎士団』に配属されたことを思い出した。傭兵だったので正規軍から弾かれたのだ。羅青だったこともある。
「そういえば、お前は戦争始まってから入ったんだったな」
あまりにも馴染んでいたので、そうは思えないほどだったが。まるで昔からいたようだ。
「メイリーサって分かるか?」
「ああ。ソージュの故郷みたいなところだ。牧畜が盛んなところで人が少ない」
本当の故郷ではないらしいが、ソージュは昔そこの教会にいたらしい。
「ここの親父さんが言っていたんだがな、そこの教会に体を壊した男と片腕の子供が転がり込んでいるらしいぜ」
サリュウは跳ね起きた。
「行ってみる価値はあるんじゃねえ? 懐かしい顔に会えるかも知れねえぜ」
「なん……」
にんまりとヌイが笑う。
「情けってのは人のためばかりじゃねえんだな。ここの親父さん、昔『シエイカ傭兵団』に命を助けられたんだってよ。そん時の気のいい槍使いの兄ちゃんのことを覚えていたんだそうだ」
『シエイカ傭兵団』はこのあたりで荒っぽいことを専門にやっていた。隊商の護衛やら盗賊団の討伐とか、小さな村の守備員とか。仕事だったが、人の命を助けたこともある。
その中には恩に感じる人もいたということだろう。
「……は……世の中捨てたもんじゃねえな……」
小さな希望が見えた。
その手のシーンカットしたら短くなりました。