買い物
「いやいや、姉が服飾のブランドやってまして、宜しかったら案内しますよ。」ブランドの言葉に、ソフィの顔がほころぶ。なにせ、財布の中を気にしなくて良いのだ。なんだか、手がグーになっているし。ダミア姫様に頂いたお金は、どの位の価値があるのか、この世界の物価がわからないハジメは、ソフィに任せるほか無かった。
さすが、貿易で栄えた街である。メインストリートにブランドショップが並んでいる。その中に、お姉さんがやっている店があった。
「いらっしゃいませ。あらヨハン、今日はどうしたの?」背の高い綺麗な女性が現れた。「姉のクララです。姉さんこちらが、ヒンデンブルグ公国から来られたカワモト夫妻です。」「雨の中、有難うございます。奥様の服ですね。今年の流行の柄が揃っております。どうぞ」挨拶もそこそこに、ソフィは連れていかれて、色々な服が出されていった。「なあ、すごい気合入ってないか、お姉さま。」ハジメは、後から出て来る服の量に驚き、後ろに下がった。「ああ、最近不景気でね、売上落ちてたらしい。昔はもっと上品な姉さんだった。親父が見たら泣くね。」ヨハンはため息をついた。
ソフィは、試着して、鏡の前に立ちポーズなんか決めたりしている。ハジメは小声でヨハンに聞いた。「こんな事聞くのも変だが、何時間掛かるか握ろうか?」「どうだろう。2時間ぐらいかな?奥で一杯やろう。」ヨハンがスタッフに飲み物を頼むと、椅子に座った。
馬車に積まれた箱を眺めて、ソフィはため息をついた。初めて満足行くまで、買い物をした充実感で、一杯だった。後ろで、ハジメとヨハンがため息をついた。こちらは、待ちくたびれてのため息だった。「後は、どうしますか?」「すいません。銃を見てみたい。良いお店ありますか?」ヨハンは、きらびやかなストリートの外れに有る鉄砲店に立ち寄った。「我が家の御用達です。何でも揃いますよ。」確かに色々あり、迷ってしまう。店の奥に38式ぐらいかな?長い銃身の鉄砲を見つけた。銃床が長く、真鍮の小物入れが付いていた。「これは銃身に溝があって、玉が真直ぐ飛ぶんですよ。」後ろに居た店主が説明する。「当店の自慢の品です。このモデル、装飾された物も御座いますが?」ガラスのケースの中に、豪華なモデルが並んでいる。「いや、猟に行くのに、目立ちすぎる。このモデルでいい」ハジメは、木箱をホテルに届けるように伝え、馬車に乗り込んだ。「後は食事か。姉も誘って、レストランで食事をしましょうか。」
「先程は、有難うございます。」にこやかな営業スマイルのお姉さんが、現れた。「新作出たらすぐに知らせるから。」お姉さまの視線はソフィに。御客様 一番である。ファッションの話題で盛り上がっていた。「クララ姉さん、商売上手だな。」ハジメはヨハンに話しかけた。「ああ、話し変わるが、先日の件いかがでした?」ハジメはワインを一口飲むと、「実は、ルドルフが断ってほしいと。」ヨハンは少し肩を落とした。「予想してましたが、実際に聞くと、ま、何とかするつもりです。」こればかりは、体で覚えるしかない。紙に書いたところで、わかる事じゃない。「頑張ってとしか言えないな。ごめんなさい」ヨハンは少し笑った。「ハジメが悪い訳で無いんです。気にしないで下さい。サ、料理来ました。冷めないうちに。」
さすが、ヨハンが進めたレストランだ。素晴らしく美味かった。
「ヨハンさん、恋人居ないんですか?」ソフィが何気なく尋ねた。「中々、暇が無くて。」ヨハンが答えたが、余り触れて欲しく無いと、目が言っていた。ハジメが話を変えようと、口を開いた瞬間、お姉さまの攻撃が始まる。「そう言えば、お見合いしたんじゃ?どんな子?」「僕には合わないので、断りましたよ。」「あら、スタイル良くて、性格まあまあどんな子が好みかしら?」「決めるのは自分ですよ。」「はいはい。我が家の名前が消えなきゃいいわ。ドレスのデザインやらせてね、」ハジメは助け舟を出そうか考えたが、墓穴掘りそうなのでやめた。その時に背中に、視線を感じた。探るような視線を。トイレに立つふりをして、客をチェックする。窓際に男女、奥に貴族のグループ、階段脇に老紳士と御夫人。怪しいのは男女なのだが、人目気にせずに、てな具合だ。
ハジメはトイレから帰ると、ヨハンに聞いた。「誰かに、監視されている。」ヨハンもワインを飲みながら、「その様ですね。ソロソロ御開きで。」ヨハンがスタッフを呼び、勘定を屋敷に届けるように伝えると、支配人との挨拶もそこそこに、馬車に乗り込んだ。
「どうだ?ヨハンさん。動いたヤツは?」ヨハンが後ろに目線を走らせる。「複数の組がいるな。どうもケツがかゆい。今日はホテルに帰らず泊まってまていけ。どうも嫌な予感がする」馬車は少し遠回りして屋敷に戻っていった。