密会
カルロスは、自分の執務室に戻ると、早速、公安局のニーゼン局長を呼び出した。カルロスが二杯目のワインにかかる時、ドアをノックする音がした。「ニーゼン局長か?入ってくれ。」音もなく開けたドアから、神経質そうな男が現れた。「よく来た。ワインはいかがかな?」カルロスは自分の前の椅子を勧めると、グラスと葉巻の入った箱を、テーブルに置いた。ニーゼンは葉巻を取り出すと、香りを楽しんだ後、火をつけて満足そうに煙を吐き出した。「ヨハンの訓練状況は?」カルロスが、不機嫌そうに尋ねた。「あまり良く無い。独学では、リスクが大きすぎる。あのハジメとか言った操縦士にヨハンが教練を願いでた様だが、ルドルフの事だ、断って来る。」ニーゼンが答えた。「娘を使って他の国から、養子縁組で、何とかするのでは?」「一番末の娘を使って、ハジメとか言った操縦士に、取り込むつもりだった。エルフ達も同じ事を、考えたらしくルドルフに、公式訪問を願いでた様だが、刃傷沙汰の後だけにな。」カルロスは葉巻を乱暴に消すと、ワインを注いだ。「あの娘、婚約しているのか?」
ニーゼンは首を横に振った。「婚約はしていない。ただし、同じ生活を送る以上、子供もできて家庭になる。早く手を打たねばならないな」カルロスは、二本目の葉巻に火を付けると天井に上る煙を眺めた。「使い魔で、部屋を覗けないか?」ニーゼンは首を横に振った。「女狐め、結界を張り巡らしておるな?」「部屋を覗けるが、二人の姿は、使い魔の目で見えない。ただ、いつも同じ空間に居るのは、間違いない。」ニーゼンの話に頷く。「買い物に出かけた奥様が強盗に会う。愛妻を失って悲しむ夫、その男性を優しくいたわる若い娘。やがて二人は恋に落ちる。」ククと不気味な笑が漏れる。「どうだ?我ながら、良い筋書きと思う。」ニーゼンも笑った。「すぐに役者を、揃えますか。末の娘は恋に落ちますかね?」「一服もれば良い。たまには役に立ってもらわんと、育てた甲斐が無い。」カルロスは満足そうにワインを飲んだ。「御長女も役に立ちましたな。」「失脚にはゴシップが一番。出すぎた頭は、抑えんとな。」
不気味な笑が部屋にこだまする。おもむろに立ち上がるとニーゼンは、音もなく開けたドアから、消えていった。