表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の運送屋  作者: JUN
38/38

難民船

 港の警備隊からは、盛んに信号灯で連絡を取ろうと、ランタンのシャッターを鳴らしている。「連絡不能。あと、二時間位で来ます。」伝令が駆け込んでくる。「ラッパを。総員起こしで。」けたたましいラッパの音色と共に、装備を持った兵士が持ち場に付いた。「とうとう来たか。風が悪いので少しかかるな。」ピストルを腰に差しながらヨハンが来た。「ジョセフは?」「着弾観測するのに、高台に行った。着いたら発光信号をくれる。」漁船より信号が来た。(健康ナ者 上陸サセテクレ )ハジメは少し考えて、「返事、(沖合遠方ニテ待機セヨ、シタガワヌ時 撃沈スル)」「相手も必死だな。ルドルフさんが来るぞ。」コートの襟を立て、腰にサーベル姿のルドルフが現れた。「あの船、男爵が乗っている。中はひどい有様じゃ。とても助からん。」また船より信号が来た。(クスリ、水ダケデモタノム。)皆が押し黙った。「大佐、水だけでも送れば?私が行きます。」若い兵士が名乗り出たが、ハジメは手を上げて、遮った。「どうせ助からん。水の補給をしても、エルフの所に入る事も出来ない。また地獄行きだ。撃沈せよ。」砲撃が始まると漁船は射程外に退避した。約四キロこの寒さでは泳ぐのは無理だろう。「棺桶船になったら、焼き払う。それ迄監視しておいてくれ。」「指揮官なんて、やな商売さ。昔散々思い知った。」ヨハンが独り言のように呟いた。

 漁船に動きあった。お互いより合い固まった。「何したい?此処からじゃ判らん。動きがあったら、知らせてくれ。」ハジメは司令部のテントに消えた。


  「ジョン、奴らマジ撃ちやがったヤバイぜ。」ジョンと呼ばれた水兵シャツの青年は、望遠鏡を港に向けた。「船長に逃げる様に言ってくれ。」「ジョン、悪いな。船長なら、くたばった。」船尾の船長室のドアに黒い十字が書いてある。「今は下げ潮だ、アンカーを切れ。」船員達が斧でロープを切った。「いい腕してるな。もう少し遅ければ撃沈だ。」ジョンは恨めしい目で、港を見た。荷馬車に妻と赤ん坊を乗せて、郊外の漁港逃げるまではよかったが、男爵の方が上手だった。結局、漁船に乗り脱出したまではいいが、此処までに船内に居たほとんどが発病後死んだ。妻と赤ん坊は船内に入れず、甲板のテントの下に居たために感染しなかった。「な〜ジョン、どうする?キチンとした水兵上がりはオラとお前だけさ。」中年の漁師はため息を吐いた。「マリオ、そう凹むなよ。取り敢えず、死体を捨て掃除だ。俺たちも病気になる。」僅かに残る男手で死体を投げ捨てた。あと、石灰を水で溶いて血痰や膿など拭き取った。昔貿易船に乗り組んだ時に食中毒が出て石灰を水で溶いて、消毒したことを思い出したからだ。「あと、生水は飲むな。沸かした物しかダメだ。」隣の船に連絡を取ろうと、ランタンを向けたが、返事は無かった。「マリオ、返事が無い。」やがてゆっくり、信号が返って来た。(皆が発病した。立てる者は居無い。幸運を祈る。)「弓は有るか?あの船に火を放つ。」マリオが顎で合図した。「あとの船は?」「彼方も返事が無い。」最後の船に目をやった。どうも、こちらに習い死体を捨てているらしい。望遠鏡を向けたジョンとマリオが舌打ちした。「阿呆共が、素手で死体を捨てているらしい。」「このままじゃ、ジリ貧だ。対策を立てよう。」船で生き残ったメンバーは、若い女性7人赤ん坊2人男手4人。一人体調が悪いので船長室に隔離してある。「あれは、もうダメだ。」マリオが、ラム酒で手を拭いている。「結局、テントの下が安全か。」風が変わったので、ジョンは隣の船に火を放った。「疫病船になったら、燃やすしか無い。」マリオが歌うように言った。「な〜 ホットスパー号覚えているか?」ジョンは頷いた。奴隷を積んだホットスパー号で疫病が蔓延(どうも、奴隷の女性から感染したらしい)停泊していた同艦を海軍が焼き討ちした。悲鳴が港まで響いたらしい。「あの時、ちょうど海軍に入ったばかりだった。あの日の悲鳴はまだ消えない。」やがて燻りながら、波間に消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ