任命式
エルフの使節を乗せた船が、静かにやってきた。三角形の帆が2枚。月明かりに照らされて、優雅な姿を浮かび上がらせていた。やがて城に隣接する岸壁に接岸した。「迎えに行きますかね。」ルドルフは面倒そうに立ち上がり、廊下を歩き出した。「彼等は、形式ばかりで面倒なんですよ。オマケに策略好き。ハジメ気を付けるですよ」後ろでダミアがニヤニヤしている。「別れた女房の故郷を悪く言わない。」「酷い事を、若気のナンタラ、遠い過去の話ですよ」
岸壁に繋がる廊下の両側に、沢山の鎧が並んだ。なかなか壮観な眺めである。やがて鉄の扉が開いて、エルフの騎士団が入城してくる。10人ぐらいか、若い女性剣士も数名まじっていた。「御招き、光栄です・・・・・」そんな形式的挨拶を交わしている。
ハジメは、エルフの騎士団が下げている武器を眺めた。細身の剣が多い。数名サーベル。なかなか綺麗な装飾が施されている。(俺の軍刀も鞘を赤にしてみるか)
式場に入り、形式的な任命式。双方のサインと、血判が施されて、最後にハジメのサイン、血判を押して終わりになった。
「さあ、軽い食事を準備しております。こちらにどうぞ」ルドルフは、一行を引き連れ食堂に向かった。
大体、腰に得物を吊っている奴が集まると、腕の自慢が始まる。どうも世界が変われど万国共通のようだ。エルフの騎士の腕自慢が始まった。(黙ってたら、男前なんだが)と、思いつつ端の目立たぬ所に座った。
「貴方の剣、見せて頂けます?」一人の女剣士が、話しかけてきた。お願いなのだが、随分と威圧的な声だ。貴族のお嬢様なのだろう。ハジメがゆっくりと見上げると、高慢そうな顔がみえた。「いえ、たいした物じゃ無い。無名の古刀を直した物ですよ。」事実、彼の軍刀は師範が持っていた古刀を、仕立て直した物だった。「良く切れそうね。でも少し寂しいわ。」軍刀を返しながら、彼女が答えた。確かに彼女の腰に下げた細身の剣は、柄に宝石が、鞘に金箔で装飾がされている。「とても綺麗な剣ですね。チョット俺には、似合無いかな。」ハジメは、もう少し上げとく事にした。「とても、似合ってますよ。」エルフの、そんな事当然よ。みたいな顔を見ながら、ため息をついた。
料理もそろそろ無くなり、一段落ついた頃、ハジメに自慢話しをしていた女剣士が、不意に、大きな声で「新しい騎士の剣の腕前、見せて頂けます?」
これには、ハジメもビックリして、顔を上げた。
思わずダミアを見たが、助けを出すつもりは無さそうだった。
部屋の中が片されて、即席のリングが出来る。騎士団長が、双方の武器の刃にクッションの魔法を掛けた。「実戦形式でいいか?」騎士団長の問いかけに、「いいわ。それで行きましょうか。手加減しないわよ。」不気味な笑顔を浮かべた女剣士が、ゆっくりと中央に歩いてきた。「どうする?負けた方が、社交的なのか?」思わずダミアに聞いてみた。「いいんじゃない。叩き切れば。切れればの話だけど」と、無責任な答えが帰ってきた。ハジメは、頭を振りながら、リングに入って行った。
試合は、投げた金貨の落下音で始まった。相手は剣をゆっくりと抜き、構えた。ハジメは、ゆっくりと間合いを開けると、少し腰をおとす。(大口叩くだけあるな。隙がない。少し揺するか)ハジメが少し肩を動かすと、その刹那速い突きがはいった。なかなか綺麗な突きだ。少し体をひねり突きを避けた。
今度は相手が、間合いをつめてきた。(今度は、外さないか。)ハジメは、少し腰をおとして、相手の胸、足を見た。少し足が動き、息が吸い込まれる。(今!)飛び込み、軍刀を抜きざまに胴体を払い、振り向き様に、袈裟切りにした。女剣士が崩れるように、倒れこんだ。「勝負ありね。部屋に御案内します。早く手当を。」ダミアが目で合図を送ると、メイドの一人がエルフの騎士団を案内する為、進み出た。「どうぞこちらへ。」ハジメは、最後の一人が退出するまで見送った。