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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神に牙を向いた少年の話

作者: 苺のタルト

読者様の捕らえ方にもよりますが、

若干グロ要素が含まれる……かもしれません。

若干近親相姦じみてる……かもしれません。


それ程意識して書いたわけではありませんが、

不快感を感じられるようでしたら避けられることをオススメします。


 少年は、それまで全てを信じていた。

 大人たちが言うことは絶対で、不変。

 この世界には神様がいて、

 神様は、全ての人を平等に愛してくれているのだと――



   *   *   *



 父さんが死んだ。

 母さんも死んだ。

 不慮の事故だねって、周りは言った。

 哀しかった。

 それでも良かった。

 不幸だとは思わずにいられた。

 だってまだ、姉さんが生きていたから。


 父さんと母さんを埋めた墓地からの帰り道、沈みかけた太陽と上りかけの月が顔を合わせるような時間帯。

 彼岸花が綺麗な土手道を、姉さんと二人、手を繋いで帰った。

 姉さんの綺麗な指が、僕の小さな手をしっかりと絡めてとって、開いた片手で僕はススキを振り回しながら笑ってた。


 僕は姉さんが大好きで。

 だから、姉さんが遠い異国の大きなお屋敷に嫁ぎに行くんだって聞いた時は、心臓が飛び出そうなくらい驚いた。

 姉さんはずっと僕の側にいてくれるものだって、思い込んでいたから。


 あいにくその時僕は姉さんがいなくてもほとんどのことは一人で出来るくらいに成長していたし、ここでわがままは通せないって知っていたから、何も言わずに、姉さんを送ってあげようと思った。


 衣装合わせで男はみんな締め出されて、それでもこっそり見た、婚礼服着た姉さん、とっても幸せそうで、目が覚めるくらい綺麗だったんだ。


 姉さんが幸せなら僕も幸せだった。

 月が昇って、沈んで、また昇って。

 姉さんが、嫁いで行く、その日の前に。


 僕らの家の屋根に、白羽の矢が立った。

 銀の月明かりに照らされたそれはどこまでも白く、白く。

 言葉を失くした僕の隣で姉さんが崩れ落ちた。



 僕らの村には一つ、祭儀がある。

 神様に、供物を捧げるんだ。

 一年に、一人。女の人。

 神様は村の後ろの山から三日月を弦にして対象者の家に白い矢を放つんだって。

 矢が刺さった家は家の中から女性を一人捧げないといけない。

 供物を――贄を捧げないとその年は飢饉に見回られるから、それは絶対の掟。

 去年だって、村長さんは泣く泣く三つになったばかりの娘を捧げたんだ。

 あれは盛大な祭儀になったっけ。


 当然のことだと思っていた。同時に仕方のないことだって。

 大人達がそういうんだから、それば絶対なんだって。

 なのに、どうして、今になって――姉さん?


 姉さんの真っ白な婚礼服は、死に装束になってしまった。

 最後の最期まで、姉さんは泣かなかった。笑いもしなかった。

 ただ、直前に、僕をぎゅっと抱きしめて。

 『ばいばい』

 そう、言ったんだ。


 姉さんの祭儀は、月の綺麗な夜に行われた。

 本当は大人しか参加してはいけない儀式なんだけど、僕は姉さんのたった一人の肉親だから特別に参加の許可がもらえた。


 見なきゃ良かったかな。


 月明かりに照らされた姉さんの細い身体を、祭主の持つ銀の刃が貫いて、

 生きたまま、心臓を抉り出す。

 深く深く眠らされているから声は出ない。

 それがまだ救いかもしれない。

 姉さんの白い婚礼服は赤く紅く染まっていく。

 取り出されたばかりの姉さんの心はまだとくとくと動いてる。

 祭主はそれを神様に捧げるんだよね。


 ――あれ?


 神様って、平等なんじゃなかったっけ?

 皆を等しく愛してくれるんじゃなかったっけ?


 僕は父さんを失って母さんを失って、姉さんも、失った。

 祭主の人はまだ誰も失くしてない。

 隣の家のあの夫婦も、向かいのあのおじさんも、

 まだ誰も失くしてない。

 村長さんだって、娘、一人だけ。

 だけって言ったら失礼だけど、一人だけ。

 

 平等なんて、嘘じゃん。


 ――嘘つき。


 神様なんていないじゃん。

 大人たちの都合のいい言い訳じゃん。

 こんな祭儀、まやかしじゃん。

 ほら、だって、もう動かない姉さんの身体、いいように弄ぶんだろう?

 神聖なものだとか言って、口に運ぶんだろう?

 神様だなんて言い訳にして、姉さんを、僕の姉さんを――っ


 触るなよ!

 穢すなよ!

 化け物が!


 姉さんは、僕だけの、姉さんなんだ。



   *   *   *



 気が付くと、僕は赤でぬかるんだ大地を踏みしめていた。

 右手に重い祭儀の剣を握り締めて。ぶらりと下げて。

 散らばる躯なんて目に入らない。

 僕の目には、姉さんしか映ってない。


 祭壇の上の姉さん。

 もう冷たい? まだ温かい?

 可哀相に、こんなに汚されてしまって。

 今、僕が、綺麗にしてあげるから。


 僕は、一晩でイケナイことをたくさん知った。

 僕は、一晩でイケナイことをたくさんした。

 もう、前みたいな僕じゃないけど、

 姉さん、許してくれるかなぁ?


 ――いっか。


 僕の、姉さんだもん。

 許してくれるよね?


 僕は、紅を引いた姉さんの唇に、そっと僕の唇を重ねて、

 それから、柔らかなところに、歯をたてた。



 ねぇ、姉さん。

 哀しいことがあったら一緒に帰ろうねって、

 昔約束したよね?

 だから手を握って帰ったよね。

 もう、握れる手はないけどさ、

 姉さん、僕の身体の中にいるから。

 ずっと、一緒にいられるね。


 ずっと、ずっと――――





 


 読んで下さりありがとうございました!

なんだか色々と矛盾した作品だったかもしれません。

それでも読んでくれた貴方に感謝。

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