港街
ホテルは、馬車で30分ほどの、湖の辺にある。豪華な作りで、近くの水車(とても大きいそうだ)で地下より何時でも温泉を汲み上げていて、各部屋にお風呂があるそうで、守る側からすれば大変都合よさそうだ。
ロビーで鍵をもらい、荷物を運んで貰う。ハジメ達の部屋は、独立した作りのスイート、ルドルフの部屋は建物の角のやはり豪華な部屋に案内された。「新婚ぽく見えたんじゃない?」はしゃぐソフィ。
ハジメは、各部屋にお風呂のチェックをする。全部で四部屋、寝室に応接室湖が見えるラウンジ、子供部屋。子守役の部屋もある。お風呂は広くステンドグラスがきれい。天窓から月も見えそうだ。どの窓からでも、脱出出来そうだ。ハジメは一通り見て歩くと、荷物を開けた。ソフィも荷物を広げてハンガーに掛けたり忙しそうだ。「今夜のスーツこれかな。シャツどれだっけ?」今まで軍服以外の物を、持った事無い身なので、仕方無い。ソフィに教えてもらい、何とか、かたずいたのは昼だった。「どうするか、お昼。ルームサービス取りますか?ルドルフさん部屋に居ないだろうし。」ソフィがパラパラとメニューを見ている。「軽いお昼のコースが有ります。これなんか、どうでしよう」なるほど、お魚のコース。晩餐があるので、軽くの方がいいかも。「ワインも付けてこれにしよう。」ハジメは廊下に置かれたベルを鳴らして、ボーイを呼んだ。
出来るまで少々時間があるので、風呂に入り体を休める。軍隊時代から、何時でも休める時に休めと、命令されていた。バスローブを取ろうとして、気が付く。寝室二つなかったけ?「ルドルフさん、一緒にいなさいって、これは命令だそうです。」ソフィが、コクコク首を前後に振る。まあいいか、深く考えても疲れるし。「じゃ、お風呂入ってきます。」ハジメはバスローブを取ると、お風呂場に入って行った。
日本にいる時に、温泉地に行った事無かったな。行ける状況でも無かったな。等と考えていると、なんと、ソフィが入って来た。しかも、バスタオル巻いただけ。上げた金髪が色ぽい。思わず後ずさるハジメ。「背中流しましょうか?」ニッコリするソフィに押されて、思わず「お願いします」と答えてしまった。
「ハジメ、傷だらけですね」背中を流しながらソフィが尋ねる。随分と長い戦争生きて来たのだ。「傷だらけで済んで、良かったんだ。死んでも不思議じゃ無かった。友達、戦友皆死んでしまった。」ハジメは目を閉じた。最後に火だるまで、落ちて行った戦友が思い出される。
「家族?恋人居なかったのですか?」ソフィには、ここが肝心の所だった。「居なかったな。俺、孤児で、親の顔を知らない。周りに年頃の女性も居なかったから、家族も出来なかった。」
湯船に二人で浸かりながら、沢山の話をした。