嵐のあと
騎士団の面目は、丸つぶれだった。他人の城内での抜刀騒ぎ、しかも、一人に対して三人掛かり。ひどい事に、全員切り捨てられる。(女王になんとお詫びすれば良いか。)考えただけでも、吐き気がする。
しかし、ここの剣士はとても良い腕だ。あのルドルフも、相当な使い手だが、その上を行きそうだ。是非我が騎士団の教育係に欲しい男だ。
夕方、そろそろダミアが起き出す頃合に、騎士団長がやって来た。
「今度は何かしら?私に試合申し込む若者が居るのかしら?」ダミアが騎士団長に微笑みかける。
「とんでも無い。まだ死ぬ覚悟は出来て居ない。」
後ろに並んだ騎士たちも、首を振った。騎士団長は、汗を拭うと話始めた。「ハジメ殿の事は、
水に流すとしようと思う。」この時に、ダミア眉が上がったのを見て、「不問にする。」と言い直した。「航空艦が上がったあかつきに、我が王国に来て欲しい。」ダミアは、少し考えた末、女王に手紙を書き加える事承知した。その後、使節は逃げるように船に乗り込むと帰って行った。
「静かな日々が、帰ってきましたな。」ルドルフが、呑気な声でいった。「すいません。何か後味悪くしまして」ハジメが頭をさげた。
「謝る事無いわ。仕返しにくる方が悪い。とても古くて、伝統ある騎士団だけど、プライドが邪魔してなかなか新しい事を認めないの。自分達より強い者は、暗殺してでも排除する。いい薬よ。そんな事より、いつ飛ばす?整備終わってるんでしょ?」
「終わりました。あとは、天候次第です。」
「いいわ、じゃあ、3日後でどう?」「了解しました。夕方飛ばす予定で」
3日後、最後の整備を終えた機体が、滑走路に引き出された。巨大な機体が月明かりに、浮かび上がった。「発動機 始動 離れて!」ハジメは機関士席の窓から叫ぶと、始動ハンドルを勢いよく回した。
金属音と共にエンジンがかかると、ハジメは操縦席に座り、各メーターチェックにとりかかった。
ハジメは窓から離陸の合図を送ると、ダミアが魔法で滑走路灯をつつけた。
スロットレバーを倒して、パワーが上がったのを確認し、ブレーキを解除。機体がどんどん加速し、やがてフワリと浮かび上がった。(赤トンボで始めてとんだ時にも、こんな気分だったな)
ハジメは、城の周りを二回ほど旋回、滑走路に着陸した。「いかがでした?長い距離も大丈夫?」飛行艦から降りて来たハジメに、ダミアが声をかけた。
「問題有りませんよ。何時でも飛べます」ハジメは、機体をポンポンと叩きながら、和かに答えた。
「飛行艦を納めたら、私の部屋まで来て。」ダミアは、そう声をかけて、城に向かった。