黄昏の欲しがり妹
非常に遺憾ながら、お姉様の婚約式の日に私は屋敷に突入することになった。
一人ではない。近衛騎士団一個梯隊、1000人と共にである。
門のところで一悶着があった。
「ヒィ」
「騎士?何故?」
「野戦服の騎士だと」
執事長がゆったりと出てきた。
「どこのご家門でしょうか?この家は王国が誇る慈愛の令嬢グレーヌ様のお屋敷であります。大公家のご子息とご婚約をされます。どこかとお間違えではないですか?」
背筋をピンと伸して言った。どこかの家門の子息がグレーヌに横恋慕して婚約を阻止しようと兵まで出したと思ったらしい。
しかし、こちらのお相手は大公家だと誇らしげに言う。
これで引くと思ったのだろう。
執事長・・・・記憶にある。
『メアリー様、どうして、お母様を突き飛ばしたのですか?』
『してないの~』
『ほお、五歳年上のグレーヌ様が嘘をついたと?』
私の顔の記憶がないと見える。まあ、あれから10年後だ。私は聖女服の野戦服だ。これがユニフォームだった。地味な茶色な服だ。戦場だときらびやかな聖女服は魔族の的になるからだ。
私の傍らの騎士団長は宣言する。
【王命である!モア伯爵夫人フレンデル様の治療及び10年前の事故の調査を行う!治療を請け負うのは王国聖女メアリー様である。王命代読、近衛騎士団長ワルダー・ザイツ!】
執事長のその誇らしげな顔が一瞬で曇った。
チラチラアチコチを見る。
「えっ、王家?」
だから、私は。
「時間がない。速やかに殴打!」
「「「畏まりました」」」
「うわ、通すから、通すから!グギャー!」
恨みがあったからと問われれば否定出来ない。あいつ、5歳だった私に8時間も尋問をした。
庭を抜ける・・・
ここは・・・私が遊んだ場所だ。ここでニケちゃんに出会った。つい最近まで苦楽を共にした猫ちゃんだ。
享年10歳は超えていただろう・・・
そして、屋敷の大広間に押し入る。
「ヒィ!」
「王国・・・軍旗?」
「まさか、グレーヌ様の婚約をお祝いに・・・」
人がごった返している。その先に階段がある。
この階段を登ればお母様がいるはずだ。
ここで私は名乗りをあげた。
「元モア家、第2子、メアリー、現王国聖女メアリー・フォン・ノース。王命である。そこをどけろ」
すると、私を知っている使用人たちは驚愕の顔をした。
見覚えがあるようだ。
「メアリー様が、王国聖女?」
「あの暴力症の?」
「うそ・・・正義はどうなっているの?」
お姉様が出てきた。王国一の慈愛の令嬢、植物状態の母を看護し、暴力症の妹を見捨てずに世話をし。欲しがりにも快く答えた奇跡の令嬢との噂だ。
嘘つけ。少なくても私は10年前に出奔している。私に罪を着せたくせに・・・・
「メ、メアリー?王国を騙したのね。ああ、お母様の魂だけではなく、私の婚約者も欲しがるのね。グスン、メアリー、これは・・・グアアアアアーーーー!」
聖魔法をかけた。これは嘘判別魔法だ。嘘を言うと苦しくなる。
だが、今はどうでも良い。
震える婚約者は抵抗せずに道を空けた。
「メアリー様!一人は危険です」
「行くわ!」
階段を登りながら過去が走馬灯のように浮かんで来た。
☆☆☆
私の名はメアリーだ。そこら辺にある名前だ。お父様は男の子が欲しかった。お姉様が生まれた後、5年かけて生まれたのが私だったので失望してなおざりに名をつけたようだ。
しかし、お母様は愛してくれた。
「お母様!報告があるの~」
「まあ、何、メアリー?」
階段の上にお母様がいた。
私は駆け寄る。
「まあ、走ったら危ないわよ。私が行くから」
「はいなの~」
お母様が身を乗り出したときに・・・何かに押された。
「キャアアーーー」
「お母様!」
お母様は頭から落ちた。その瞬間、絹を切り裂く悲鳴が聞こえた。
「キャアーーー、メアリー、何てことを!!」
お姉様だ・・・
お姉様はお母様の後ろにいたわ。
お母様は頭部を強打。植物状態になってしまった。
お姉様は私がお母様を押したと主張した。
私は否定したが、子供が大勢の大人に囲まれて何時間も聞かれれば・・
「押していない証拠を出しなさい!」
「ないの~」
と答えたら、押したになり。
5歳の私は軟禁されるようになった。
時々、お庭に監視付で出されるくらいだ。
「ニャ、ニャ!」
「猫ちゃん」
猫が足を引きづっていた。私を見て警戒する。
監視のメイドと従者は・・・
イチャイチャしている。
私は目を盗んで治療した。
ピカッ!
このときは、手をかざすと動物が治るぐらいにしか思っていなかった。
リス、小鳥を治せた。お母様に報告しようとした矢先、あの事故が起きたのだ。
「ミャア!」
猫はそのまま去った。まあ、猫はこんな感じだ。
「メアリー様、部屋に戻りますよ」
「はい」
それから噂が聞こえてきた。
母親の愛を独占できないから、思いあまって押した。
姉を可愛がる母親を恨んで押した・・・・
暴力症で治療も出来ない。屋敷で生涯軟禁される。
しかし、お姉様は健気にも私を庇う。
嘘つけ。どうして階段の下にいた私がそんなことを出来るのか。
「ミャン、ニャー」
「猫ちゃん」
すきまだらけの離れに猫ちゃんがネズミや昆虫を持って来てくれるようになった。治療した子だ。
唯一の理解者だ。
「食べられないの~、でも有難うなの~」
名前はニケちゃんにした。
女の子だ。
どうにかしてお母様に会えないか。会えたら治療できるかもしれない。
そんなとき、お姉様が頻繁に会いに来るようになった。
私はお姉様に話した。
「メアリーは人を治すことが出来るの~」
「フフフ、知っていたわ。あなた、小鳥を治しているところ目撃したわ。いいわ。話してあげる」
「本当なの~」
「そうよ。猫飼っているでしょう。猫用のご飯も持ってきたわ」
「ありが・・・」
言葉を失った。
お姉様が持って来た小魚は・・・目をこらすと黒い靄が出ている。
「シャアアアーーーーー」
ニケちゃんもお姉様を警戒している。
まさか、この屋敷の小動物は怪我をしている子が多かったけど、お姉様が・・・
「あら、嫌われちゃったわね。小魚、メアリーからあげてね」
・・・・・・・・・・・・・・・・
私はお母様の寝室に到着した。
「ヒィ、何を!キャー!キャー!」
慌てるメイドを退け。ベッドで横になっているお母様の額に手をあてる。
緩やかに聖魔法を流し、体を精査する。
遅れて来た騎士たちに命令を下す。
「そのキャーキャー言うメイドを外に、人払いをして」
「「「畏まりました」」」
集中する。私はこのために戦場に出て人を治しまくったのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
私はお姉様の正体が分かってから、屋敷を出た。ニケちゃんの先導つきだ。塀に小さな穴があった。
そのまま、傭兵ギルドに向かった。
王国は北方の魔族と断続的に戦争をしている。
「傭兵ギルドに登録したいの~」
「ニャン!」
ヒゲだらけの傭兵ギルマスは笑った。
「お嬢ちゃん。帰りな。ここは猫を抱いた幼女がくるとこじゃねえ」
「メアリーは回復術を使えるの~、戦場で治療をやるの~、お金と知識を蓄えるの~」
「はん。じゃあ、おい、ハンス、その疱瘡を治してもらえ、もし、治せたら、俺は裸で逆立ちをして町を一周してやる」
・・・・・・・・・
「おい、ギルマスが裸で逆立ちしているぞ!」
「な、何だ」
「キャアー、変態!」
「うるせー、仕方ないだろう!」
「分かってもらえたら良いの~」
初手何とかなった。
回復術士は不足していた。
5歳でも能力があれば採用された。
傭兵ギルドは身上を探らない。ただ、名があれば良く。求められるのは才のみだ。
私は治療しまくったが、ここで前世の知識を使った。
「患者しゃんの腕に布をまくの~、重体は赤い腕章、その次は白!軽傷者は青なの~」
「「「「はい」」」」
重体者に貴重な回復魔術を使うべきだ。幼女の体力はたかが知れている。
人体図は前世の知識で薄らとある。
そして、時間のあるとき、損傷の激しいご遺体を借り受け。解剖をした。
「ヒィ、何てことを・・・」
「ウゲーーー」
周りから非難囂々だが、構うものか。
人体の構造を頭の中にたたき込む。
すると、回復術がみるみる上がって来た。
「え、骨折が瞬間で治った」
「すげー」
「もしかして・・・聖女様」
誰かが聖女と思ったらしい。しかし、遺体の解剖は聖女らしくない。
「聖女なんて、どうでも良いの~」
「ニャ!」
10年、ここで腕と知識を磨いた。
戦線は縮小し。怪我の治りが早い我がノース王国が勝利したらしい。
将軍達は大喜びだ。
だが、
「ニャー、ニャン」
「ニケちゃん」
ニケちゃんの元気が無くなってきた。
聖魔法が効かない。寿命か。
私は膝抱っこをしてお見送りをした。
悲しみにくれていると王宮に呼ばれた。
「メアリー殿、王宮にこられよ。王国聖女の称号を与える」
「はい、承ります」
王宮で陛下に謁見した。
「ほお、腑分けの聖女と聞いたが美しい。何か理由があるのだろう。何なりと褒美を申し出るが良い」
「では、私の母を治療させて下さい!」
「何か事情があるのか?理由を始めから話すが良い」
陛下は快諾し。一個騎士団をつけてくれた。
モア家には調整無しだ。時間が欲しい。
それに証拠を消すために姉が何をするか分からない。
・・・・・・・・・・・・・・
ピカ!とお母様は光に包まれた。
どうだ。効け!効け!効いて・・・・
だめ?何が足りないの・・・
「グスン、まだ、修行が足りない?」
「あら、メアリー、報告って何かしら」
「お母様!」
上半身を起してお母様は10年前の会話を続けた。
「メアリー、随分とお姉さんになっていない?」
「お母様、分かるの~」
10年越しの報告が出来た。
それからお母様は厳しい顔になった。
「グレーヌはどこ?あの子、私を押したのよ」
私はお母様と共に王宮に行く。
まだ、治療が必要だ。
お父様は謹慎、大公家と破談になり。これから莫大な賠償金を払うと予想される。お姉様は騎士団で取り調べ中だ。
今までのメッキが全て剥がれて、可哀想な健気な姉から、暴力症の診断が下された。
つまり、サイコパスだ。
自分の承認欲求を満たすためにあらゆる人を犠牲にする。たとえ自分の母や妹でも。
可哀想な自分を演出していたのだ。
今はお母様の車椅子を押しながら王宮の庭で夕日を見ている。お母様はお父さんと離縁し、今は王宮預かりの身分をもらった。
「メアリー、何が間違っていたのかしら」
「お母様は何も間違っていないの~」
「ニャ、ミャン!」
ニケちゃんの息子、ゴロー君がお母様の膝に乗った。
「あら、可愛い子ね」
「ニャー!」
「気に入ってくれて嬉しいの~」
あっ、お母様の前では幼児の話し方だ・・・しばらくはそれで良いだろう。
黄昏ながら、このまま穏やかに暮らせれば・・・それだけが私の欲望だ。
最後までお読み頂き有難うございました。




