引越し先
ドアの前に立つと、中から微かに声が聞こえた。少しためらったが、ヨハンはドアをノックした。「ハジメ起きているか?」ドアが少し開き、ハジメが顔を出す。「夜分すまん。取込み中か?」ハジメがドアを開けて、ヨハンを中に入れた。「いや、ウイスキーでいいか?そろそろ寝る支度する所だ。着替えて来るから、適当に座ってくれ。」ハジメが寝室のドアを開けると、ソフィが顔をだした。「ヨハン様お元気ですか?」「ええ、お陰様で、ご主人には大変世話になって。」「何か持って参ります。少しお待ち下さいな。」ソフィが顔を引っ込めると代わりにハジメが現れた。「何か難題か?ジョセフに声をかけるか?」「いい。政治に向かん男だし、今頃部下達と酒盛りしてる。」白い服を付け、薄いピンクのショールを掛けたソフィを送り出すと、ハジメが座り直した。「問題山済みか?」「200もの兵達とその家族の生活が掛かっている。それなりに無理なお願いも出るしな。ところで、この城の土地で畑に出来そうな所が有るか?」ハジメが、うーんと唸った。「畑見たこと無いな。しかも、農家200軒なんて相当な土地と、木材がいるな。」丁度ソフィが帰って来て、ハジメの隣に座った。「後で軽いお食事が来ます。それまでどうぞ」運んで来た生ハムとチーズをテーブルに置いた。「そう言えば、引越しするつもりなんだって?」ソフィが嬉しそうに頷いた。「少し古いけど、南側の城を貰ったの。部屋のデザインクララ姐さんに、お願いしようと思って。」「私から姐さんに、言っときますよ。ソフィさんここら辺で畑に出来そうな所、思いつきませんか?」ソフィがハジメの顔を見た。「そう言えば、城の土地で昔耕して居た所が有るて、ルドルフ様言ってた。エルフ達が作った畑で、今は荒れているそうですが。」ヨハンが身を乗り出す。「そこ、広いですか?」「俺が空から見た限り、なかなか広そうだった。城の大きな池から小川が通っている。」
ヨハンはウイスキーのグラスを空けた。「今度連れて行って欲しい。何人か部下達も連れて行って、相談しないと。」
皆で料理を空け、ヨハン達の武勇伝を聞き楽しい時間を過ごした。「そろそろ寝る支度。私は部屋に戻ります。」「では、近いうちに見に行きましょう。クララ姐さんに、部屋のデザインの件宜しくお願いします。」ヨハンはドアを開けて、もう一度挨拶すると、廊下を歩きだした。案内役にと、ハジメに借りたランタンがふわりと浮かんで、先導してくれた。(少しずつ前進するしか無いな。)シンと静かな廊下を歩きだした。