依頼
ハジメがノックする前に、ダミアの声がした。部屋に入ると、食事の準備中でメイドたちが忙しそうに、働いていた。「待っていたわ。そこにどうぞ。ウイスキーでもいかが?」ダミアは、優雅な身のこなしでグラスを取ると、ハジメに差し出した。
「そこの箱開けてみて。」テーブルの上に白木の箱がおいてあった。中には、真鍮の銃身が煌くピストルが2丁パウダーフラスコ、弾丸を作る道具がはいっていた。「気にいった?就任祝いよ、受け取って。試射は、明日にしてね五月蝿いから。」「有難うございます。大切に使います。」
「実は、お願いがあるのよ、週明けにサン・ペトロまで飛んで欲しいの。方角はルドルフがわかるわ。ああ見えて、航海士もしていたの。」ハジメは、少し考えてウイスキーを飲んでから尋ねた。「国籍マーク入れないと。」「いいえ、今のままでいいわ。なかなか複雑な事情もあるし。詳しくは、ルドルフが知っているから聞いてね。」ダミアは書類を見ながら食事を始めたので、ハジメは退散する事にした。
部屋に戻ると、早速もらったピストルの点検を始める。火打ち石の付いたハンマーを上げて引き金を引く。パッと火花が飛んだ。(後でルドルフさんから教えてもらうか)ハジメは机の上に木箱を置くと、ソフィが準備してくれたガウンに着替えて、地図を眺めた。城の周りを流れる河にそって東に行くと、その港町がある。ノックがしてソフィが、ウイスキーを持ってきた。「何かしら作りますか?サラミの良いのが有りますが。」いつもの笑顔でたずねる。「すいません、お願いします。ソフィさんは、サン・ペトロに行った事ありますか?」「はい、とても大きな街で、なんでも有ります。流行の服、アクセサリー、化粧品、憧れの街なんですが、ここからとても遠いんです。」ソフィは、遠い目になった。
(どこ見てるの?)と、突っ込みを入れそうになったが、ぐ!と こらえ、「この前行ったのは?」と、聞いてみた。「かれこれ、1年前に。新しい服を見たいですわ」多分、新しい服を着た自分で、頭が一杯なのだろう。また、遠い目になった。
「来週、その港町に行くそうです。ルドルフさんに行けるように、お願いして上げましょうか?」ソフィの動きが止まった。「本当?絶対にお願いします。私にできる事、何でもしますから」ハジメは少し後悔した。ソフィさん、行く気まんまんである。これでダメだったら、ここに居る限り言われそうである。あまり軽い約束を女性相手に、してはいけないとこの時悟った。