訪問者
すっかり盛り上がった気分も萎え、二人して部屋に戻ると、ハジメとソフィは、ワインの瓶を傾け、部屋でのんびりとしていた。此処では色々な住人が居るので、いちいち驚かなくなったが、いきなり全裸の女性とは!けっこう美人だったな。などと考えて居ると、ドアをノックする音がした。ソフィがドアを開けると、そこには、先ほどの女性が立って居た。「今晩は、若き騎士団長にご挨拶を。」にっこり微笑む女性。はて、こんな美人知り合いにいたか?ハジメは考えたが、答えは出なかった。「ありがとうございます。どうぞお入り下さい。」女性は優雅な足取りで中に入ってきた。薄い緑のワンピースがとても素敵だった。ただ、ハジメの感だけは、相手の方が力が上だと、警告している。
「私、砦の南側に居る木の精です。先ほどのお邪魔、ごめんなさい。少し悪戯すぎたみたい。」ハジメとソフィは、いえいえと首をふった。確かに砦の南側に、4人手を繋いでも届かない木が城壁の一部になっていた。「此処にまた騎士団が来るなんて、何年ぶりかしら、また賑やかになって嬉しいです。」「ここに騎士団がいたのですか?」ハジメとソフィは身を乗り出した。「もともと、そんなに大所帯では有りませんが、何代か騎士の方が居ました。その頃こんな立派な砦では無かったの。先代の、騎士団長が少しずつ大きくしていったの。」ハジメは思わず「どの位前の事ですか?」と、聞いてしまった。女性に対して失礼な質問である。「忘れてしまった。余りにも長い事生きて来たから」彼女は優雅にグラスを傾けると、ワインを少し飲んだ。彼女は少し目を細め、ハジメを見た。大きな目が鷹の様にハジメを見据える。(多分、恐ろしく強い。)グラスを置き、ソフィがおかわりを勧めるの断ると、彼女は立ち上がった。「今度は、女の扱い方教えてあげる。じゃあ、若い騎士団長さま」ハジメの耳元で囁くと、優雅な足取りで出ていった。
元々、騎士団がいたと聞いていたが、現実に見ていた人物がいるだけでも驚きだ。しかも、姫様より長生きで、魔法使いの能力はケタ違いに強そうだ。現実にハジメのシャツは、冷や汗で湿っていた。「綺麗な人でしたね、長い事此処に居ますけど、初めて見ました。」「あゝ、そうだね。おまけに、すごい迫力だね。冷や汗でたよ。明日、城に行って姫様にいろいろ聞いてみるよ。」
もう寝ましょうかと、支度を始めたものの、何だか眠れそうに無かった。「すっかり目が冴えてしまいましたわ。」ソフィが諦めたように起き上がった。「くつろいで居た時の来客だからな。仕方ないよ。」ハジメはベットから出ると、ローブを身に付けて、軍刀を持った。「お風呂に入る。体を温めれば寝れると思う。」「ハチミツ酒も持って行きましょうか。」「また、木の精が出て来るかも。」ソフィが少し怖い顔になった。「邪魔したら、私が怒ります。」蝋燭が灯る廊下を、手を繋いでお風呂まで歩いて行った。