91──放課後の教室
本日3本投稿です。
カミラがイルス達の元へ加わったこの日。
ちょうどイルス達が歓迎会でテーブルを囲んでいたあたりの時間だろう。
リゲル達はリゲル達で、彼女達なりの時間を過ごしていた。
「はい、これで大丈夫」
──ペリっ──
「っつつ。ふぃ~。先生、あんがと」
「どういたしまして」
パラダイス学園保健室。
外から入る夕日が真っ白なベッドを緋色に染め上げ、レースカーテンをしっとりとした夕暮れの風が、微かな夜の匂いで揺らしていた。
そのベッドの上に座り、今しがたばんそうこうを取ってもらったカーリー。そして、同じく手当てを受けたレンが、医療箱を片付ける女性に礼を言う。
「ありがとうございました、先生」
「いいのよ。レンもカーリーも大変でしたね」
そう言って微笑む女性はまだ若く、とても美しい人物であった。
飾り気もなく、色香も纏わずに1本に束ねた髪、控えめの化粧。そして理知的な内面をそのまま表情にしたかのような人物。
頭から出ているウサギのそれに似た耳だけが、少しばかり可愛らしさを印象づける。
リゲル達のクラスの担任、ラビィ・カロットである。
イルス──山田太郎──が荒れ果てた世界の墓石で名前を見た人物だ。
「それにしても、カーリーやレン、それにメルがここ最近こうやって怪我してくる事が多いなんて。イルスには困ったわね」
「ほんとっ! あいつ、ぜ~ったい許さないんだから~! 覚悟しろよ~!!」
「カーリーみたいにあまり興奮したくありませんが、私も同意見です。許せません」
怒りの炎を瞳にたぎらせるカーリーと、静かな決意を氷のように秘めるレン。
そんな二人の様子を見てラビィが小さく笑う。
「あらあら、あんまり喧嘩ばかりしちゃ駄目よ? イルスだって、本当は仲良くなりたいだけかもしれないんだから」
「あたいは嫌っ! 仲良くなれないっ!」
「私も仲良くなれる自信はありません」
「あらあら」
ムキになる教え子達に苦笑いするしかない教師なのであった。
カーリーとレンの二人は保健室から退室し、放課後のしみじみとした廊下を歩いた。
「くっそ~! 悔しい~! イルスのやつめ~! それに、ペール~!」
「イルスはともかくとして、ペールもまた悪巧みとは······厄介ですね」
「あいつはコピー能力あるからね。でも、なんでまたイルスと手を組んだんだろう? 前回は成り行きで暴れてた感じだったけど、今回のはなんて言うか······」
「分かります。妙に意志疎通出来ていたと言うか、イルスとペールがまともに会話していた感じがしましたね」
「う~ん······」
腕を組んで唸る友に、レンが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いや、やっぱさ。なーんか変なんだよね」
「何がです?」
「イルスだよ」
カーリーが眉をひそめる。
「あいつ、この間から少し変じゃない? なんか雰囲気変わったって言うかさ、前はもっとこう、どうでもいいようなしょうもない奴って感じだったんだけど······」
「······そうですね」
カーリーの言わんとしている事を、レンもすぐに理解した。同じような感想を抱いているからだ。
二人が感じる違和感。それは不思議な感覚とも言えた。
イルスがまるで中身だけが入れ替わった別人のように感じられるのだ。それも、どこか不思議な興味を抱くような人物に。
「······いずれにせよ。イルスがまた何か悪巧みをしているようなら私達は戦わなければなりません」
「もちろんっ! 次は勝つ!」
二人は廊下を渡り、階段を登り、教室がいくつか並ぶ階へ出た。
パラダイス学園は小、中、高のいわゆる一貫校である。が、この世界において学歴はさほど意味を為さないので、進学のためと言うよりは、人口の問題などの諸事情によって子供達の教育施設が一つに纏められていると言うべきだろう。
そんな学園の高等部に値する階は三階、最上階だ。クラスは全部で三つ。
その内の一つにカーリーとレンが入る。
「ただいま~」
「お待たせしました」
二人が中へ入ると、夕日に燃える教室の真ん中に机を寄せあっているリゲルとメルが居た。
「あ、二人ともお帰りっ! 怪我は大丈夫?」
「ああ。メル、あんたは?」
「あたしはリゲルが守ってくれたから平気っ」
「メル、リゲル、すみません。私の代わりにお仕事させてしまって······」
「ううん、大丈夫。任せてよ。それより、二人とも怪我はもういいの?」
その問いにカーリーがフンッと鼻を鳴らした。
「あたぼうよ! 女は根性! あんくらいで何時までもへばってないよ!」
「さすがカーリー。でも、無理はしないでね?」
リゲルは少し心配そうな表情を浮かべた。
「二人とも、相手があんまり強い場合は無理しないでね? イルスだけじゃなくてペールまで同時に相手するなんて無茶だよ」
「それを言うならリゲルの方でしょっ」
「いたっ」
カーリーがリゲルのデコを指で軽く弾いた。
「まったく。イルス、ペール、カミラ相手に戦ったんでしょ? メルも居たとは言え、そんなの無茶苦茶だよ。あたいらが揃ったってキツいってのにさ」
「あはは、ごめん。私もなるべく無理はしないようにしてはいるんだけど······」
「リゲルは真面目ですからね。一度こうと決めたら何があっても退きませんから」
「それって頑固って意味じゃないの~?」
「あ、メルちゃん、この~」
「あははははっ」
リゲルにくすぐられて笑うメル。釣られて笑うカーリーとレン。
放課後の夕暮れとは、しんみりとしたほの暗い明かりの中に、煌めく息遣いが映える不思議な空間である。
「よしっ。せっかくみんな揃ったんだし、少し作戦タイムしてこっか!」
『作戦?』
リゲルの提案に皆が首を傾げる。本人はニコニコと楽しそうに笑っていた。
「私ね、思ったの。イルスは相変わらずなとこもあるけど、なんだか話し合えば分かり合えるような気がするんだ。だからね、また戦闘になっちゃう前に落ち着いて話せる状況にすれば平和的に解決出来るんじゃないかな。だから、どうにかしてイルスと話し合おう作戦っ!」
「冗談っ! あたいは反対っ! どうせまた変態な事してくるに決まってる!」
「そうですね······」
「それはやだなぁ」
「え~?」
三人の反対反応に困ったように落ち込むリゲル。
彼女達とイルスとの確執はいつか晴れるのだろうか。
こればかりは誰にも分からない。
未來とは不鮮明で不透明で、計り知れないものだから。
それでも、そこに明るい希望を抱く少女リゲルなのであった。
お疲れ様です。次話に続きます。




