足音
士官達が、城の会議室に集まった。少し眠そうなジョセフも席につく。「各自テストをした結果、人員整理と、装備の見直しをしたい。」ハジメが説明に入る。150名程の軍隊なので、5個小隊と2個砲兵小隊と2個騎兵隊のみ。後、姫様の重装甲兵(鎧のお化け)が500体。必要なら、いくらでも出てくるらしい。各自、前装式ライフル銃、砲兵小隊には歩兵砲各二門軍馬など、装備、人員などが話し合われた。「後は、各小隊で決めてくれ。報告書はジョセフに。後は、皆一杯やってくれ。私のおごりだ。」ハジメはメイドに合図すると、グラスとウイスキーを出させて、振舞った。
皆グラスを注いだ時に、ノックがしルドルフが入って来た。「今、終わったとこです。どうです一杯?」ルドルフは、グラスを受け取り、皆に習って飲んだ後、真面目な顔で着席を促した。「実はの、皆に知らせがある。ここから南で黒男爵が現れた。都市部でパニックになっておる。」話を聞いた何人か、グラスを落とした。「今の所、サン-ペトロまで来ていないがの、時間の問題じゃ。各国の検疫時間を延長して対応策しておるが。」「それはなんです?」ハジメの問いに老練な下士官が答える。「黒男爵は、病気の事です。肌が黒ずんで、血痰と発熱して、最後はあの世行きです。昔いた所なんか、生きている奴より死体の方が多かった。家族全部死んでいた。その家のドアをタールで塗り固めるんです。だから、黒男爵の家になるんです。」昔ハジメがいた飛行場でもコレラが流行って、かなり死者が出た。薬も無いならなおさら恐ろしい。「対応策有るのですか?」ルドルフは髭を撫でた。「ネズミが多い年に流行る。清潔に保ちネズミが来ぬように気を付けるしか無いの。後、交易船の検疫じゃな。イカダで荷揚げするしかない。」
馬車で砦に帰るとき、ハジメはヨハンに聞いた。「なあ、皆風呂に入っているのか?」ヨハンは少し考えたが、「多分、三日に一回くらい。毎日体は拭くがね、兵舎じゃな、そんなもんさ。普通の家庭でもそんなもんさ。」「各部屋 お湯出るだろ?」「ポンプ押せばな。」砦の地下の温泉から汲み上げていた。「義務化しよう。死ぬよりめんどくさい方がいい。」
サンペドロでは、郊外に出ようと荷車の列が現れた。噂やデマが飛び、人々はパニック寸前だ。人々の中、水兵のシャツで荷車を引く男が居た。荷台に若い妻と腕に赤ん坊がいた。彼女が何気なく隣を見たとき、赤ん坊背に歩く人が見えた。(あの人大変。歩いて避難するのかしら)その時に赤ん坊の毛布が落ちた。頭を後ろに垂れた赤ん坊の顔は真っ黒に変色して、死んでいた。
いく日かして、ハジメはヨハンと共に、城に呼ばれた。「おお、緊急事態事態じゃ。とうとうサンペドロまで来よった。座ってくれ、姫様も降りて来る。」軽い食事とワインが出されて、待って居ると程なくダミアが降りて来た。「男爵が来たわ。サンペドロまで。被害はそうでも無いらしいけど、まずは子供、老人が危ない。実際はパニックが酷くて実態が掴めていないの。」ワインを少し飲んだ後、ダミアは少し眉を潜めた。「対応策有るのですか?」ヨハンは心配そうにルドルフとダミアを見つめた。「交易船の検疫時間を延長。使い魔で事前に調べる。乗組員の上陸は認めない。艀で荷揚げするしかない。そのためには、健康な下士官と二個小隊を。港に砲兵小隊を。難民船を撃沈するしかない。」最後の方の言葉は、苦しい響きがあった。「エルフの騎士団からも連絡があったの。あちら軍艦出して警備始めたそうよ。時間的には後数日で船が来そうね。」「なるべく相手の姿が見えない遠距離射撃で、追い払います。」「飛行艦出せないかしら?」ハジメは少し考えたが、首を横に振った。「翼に氷が付くと危険です。天気がいい昼間なら良いのですが、生憎この空では。」「森の中は大丈夫ですか?」「それは大丈夫。お祈り捧げる時間もくれない連中が居るから。」後ほど部隊のリストを出す事にして。ハジメ達は、城を後にした。