97──化け比べ申し込み
再びハッピータウンへと舞い戻る。午後になるといくらか温かい小春日和な気候となっていた。
「ねえ、イルス。またシュユを探すの?」
「いや、さっきと同じ神社に行く」
「え? まだ居るかな?」
「ペールの話を参考にするならば、シュユはきっと俺らを待っている。移動はしてない。もしくは遠くには行かず、近くに居る」
これに関しては完全に希望的観測だが、居る可能性は高い。
「今回は場所も分かってるし、UFOで直接行くぞ」
「オッケー」
再び紅葉美しき小山へと向かう。
「ねえねえ、またアレやってよ」
「アレ?」
「ほら、やま~にギャルと狐探し~、みたいなやつ」
「ああ、和歌か。よし、やってやろう。う~ん、そうだなあ。秋空に~、行楽飛行、狐狩り~、恋し君との皮算用や~」
「きゃっははははっ! なんかやっぱウケる~!」
弾けるように笑うキエラの、明るい声が深い青空の底にまでこだまするようだった。
こんな毎日のためにも、シュユを絶対に仲間にしなくちゃな。
先刻訪ねた神社の鳥居らしき物が紅葉の網目から見えたので、そのすぐ近くに着陸した。
「到着。キエラ、降りていいぞ」
「よっと」
「よし、鳥もどき。お前はしばらくここで待っててくれ。
「ライーッ」
ダストはUFOに残し、俺とキエラは再び古びた鳥居を潜った。
「おーいっ、シュユ~! 話があって来たー!
もう一回出てこ~いっ!」
一応呼び掛けてみたが、返事はない。
「居ないわね。やっぱり移動を?」
「······いや」
物置小屋の横に狸の置物があるのが目に止まった。それに近づく。
「······おりゃっ! 隙ありーっ!」
置物に飛びかかると、それはくるんっと宙返りして俺のハグを避け、煙と共に正体を現した。
「ホッホッホッ!お見事っ、お見事っ! やるではないかイルス! 今日は一味違うのう!」
愉快そうに笑い、扇子をバッと広げるシュユ。そこに、『びっくり!』と書いてあった。
「一度ならず二度も妾の化かしに気づくとはのう。いやはや、愉快、愉快」
心底楽しそうに笑うシュユ。普通、化かしがバレたら悔しがりそうなものだが、逆に楽しいようだ。
「まったく。ほんと悪戯好きよねぇ」
キエラも呆れたように笑っていた。
「さて、お主ら」
シュユは胸の谷間にスッと扇子を消し、簪を揺らして流し目を傾けてきた。
「戻るのが早かったのう。また用かえ?」
「ああ、用件は変わらない。俺らの仲間になって欲しい」
「ほーう。しつこいのう」
「しつかろうが、煙たがられようが、お前を俺の物にするまでは諦めん」
「っ? そ、そうか。そこまで本気か」
少し強硬姿勢か効いたのか、シュユが初めて動揺した反応を見せた。
「しかしのう······お前さんの仲間になったところで妾に何の得があるか······」
「まあ、そこは個人の判断だな。得するか損するかは来てみてからじゃなきゃわからん。それよりだ、シュユ」
ペールの言う通り、シュユは不安なだけだ。本当は仲間になりたい願望もあるのだろう。
ならば、連れてく口実さえあればいける。
「俺と勝負して負けたら仲間になる。ていうのはどうだ?」
「なに?」
こちらの申し出に目を丸くする。
「勝負。と言っても野蛮な事はしない。別に戦って力を競う事もしない。おそらく双方納得──いや、お前なら一寸の文句もなく納得して従うような勝敗でケリをつけよう」
「ほうっ! 意味ありげな物言いじゃな。して、その内容とは?」
俺の提案に食い付き始めた。
「ずばり、化かし勝負でどうだ?」
「なんじゃと?」
「えっ?! イルス?!」
シュユも、傍で聞いていたキエラも驚きの声を上げた。
構わず続ける。
「化け比べだ。妖怪ならそういった事も珍しい話じゃないだろう? どちらが化かしが上手いか競う。お前とのケリを着けるのにこれ程うってつけの方法は無いと思うんだが、どうだ?」
「ちょ、ちょちょっとイルス!」
シュユの返答よりも先にキエラのストップがかかった。
「それは無茶よ! だってシュユは何にでも化けられるけど、あんたはそんな事出来ないじゃないっ! 話にならないわ!」
「まあ、落ち着けよキエラ」
未だに目をパチクリしているシュユに向き直る。
「今キエラが言った通り、この勝負は圧倒的に俺が不利だ。よって、こちらはハンデをいくつか欲しい」
「ハンデとな?」
「ああ。その前にルール説明から先にさせてくれ。いいか?」
「うむ。構わんよ」
素直に話を聞くシュユ。後ろのしっぽが忙しなくそわそわ揺れているのを見るに、興味深々なのだろう。
「勝負は化かし合い。化かす側は何かに化けて、化かされる側はそれを見破る。化ける方を攻めとし、見破る方を守とする。この際、一定の区画と制限時間を決めて、その範囲以内で勝負する。化かされ側が制限時間内に化けてる相手を見破ったらその勝負は攻守交代で次に流れる。ただし、見破り宣言は一回のみ。もし間違ってたらその時点で化かされ側の敗北。化かし側の勝利。さらに、制限時間内に宣言出来なかった時も同じだ。どうだ? 簡単だろ?」
「ほうほうっ、なるほどのうっ!」
まるで子供のように目を輝かせるシュユ。
「つまり、先程のやり取りみたいなのを一定の区画と時間内でやろうって事じゃな?」
「その通りだ」
「して場所は?」
「うん、そこからが俺らへのハンデだ。場所はこちらが決める。その代わりにお前が先攻でいい。勝負は1本勝負」
「ほうっ! 1本勝負と申したな? つまり、もし妾が先攻で勝ったなら、それで終いという訳じゃが?」
「やれるものならな」
「ホッホッホッホッ!」
袖を当てずに口に手を添えて高く笑うシュユ。
「妾が先攻で、しかも化ける側とな? これでは勝負は決まったようなものじゃ」
「おっと、もう一つハンデがある」
「なんじゃ?」
「流石に、化けの達人のお前相手に俺だけで勝つのは無理だ。よって、こちらはキエラとのタッグにさせて貰う」
「えっ? あたし?」
びっくしてキエラが突っ掛かってくる。
「あんた何言ってんのよっ! あたし一人増えたところで圧倒的に不利じゃないっ!」
「まあまあ、それは相手が決める事だ。どうだ? シュユ。細かい打ち合わせはまた後でやるが、おおよそのルールはこんなんだ」
説明を終えると、シュユはたまらないと言ったように体を揺すっていた。
「ホホホホホッ! 面白い! 面白いのうイルス! よもやこれ程までに身の程知らずな勝負を言い渡してくる奴が居ろうとは!」
「そいつはあんがとよ」
「それで? 妾が負けたらお主の仲間になると言うのは分かった。しかし、逆の時は?」
「俺が負けたらお前の手下になってやるよ。式神でも使い魔にでもするといい。半か丁かの賭博だ。どうだ? 退屈はしないだろ?」
シュユの笑いはいよいよ頂点になった。
「ホッホッホッホッ!! 妾の心をくすぐる事ばかり申しくさる! まったく、イルスや、お主は何時からそんな愉快な奴になったのだ!」
ひとしきり笑うと、シュユは妖艶な笑みをたっぷり咥えながら頷いた。
「その勝負乗った。相手になろう」
「よしっ」
自信と楽しさに笑うシュユ。そして心配そうに俺を見ているキエラ。
これは賭けだ。こうまでしても俺はあの未來を変えたいんだ。それに──
勝算は十分にある。
お疲れ様です。次話に続きます。




