冬の始まり
ハジメはコートに付いた雪を払うと、暖かい暖炉の側に座った。ヨハン達が引越し、畑仕事を始めてから、あれよあれよとゆう間に気温が下がり、今では薄っすら雪化粧となっていた。「ここら辺は、雪深いのか?」鉄兜を脱ぎ執務室に入って来たヨハンに聞いてみた。「そうでもない。薄っすら積もる程度さ。」暖炉の側に座ったハジメからウイスキーのグラスを受け取ると、グッと一息に飲み干し、寒さで痺れた手を火にかざした。「家が足りない。しかも、今年は雪が早い。もう少し時間が有ると思った」ヨハンの顔からは疲労の跡がうかがえる。「残りの措置は?」「乗って来た貨物船を、仮の兵舎にした。残りの家族がいる連中は姫様の城とここの砦の空き部屋に入れた。」「天気が悪いと交易船も来ない、飛行艦も飛ばせん」「そんな事無い。交易船は来る。彼奴ら金の匂いがしたら、地獄の淵まで来るよ。」おかわりを注ぎながら、ヨハンがニヤリと笑う。商売人は、何処でも同じか。「夜の会議に出てくれよ。ジョセフにも話を。部隊編成考えなければな。」ハジメは書類の束に目をやった。農作業が出来なくなってから、各自テストをした結果適材適所が出来ていない事が判明。再編成をする事になったのだ。「了解。大佐。最近らしくなって来たな。」ハジメは手をヒラヒラ振った。「ただ飯食う訳にもいかない。まかりなりに軍隊だからな」この頃皆呼びやすいために、帝軍の階級で呼ぶ様にしていた。元々、ヨハン達の国もこの呼び方なので、抵抗なしに定着化した。ヨハンとハジメは書類の束と格闘するため、机に座り直した。
ルドルフは、水晶玉を見つめながら溜息をついた。今年は、天候が悪かったので、都市部でネズミが増えていると友人の魔法使いが言っていたが、かなり酷いようだ。友人曰く、(随分と経つが、前にも同じ事があったの。黒男爵が来る前に、静かな所に隠れるよ)交通機関が発達に伴い、容易に色々入ってくる。天使の贈り物も、死神の鎌も。ルドルフは、遠い友人に連絡を取る。使い魔がある魔法使いの水晶玉に入った時に、信じたく無い光景がみえた。「おお、ルドルフか。どうじゃな元気か?お美しい姫様のご機嫌どうじゃな?」「えらく、取り込み中か?騎兵に突撃されたみたいに見えるの。」魔法使いが後ろを見た。「実はの、男爵が現れた。至る所のドアに、タールで十字架が書いてある。わしも森の中か、静かな所に隠れるよ。」「いつからかな、男爵が来たのは?」ルドルフは、心配そうに水晶玉を覗き込んだ。「収穫祭のすぐあとじゃ。港で現れた。」年老いた魔法使いは、疲れた顔を向けた。「生きておれば、又連絡を。」「マーリン、助けに行きたいが、済まんの。」
ルドルフは、立ち上がると暖炉の側に座った。随分昔の記憶が蘇る。どんな暗殺者が来ても動じなかったが、あの時の光景が今でも浮かぶ。自分を奮い立たす様に手を叩き、ルドルフは姫様に報告しに部屋をでた。
ダミアは起きていて、ソファーでくつろいでいた。「おはよ ルドルフ。冴えない顔ね。予想つくけど、想像よりひどそうね。」ルドルフは、髭を撫でて、少し考えたが、「ここより南に居る友人に、連絡を、男爵が来たのは、収穫祭のすぐ後、かなり酷いようじゃ。」「私の所にも使い魔が来ました。従兄弟達の国も、そろそろ危なそう。検疫が厳しくなったそうよ。でも何処から来るか解らない。」「ハジメ達が後で来る。話を儂からしときましょう。」