安全な所へ
(敵艦 沈みます!)後部にいた乗組員が叫んだ。被害が大きい船尾からゆっくり沈み始めている。まだ船を助けようと、ポンプに取り付く乗組員も居るようで、排水溝から水が流れていた。「助けに行くか?騎士の情けで。」ジョセフに声を掛けた。「やめよう。すぐ暗くなる。得体知れないのが来る。」「船長、速度を上げてくれ。先を急ごう。」船長が静かに頷き指示をだした。しかし目だけ敵艦に向けていた。もう少しで、立場が変わって居たかもしれない。そう、水面に飛び込み、怪物に食われていたかもしれない。船長は冷や汗を拭い、操舵手の方に歩いて行った。
「これからは、乾きが敵だな。」カラッポの船倉を眺めてヨハンが呟いた。敵が来たので、すべて放棄し、かつ重量物のワインの樽も放棄したのだ。おかげで、時間が稼げたが。「どうする?ハジメに運んで貰うか?河の水が飲めたら苦労しないのだが、沸かして蒸留器で水を作るか?」「コンロのレンガまで捨ててしまった。火を起こせない。使い魔の手紙をクララ姐さんに送ろう。ヨットならば、3日ほど我慢すれば来れるだろう。」「酒の瓶でも配ろう。ラムでも無いよりいい。」ジョセフは近くに有った瓶を掴むと甲板に上がって行った。
ヨットからの補給が来たのは、4日後の事だった。水の補給を受け、何とか城の港に着いたのはそれから、2日を要した。
城では子供や母親女性達は城の中に、その他は練兵場などにテントを設けて収容された。始めた頃は、250ほど居た兵達もいまでは200以下だ。上出来と言えば、そうだが何とも後味が悪かった。「あのまま国に居ても生活が苦しいだけ。新天地で自分の土地と家が欲しい」と言ってた兵士達の為に頑張らないと。ヨハンは顔を引き締めて、ダミア姫に交渉するつもりだった。「作戦は?会議は苦手だが、手伝うよ。」いつも間にか後ろで見ていたハジメが声を掛けた。ヨハンにウイスキーの瓶を差し出す。「辺境の国にようこそ。帝国騎士団長のハジメ,カワモトだ。」「今回は世話になる。騎士団長に神の加護を。」ヨハンは一口飲むとジョセフに渡した。「敵艦撃沈見事。長い事戦争してたが、あんな攻撃初めてだ。」三人で瓶を廻しながら、お互い無事を喜びあった。
「さて、今回は大変でしたね。私の古い友人達も粛清に合い命を落としました。欲に酔った大統領。国民が哀れです。出来る限り配慮しますわ。」口元に優しい微笑みしかし、牙が見え、目だけ笑っていない。「私の部下達 彼等の生活の援助、それだけが私の願いです。」ヨハンはダミアの黒い瞳から目をそらさない様に、丁寧に答えた。頭を覗かれている錯覚に苦しむ。「解りました。計画書 ルドルフに渡しておいて。検討します。」ヨハンはぎこちない歩みで後ろに下がると、退出した。熱くも無いのに、汗が吹き出る。(ハジメの部屋でおごって貰うか) メイドに聞きながら、ヨハンはハジメの部屋に向かった。