航空艦
三日ほど、ゆっくりしたおかげか、体が随分とかるくなった。(すっかり体が、なまってしまった。)早速、埃をがぶった軍刀を引き出して、型の通り素振りを始めた。7歳から始めた剣道、腕前は師範の御墨付きだ。一通り振り終わり、汗を拭いているとノックの音とルドルフの声がした。「ホホ、どうかね、ここの居心地は?何か問題はないかな?」水差しからグラスに水を注ぎ少し飲んで、息をととのえた。「どうぞお入りください、何も有りません。よくして頂いて御礼の言葉も有りませんよ」ルドルフは、一瞬鋭い眼差しで見渡すと、またとぼけた顔に戻した。(基地の司令に似ているな)ふっとそんな事を考えたが、思い直し首をふった。(ここはビルマじゃない) そんな様子を悟ってか、ルドルフが話を切り出した。「実は見て欲しい物がある。とても大きく巨大な飛行艦でな、これを浮かせる事が出来ればとても有難い。」何時も似なく真顔で言われた。
「取り敢えず、支度をして出掛けましょうか。見て見ないと答えも出ません」壁に掛けられたシャツと乗馬ズボン飛行ブーツを身に付けると、ルドルフと共に、廊下を歩き出した。
ドンドン階段を下り、やがて大きな扉の前に来た。扉の警護をしていたらしい4体の鎧が、ゆっくりと後ろに下がる。「ここに、そいつがある。ハジメ殿見てもらえるか?」ルドルフは扉に指輪を押し当て、掛けてある魔法の結界を外した。
部屋の中はとても広く、ハンガーになっていた。真ん中に見た事もない形の航空機が置いてある。思わずハジメは、ため息を漏らした。確かにデカい。今まで見た爆撃機より、確実にフタまわりでかかった。「少し時間が欲しい。レバーやハンドルなんかの確認して、整備しないと。どれくらいココに置いてある?」機体に付いた埃を払いながら尋ねる。「かれこれ60年ぐらいかの、姫様が小さい時に何回か飛んだきりだ」ルドルフはそう言って、ハッとする。ハジメは思わず眉をひそめる。「なあ、ルドルフさん、姫様何歳?俺の頭が酸欠でなければ、60超えてない?」ルドルフはため息を漏らした。
「吸血鬼の寿命はとても長い。人間にとって長い時間でも、彼等にとってはほんの一瞬。姫様はまだ若くて、娘盛りさ」
ハジメは、ランプの灯りを頼りに、機器類の点検を進めていく。よく考えられた作りで、てこやワイヤー等少しの力で各舵が動くように出来ている。
(よく考えられた作りだ。これなら飛ばせる。)
だが、肝心のエンジンになると、困ってしまった。メーターの読み方が解らない。水平儀や傾斜計 高度計なんかは、簡単な構造の物が付いていた。
1週間ほどかけ、埃を払いワイヤー等の調節、グリスの差し替えの結果、機体は見違えるほど綺麗になり、明日は初飛行まで漕ぎ付けた。