第一話~王子様が現れた!!~
久しぶりの恋愛小説!
どうか読んでください。
「姫様!朝でございます」
ここはファールベル城。メイドのランドンは姫のレーリヌを起こしに来たのだが、姫の眠っているはずのベッドには、脱ぎ捨てられたネグリジェがあるだけだった。
「あー!また姫様がいない!どこへ行ったのかしら?」
広い部屋には、ランドンの叫びが響き渡っただけだった。
「もうすぐ結婚するというのに……」
レーリヌ・ファーベルは、水色の髪を腰まで伸ばし、大きな瞳が印象的な可愛い少女だ。ただし、一見は。性格はというと、決めたことは譲らないし、毎日のように城から脱出する……などなど、迷惑なお姫様なのだ。
だから、周りからは煙たがられていた。正当な扱いをしてくれるのはランドンだけだった。レーリヌは薄々気づきかけていたが、ずっと知らないふりをしていた。
そんなところに隣国のアードワ国から、結婚の話が持ち上がった。何でも国王のバーギナル王がレーリヌに興味を持ったからだ。この縁談にファーベル側はもちろん承諾。よって、結婚することになったのだ。バーギナル王の息子は二十一歳で、レーリヌとは五歳差だ。まだ、顔は見たことは無いが、レーリヌは理想の王子様像を思い描いている。
レーリヌの趣味は読書で、城の中での唯一の楽しみは結婚相手を想像することだった。
黒髪で、一瞬冷たいような印象を受けるけど、本当は優しい……。みたいな想像。まぁ、期待などしていないのだが。
今日は、市場まで来た。明日、嫁入りなので長年暮らした街をもう一度きちんと見ておきたかったのだ。ランドンに迷惑をかけるが、これで最後、そうつぶやいて、ぶらぶら歩いていた。市場は野菜や、果物、洋服などの屋台が並んでおり、人々の声が飛び交い、一番人通りが多い場所と言える。
その時、前から来た人にぶつかった。
「あ、すみません!」
勢いよくぶつかったせいで、転んでしまった。
ぼーっとしていたせいだろう。日ごろから気をつけろとは言われているが。
「いや、こちらこそ前を見ていなかった。すまないな」
上からの冷静な声につられ、顔を上げるとそこには――。
「えっ……」
まさにレーリヌの思い描いていた王子様がいた。黒髪、面長の色白な顔に、細長の青く澄んだ瞳、スッと通った鼻筋、形の整った唇。顔は合格。
身長は並の人より高いと言える。体つきも良さそうだ。
(これは私の運命の人だ!)
そう思ったレーリヌを止められるのは本人だけである。
「今初めて会いましたけど、私あなたに一目ぼれしました!」
レーリヌは王子(レーリヌだけの愛称で名前は知らない)の手を握り、興奮したように喋りだす。言われた本人も、横にいる執事(?)もびっくりしていた。
言われた本人は、耳まで真っ赤に染め、
「せ、せっかくの告白だが、俺には婚約者がいる。すまないが、断る」
「そうなんですか。実は私も婚約者がいるんですよね」
「はっ!?」
レーリヌの爆弾発言はかなり効果があった。
「婚約者がいながら告白したのか?」
「ええ、あなたがどうしても素敵だからです」
レーリヌはにっこりとほほ笑むと、そう告げた。周りの人間たちからは白い目で見られている。こんな目を気にしないのは、迷惑姫ことレーリヌのいいところだ。
「レン王子、そろそろお時間が……」
執事が遠慮がちに声をかける。
「もうそんな時間か」
レン王子と呼ばれた人物が呟く。
「では。また機会があれば」
そう言い、レーリヌから離れて行った。
「まぁ……」
レーリヌは、ほぅ、とため息をついた。あんなにかっこいい人、初めて見た。あの人と結婚できるなら、今の婚約を破棄したいが、そう上手く行くわけもない。今日のことは絶対忘れないだろう。レーリヌは満足して、城へと帰って行った。
「本当に王子様だったわ。ランドンにも見せたかった」
「私も見たかったですよ~」
夜、眠る前に髪を乾かしてもらいながら、今日のことをレーリヌはたっぷり語った。ランドンは久しぶりに嬉しそうにはしゃぐレーリヌの姿に喜びつつ、明日からは姫様はもういないんだな、と思うと寂しくなった。
「姫様~、明日でお別れですね。私、悲しいです……」
「ランドン……。そんなこと言わないで。私まで涙が出てくるわ。大丈夫よ。まだ明日の朝があるんだから……」
レーリヌは悲しそうに顔を歪めた。ファーベル城を離れることで唯一悲しいこと、ランドンと離れることだった。
「おやすみなさい、ランドン。今日は最後だし、考えたいこともあるの……」
「はい。もちろんです。では明日……」
レーリヌは天蓋つきベッドに寝転がり、「考えたいこと」を考えた。それはもちろん、明日の嫁入りのこと――ではなく、レン王子のことだ。あんなかっこいい人、そうそういない。あそこでゲットしとけばよかったものの……。
でもそう考えても、無理である。もう手遅れだ。レーリヌはため息をつくと、深い眠りに落ちた。
翌朝、目覚めると、嫁入りの準備をし始めた。昨日やっておくようにと言われていたが、すっかり忘れていた。でも持っていくものなんて、対して無い。コレクションの小説と生活するうえで必要なものなど。ここまで持っていくものが乏しいとは自分でも思っていなかった。結局荷物は、愛用の少し大きいバックに荷物を入れた。
部屋を出ると、ランドンが目を赤くして待っていた。
「ランドン……」
「お荷物、お持ちしますね」
いつものように笑うと、レーリヌを引き連れて、外に出た。外にはファーベル一族が勢ぞろいし、街の住民たちも来ていた。
「結婚おめでとう、レーリヌ」
「……」
レーリヌの嫌いな親、この国の王、つまりは父親。この人とは最後まで分かり合えなかった。まぁ、分かり合いたくもないのだが。
「まぁ、返事をしないなんて、礼儀がなっていないわね」
母親が大げさな声を上げる。だが、レーリヌは何を言われても無視。そう決め込んでいるのだ。
「全く、ファーベル一族の恥――」
「では、さようなら」
律儀にもスカートを持ち上げ、まだまだ続きそうな母親の小言を遮る。母親がわめいている。良かった、とレーリヌは思った。あんな馬鹿な人達と離れられて。
「姫様、また」
「ええ、お会いしましょう」
ランドンに渡されたバッグを持って、バーギナル王からの迎えの馬車に乗り込む。綺麗に装飾されており、少し驚いたが、顔には出さずに乗り込む。
その瞬間、うるさいぐらいの拍手が聞こえる。誰も好意で送ってくれたわけではない。やっと出て行ったくれたことが嬉しくてしょうがないのだ。
レーリヌは耳を塞いだ。
やがて拍手も聞こえないようになり、レーリヌは落ち着いて窓の外を眺めていた。隣国と言ってもそんなに近くはない。今はまだ、祖国の見慣れた風景が広がっている。だだっ広い領地に、大きな川があるだけの平凡な国。至って面白いことは無い。レーリヌは目を閉じた。
「レーリヌ様、ご到着でございます」
「ふぁ……。あら、もう着いたんですの?」
執事に手を取ってもらい、バーギナル城を眺める。ファーベル城より大きく、美しい。レーリヌはあまりのことに、しばらくボンヤリと城を眺めていた。
「レーリヌ様、行きましょう」
執事に声を掛けられ、ハッとする。呼ばれなければ、ずっとボンヤリしているところだった。危ない、危ない。
執事に案内され、大広間に向かった。ここにレーリヌを気に入ってくれたバーギナル王と、夫となる人がいる。そう思うと、不思議とドキドキした。
「こちらでございます」
執事が大広間の扉を開けた。そこには――。
「えっ!?」
そう、そこには忘れもしないレン王子の姿があった。王もいるんだけど、レーリヌは失礼な話だが、レン王子にしか、目が向かなかった。
「あの時の……」
「なんだ?知り合いか?」
バーギナル王が微笑む。温厚そうないい人だ。
「別に知り合いではない。昨日たまたま会って――」
「まぁ、憶えててくれたんですの?」
「つい昨日のことだ」
確かに言われればそうなのだが、レーリヌにとっては憶えていてくれたのはとても嬉しかったのだ。
「でも、何の用が隣国にあったんですの?」
一番気になるポイントを聞いた。まさか、レーリヌに直接会いに来たというわけではないだろう。
「花嫁になる人を見に行こうと思っていて……。予定が崩れたが、まぁ、結局会えたから、良かった」
「私に会えて、良かったと思ってくださるの?」
それはなんて嬉しいことだろう。本当に運命を感じる。
「息子をよろしく。ええと、レーリヌさん、かな?」
「ええ、そうですわ。レーリヌ・ファーベルですわ」
バーギナル王に言ってもらい、やっと自己紹介ができた。レン王子は困惑したような表情をしている。困惑しているということはそれだけ、レーリヌが今まで出会ってきた人の中で一番印象を残しているということだ。
「これからよろしくお願いしますわ。旦那様」
「旦……那……様?」
かなり面食らった様子だ。これからの生活、楽しくなりそう!
読んでくれてありがとうございました。
レン王子が少しヤンデレになるのは時間がかかります。
次回はもっとハイテンションで行きたいと思います。
よろしくお願いします!