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裏切りの報酬 Ⅲ

ちょっと男色が苦手な人にはきつい発想を促す場面がありま腐

 サナミが決めたルートは最短で、途中の兵は向かってくる限りは屍となって転がっている。鮮血で道を塗装しながら一行は先へ先へと急ぐ。

 こちらへ向かって走ってくる三人ほどの兵にサナミが顔をしかめた。男達がラジアの軍服を着ていたからだ。

「お目付け役、と言ったところでしょうか?」

 寝返ったゴルトを信用するわけがない。なんらかの監視はつけるだろう。

 男達が驚愕した。

「羅青族! 羅青族がこんなところに!」

 ヌイが目を見張った。

「お前ら!」

「片付けまぁす」

 ソージュが先頭の男に斬りかかった。

「待て! そいつらは番だ!」

「え?」

 ヌイの絶叫にソージュの剣がわずかにそれて、肩口から入った刃は相手を両断するにいたらなかった。

 ソージュが首をかしげた。

「丈夫ですね」

 丈夫――というものではない。傷が瞬く間にふさがったのだ。切り口があざやかすぎるためふさがるのも早い。まるで最初から傷などなかったかのようだ。しかし防具と服はぱっくりと口を開け切られたことを示している。

「お前ら、誰の番だよ? 三人? そんなに番をほっとくやつなんざ、いるわけが……いや……薄い?」

 ヌイは驚愕していた。ラジア兵から羅青族の魔力を感じたからだ。しかしそれは番というにはずいぶんと薄い。魔力の切れかけだとしても同時期に三人もの番に出会うわけがない。

 ラジア兵もこちらを警戒しているのか剣を向けて距離をとっている。

「番? ――本当ですか?」

 サナミの問いにヌイははっきりとは答えられなかった。

「だとは思うが――ずいぶんと薄い――なんだよ、お前ら?」

 ヌイは戦うことを躊躇した。羅青族としては、他の羅青族の番を害するのは気が進まない。羅青族の番に対する執着はよく分かっている。しかし目の前の男達を番と断定するには魔力の気配が薄すぎる。

「……正規軍の壊滅――そういうことですか――」

 同等の戦力を配したはずのもうひとつのルートがあっけなくラジアに落とされた理由をサナミは察した。

「斬ってもいいですよね? ラジア兵だし、僕達の邪魔するみたいですから」

 ()る気満々でソージュがたずねる。

「待て! こいつら誰かの番だとしたら、後が大変だぞ」

「ヌイは下がってろ。こいつらの相手は俺達がする」

 ヌイを押しのけてサリュウが前に出た。

「サリュウ!」

 番を殺された羅青族の報復を考えヌイは躊躇しているようだが、この襲撃ははっきりいってしまえば早さが命だ。こちらの体力が尽きる前に片付けてしまわねばなぶり殺しにされるのはこちらだ。

「くっ、貴様らのうち誰かが番なのだな」

「舐めるな! 二世代目とはいえ、身体能力は変わらんのだ。たやすく殺せると思うなよ!」

 ソージュに一度斬られた男が切りかかった。

「たやすく死なないのなら――」

 ソージュが神速で切り込む。相変わらず剣筋は見えない。ただ銀の閃光がいくつも閃いたようにしか見えない。男は四肢と頭、さらに胴体を細かく切り刻まれていた。

「死ぬまで斬るだけです。死んだ?」

 いくら羅青族の再生能力でも手遅れだと分かる肉塊となった敵兵にソージュは微笑みながら尋ねた。

「手間をかけている時間はありません。首を落とすか、心臓をやってください!」

「承知」

「はぁい」

「馬鹿な! 我々の能力は番と変わらないはずだ!」

「舐めてんのは、手前らだ! 底上げは同じでも、元が違うんだよ!」

 サリュウは刃に気をのせる。それはソージュも同じこと。気力が尽きない限り気斬の威力は変わらない。斬鉄さえもできるほどの切れ味を見せる。

 だが――相手はその極意までは達していなかったようだ。ソージュに切りかかった男は刃に気をのせていなかった。

「おぉおお!」

 狙い違わずサリュウの槍はラジア兵の胸――心臓を貫き、ソージュは残りの一人の首を刎ねた。


 ぺろりとヌイがラジア兵の死体から流れる血を舐めた。

「こいつもか……」

「やはり?」

「ああ――番にしては魔力が薄すぎる。妙な味だ」

 ヌイは考える。いや、心当たりがひとつある。

「二世代目……そう言っていましたね」

 サナミがラジア兵が口にした言葉を呟く。

「サナミさん、血、少しくれ」

「は?」

 ヌイの唐突な頼みにサナミが首をかしげた。

「なんてことを言うんですか、ヌイさん! 血ならそこら辺から好きなだけとればいいでしょう!」

 憤慨するソージュをサリュウが押しとどめた。

「なにか心当たりがあるのか?」

「まあな――」

「血、ですか」

 サナミが軽く指を傷つけ――目を見張った。ヌイがサナミの手首を掴んで引き寄せ、わずかに滲んだ血を舐めた。

「傷が――ふさがりました?」

「やっぱりか。あんたから羅青族の魔力を感じる。こいつら同様かなり薄いが――」

 一瞬時が凍りついた。

「ええぇえええ! ヌイさん! いつの間にサナミさんまで番にしたんですか! 酷いです!」

「してねえよ!っつか、なんであんたから羅青族の魔力がしてんだ? おかしいと思ったんだよ、平気でこいつらについて来ていただろう?」

「あ――」

 元から羅青族であるヌイはともかく、番――半羅青化したサリュウとソージュも今現在その身体能力を底上げされ、とても普通の人間ではついていけないほどの早さがある――サナミはそれについていけていた。そして、今現在も疲労を感じていない。

 半羅青のように。

「迂闊だったぜ。より強い魔力を感じるサリュウとソージュが近くにいたから、あんたからする羅青の魔力に今まで気づかなかった」

 思い起こせば、あるときから急に体調がよくなったことをサナミは思い出した。

 ヌイの体液には触れた覚えはないが――

「ヌイ君――」

「なんだ?」

 サナミの問いかけにヌイは応えた。

「番は羅青族の体液に含まれる魔力によって肉体を変えられてしまう。そうでしたね?」

「ああ」

「子を産めるように、というのはともかく、老化や筋力などの身体能力、治癒力などが羅青族に準じるものになる――ならば、体液はどうなります?」

「なに?」

「あなたは血の中に羅青族の魔力を感じたのではありませんか? つまり番の血の中にも魔力はある――ならばそれを取り込んでしまったものは? 羅青族が人を番に変えてしまうように、番になったものの体液に含まれる魔力もまた人の体を変えてしまうのではありませんか?」

 ヌイが目を見張る。しばらく身動きすらしなかった。やがてゆるく首を振った。

「分からねえ……聞いたことはねえが――それって、番に浮気されたってことだぞ。あっても誰も口外しねえよ、そんなこと」

「あ~、そういう感覚なんですねぇ」

「じゃあ、ソージュのことは本当に不本意なんだな、あいつにしたら」

 番にされた張本人達はなんとなく人事のように聞いていた。

「って、サナミさん、あんた小僧の血でも舐めたのか?」

 その瞬間、サナミとソージュがそろって赤面した。

「い、いえ、血は……」

「突っ込むな! そこは流してやれよ! 追求してやるな!」

 疑問を口にするヌイをサリュウが止めた。

 とりあえず、なぜサナミが半羅青化したのか分かったので。

 男として二十数年、大人の世界を色々と知っていたので。

「え?」

 ヌイは分かっていないようだった。

(そうか……知らないんだな……まあ、知っていたら番が量産されているか……)

 そういうやり方のことをヌイにどう説明したらいいのか、サリュウは悩んだ。

 実演はしてやらん。無理。まだ無理。

「しかし、まあ、どこのどいつだ? こんなに派手に番に浮気されているやつは」

「いえ、これは番の性質を軍事に利用したと見るべきでしょうね」

 羅青族ゆえの意見をサナミは修正した。

「ラジアはこんな隠し玉を持っていたんですね」

 ラジアにこんな形で味方する羅青族がいるとは思わなかった。二世代目――という名称から考えるに番から体液を与えられたものだろう。

 たぶん、血のほう。

 もうひとつの方は――男が口にするにはあまりにも――たとえそれで超人的な能力を得られると分かっていても普通は無理!

「ヌイ君、たとえば私の血でも変えられますか?」

「いや、それはねえな。魔力が薄すぎる。あんたやこいつらも番とはいえねえぐらいにしか変わってねえ」

 ぐしゃりとヌイはソージュが細切れにした男の胴体を弄る。

「見ろよ、子供を育むはずの器官が発生してねえぞ。こいつらは子供を産む能力がねえ。たぶん、サナミさん、あんたもだ。大事な部分が欠損している。身体能力や治癒力は番でも、その時点で番とはいえないな。血の魔力も薄すぎる」

「それは僥倖」

 子を育む器官がないから番特有の発作も起きないのだろう。

「なんでだよ!」

 番のなりそこないだとヌイは憤慨した。子を産む能力は番として大事なものだと羅青族は主張した。羅青族としてはそうだろうが――

「いえ、軍事に利用するには「子を産む能力」はいりませんからっ! むしろそのほうが好都合ですっ! 三世代目は作れないということになりますし」

 何人の羅青族が協力し、何人の番がいるかは分からないが、そこから直接二世代目にされたものだけを警戒すればいい。

 複雑な顔をしてソージュが自分の腹を撫でた。

「赤ちゃん育てられる器官、ここにあるんですね」

「……気にするな……気にしたら死にたくなる」

「いえ、ただ、月の障りとかきたらどうしましょう?」

 ソージュは恐ろしく真剣だった。

 さすがにサリュウも顔を強張らせた。男に生理とかあり得ない。しかし子を産む器官があるのなら、その可能性は捨てられない。

 思わず自分の腹を押さえた。

「……い……今のところ、きたことないぞ……」

 きたらどうしよう。男に生まれたからには無縁だったはずの問題に番にされた二人は悩んだ。


 その小部屋は突き当たりの部屋で特になんの貴重品も置かれていないはずだった。

 ゴルトはその部屋に逃げ込んで暖炉に駆け寄った。

「そこまでです」

 ゴルトの首筋に剣が当てられた。涼やかな声は――

「さ、サナミ! 生きていたのか!」

「ご無沙汰です。私、あなたにお聞きしたいことがいくつかありまして、こうして参りました――質問に答えていただけますね?」

「なぜここに!」

「この小部屋に抜け道があるからですよ。建物の構造上、妙に空間が開くところがありまして、隠し通路や外への抜け道ではないかと思っておりました。こうしてあなたがこられたところを見ると、正解だったようですね」

 外観と内装を比べると妙に空間の開くところができる。そこまで壁を厚くするはずもないので非常用の脱出通路だとサナミは睨んでいたのだ。

 ゴルトが振り向けば部屋の中にサナミを初めとして四人の男が潜んでいた。『天剣のソージュ』と見たことのない若い黒髪の男と羅青族。

 ソージュは切り落とされたはずの左腕があった。

「どうやってここに!」

「我々には素晴らしい特技を持つ友人がおりますので、連れてきていただきました。後は力押しです。さて、私がお聞きしたいのはいくつかありますが――まずは何人の『シエイカ傭兵騎士団』の者を生かして捕らえました?」

 ゴルトが答えないと、サナミが剣を振るった。

「ぎゃああぁああ!」

 ゴルトの左の指が一本、縦にさけた。

「答えは?」

 ゴルトは今度は答えた。答えなければ別の指も切られていくと悟ったからだ。

「では、生き残ったものはどうしました?」

「ラ、ラジアの軍隊に引き渡した」

「どこに連れて行かれたか分かりますか? それとも、全員殺されたのですか?」

「だ、だいたいの兵は他の兵と同じあつかいだった。ただ、小隊長のシンマという男だけは別に護送された」

「どこへ?」

 ゴルトが必死に首を振った。

「し、知らない! ただ、正規軍を破った部隊が連れて行ったとしか――」

「その部隊とは――ここにいたラジア兵と同じ部隊の人ですか?」

「そうだ、薄気味悪い……」

「その部隊について、知る限りの事を教えていただけますか?」

「隊長はセオリスという男で――」

 そのセオリスの使いがゴルトに接触してきたのだという。正規の騎士団を壊滅させた部隊に傭兵が敵うはずがない、と囁いたのだと。

 その後もサナミはいくつか質問を重ねた。

「『シエイカ傭兵騎士団』の隊員の亡骸はどうしました?」

「穴を掘らせて、そこに埋めた。ここから少し行った丘だ」

「ありがとうございました。私からの質問はもうありません」

 にっこりとサナミが笑っていうのでゴルトも安堵して息を吐いた。

 これで命だけは助けてもらえるのだと。

「ソージュ君」

「はい?」

「謀殺された隊員の無念を晴らしてください」

「はぁい」

 『天剣のソージュ』は花のように笑った。

 無数の銀線が閃きゴルトは細かい肉片となった。

 ソージュが顔をしかめる。

「殺された隊員の数だけ斬ってやろうと思ったのに、さすがに無理でした」

「それは次の機会にとっておきなさい」

 これは単なる前座。

 本当の敵は別にいる。

「はぁい」

 サナミの言葉にソージュは屈託のない笑みを浮かべた。


 壁が吹き飛ばされ、そこから強風が飛び出した。そこに青い髪の羅青族と『シエイカ傭兵騎士団』の隊服を着た男達がいたのを多くの人間が目撃した。

 領主が細切れの肉片になっているのが発見され――この一件は謀殺された『シエイカ傭兵騎士団』の復讐だと――やがて吟遊詩人に語り継がれるようになった。

二世代目。そういう人達です。もっと後に説明するつもりだったんですが、なんか見抜いている人多いもので(笑)


実演はしてやらん(笑)

サナミさんが何をしたのかはR18方面でご確認ください。


男の月経……安心してください。きませんから。

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