92──悪夢は続く
それは恐ろしい感覚だった。
『ヒャヒャヒャヒャッ! なんだこの力はよおっ! すげえや! 体の底から何かやベエのが湧いてきやがるぜえーっ!!』
本当にそんな力だ。自分の体の見えない奥底から、得体の知れない力が生まれる。
まるで、なんでも出来ると錯覚してしまうほど。願いが全て叶うかのように······。
『これなら俺は最強だぜぇ! なんにも怖くねえっ! 俺に敵う奴は居ねぇ!』
『フフフフ。喜ンデクレテ嬉シイヨ』
駄目だ。イルス、止めろ。
この力は受け入れちゃいけない。
『ナア、君。イルスト言ッタネ?』
『んあ? おう。イルス様だぜ~。ヒャーッ!
クソがケツから逆流してきそうなくらい力が溢れてきやがるぜーっ!!』
『イルス、少シ頼ミガアルンダ。オ願イシテモイイカナ?』
『んあ? ああ、いいぜ。こんなスゲー力をくれたんだ。なんだってやるぜ~!!』
駄目だ。
イルス、そいつの言葉に耳を貸すな。
止めろ。
『僕ハネ、マダ不完全ナンダ。ダケド、君ガ暴レレバ元二戻レル。ダカラ、ソノ力ヲ使ッテ暴レテクレナイカ?』
『あん? そんなんで良いのかあ?』
『アア。ソウダナ······出来ルダケ他人ヲ苦シメタリ、心ヲ壊スヨウナ振ル舞イヲシテクレルト、モットイイカナ。例エバ······リゲルヲ苦シメル、トカネ』
『リゲルを?』
?!
なんだ、この感覚。
胸の中から何かがせりあがってくる。
吐き気が······力に······感情が············心が飲み込まれていく············。
『············いいぜ。やってやるぜ』
『フフフフフ。良イ顔ダ』
『俺は······俺はリゲルを············』
駄目、だ············。
「っはあっ!!?」
荒野は消えた。あのグロテスクな肉塊も、全身を蝕んでいた不気味な力も。
全部消えた。
「はあ、はあ······またあの夢か············」
今日の目覚めは悪く、顔を洗ってもあまりサッパリしなかった。
「············」
何度か見ているあの夢。
悪夢と言うにはリアルだ。
あれは多分記憶だろう。この体······イルスが実際に体験した記憶。
ほとんど断片的だが、俺はあの夢を覚えている。
今までに何度か見た他の夢とつなぎ合わせるなら、一つの場面へと完成する。
恐らくこういう流れだろう。
イルスは隕石の上に辿り着いた後、そこにあった謎の肉塊を発見した。
その肉塊は意思を持っており、イルスに悪魔の囁きを傾けた。力を授けよう、と。
それこそ、かつてのペールやカミラを歪ませてしまった最悪の力、『崩壊の力』。
その謎の肉塊は多分、シリウスだ。未だに不明な点が多い謎の人物。敵。
崩壊の力を受け入れてしまったイルスはさらに、そのシリウスからの頼みを聞いてしまう。
その後に何があったのかは······まだ分からない。
「嫌な夢だ······」
食堂へ入ってみると、既にキエラとペールがテーブルに着いており、何やら話していた。
俺が入ると、気づいて顔を上げた。
「あ、遅かったじゃんイルス」
「おはようっス」
「おはよう。あれ? カミラは?」
「さっき起こしに行ったんスが、『何時だと思ってんだ!』って怒られて追い返されたっス」
ああ、そういやあいつは午前いっぱいは寝てるんだっけか。中途半端な夜行性だからな。昼には起きるだろうが。
「なら朝飯は俺らだけで食うか。ん? お前ら何やってんだ?」
見てみると、キエラとペールはクッキーを砕いてミルクに浸したり、パンを小さくちぎって山盛りにしたりしていた。
「おいおい、随分と斬新な朝飯だな」
「違うわよ。これは特性のご褒美オヤツよ」
「ご褒美?」
「あ、そっか。イルス、ラッキータウンに行ってた部隊が帰ってきたのよ。さっき着いたとこ」
「おお、そうか」
カミラに手紙を渡した部隊が帰還したのか。それなら俺からも労ってやらんと。
「そいつらはどこに?」
「あそこっス」
指さされた方を見ると、仲間に群がられてひょーひょー囃し立てられている自慢げな一団が目についた。
「あいつらか」
側に行ってみると、その得意げダスト達が俺に気づいてボコボコ跳ね出した。
『ヒョヒョーッ!!』
「おう、お前ら。長旅ご苦労様。遠征から帰った諸君らにはこの高級クッキー缶をやろう」
『ヒャヒャヒャーッ!!』
クッキーに殺到して床を汚していくダスト達。呆れたキエラと苦笑いしたペールが特製ご褒美オヤツを皿に盛って置くと、それも食い散らかした。
「おう、腹減ってたんか。ん? だが食糧は十分持たせたよな?」
「ズットカンヅメアキル!」
「ナマモノ、コイシイ!」
「そ、そうか。まあ、ゆっくり食えよ」
「アッ、ペール、イル!」
「あ、どうもっス。新入りのペールっス」
「ペール、パシリ! アンパン、モッテコイッ!」
「ええっ?!」
「おい、口のききかたには気をつけろ。ペールはファミリーの幹部だぞ」
「マジカ!!? ペールアネキ! オレラ、パシリ! ペールアネキノテシタ!」
「そ、そうスか?」
これで部隊が一つ帰還。
ローナも昨日の時点で見つかったようだし、その部隊も近い内に帰ってくるだろう。
あと報告の無いのは······ハッピータウンのシュユの部隊だけか。
「イルス、なんだかあんたの計画上手くいきそうじゃん」
「それがそうとも言えんのよ。ローナには断られちまったからな」
「えっ? そうなの?」
「ああ、言ってなかったか。そう、ローナからは手紙でNoと言われた。まあ、諦めずに直接勧誘に行くつもりではあるが······問題はシュユだな」
実はシュユが一番厄介なのだ。
と言うのも、そもそもどこに居るかおおよその位置すら微妙なのだ。シュユルートにおいても、その本拠地はハッキリしない。どうも、無人の廃墟となった神社とか寺を転々としているようではあるが······神出鬼没。
となれば、発見は困難だろう。
「まあ、こればかりは気長に待つしか······」
『ヒョヒャヒョ~ッ!』
そんな風にキエラとやり取りしていた時だ。
何体かのダスト達が奇声を上げながら食堂へ飛び込んできた。
「なんだ? 何事だ?」
「オヤブンッ、オヤブン!」
「テイサツ、モドッタ!」
「シュユ、テイサツ、モドッタ!」
「なんだと?」
予想外の朗報が唐突に飛び込んできた。
お疲れ様です。次話に続きます。




