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90──夜も間も深めて

 


 案内と言っても、ほとんどの部屋は空き部屋だし、共有スペースとして機能している場所は限られている。



「ここが風呂場だ。いいか? ここを利用する時は必ず事前に俺へ報告するんだ」

「なぜだ?」

「何故でもなんでも、そういう決まりだ」

「カミラ、無視していいわよ。どうせ覗いたり、脱いだ服を物色したいだけだから」

「覗いたりしたら血吸うからね!」



 トイレ、洗面所、そして庭にある物置小屋なども案内しておく。


「この物置には何があるの?」

「実は俺もよく分かってない。まあガラクタ置き場だな。お前も要らない物とかあったらここにぶちこんでいいぞ」

「あっ、そう言えば荷物とか持ってきてない」

「服とかか?」

「ううん、一緒に寝るぬいぐるみ······う、うむ! 服とかだなっ!」


 ぬいぐるみか。あまりかさばらないし、明日辺りに取りに行ってやるか。



 あらかた案内も終わった頃にはすっかり日も落ちて、早くも夕飯の頃合いになった。



「さて。ちょうど時間も夕飯の頃合いになったな。一応、食堂の案内もしておこう」



 食堂に戻ると、集まったダスト質が一足早く争奪戦という名の食事をしていた。


「ピャーッ!」

「アバアババァー!」

「ンブァボゥ!」

「ドョドョー!」


「えー、ここが知っての通り食堂だ。このアジトで一番広い部屋だ。飯とか作戦会議、それに何か催し──さっきのお前の歓迎会とかがそうだな──を行ったりする場所だ。見ての通りダストどもがよく食い物の奪い合いしているから気をつけてな」

「まったく。これでは無法地帯ではないか」

「俺らは無法者だからな。さ、キッチンへ行くぞ」


 キッチンへ入ると、ペールがいそいそと食器の用意をしているところだった。


「あ、みなさん、ご苦労っス」

「おう、お疲れさん。今日のメニューは?」

「グラタンとサラダ、スープっス。昼が豪勢だったんで夜は軽めのが良いかと思って」

「いいわね。あ、あたしも手伝おっか?」

「い゛ぃっ?!」


 キエラの申し出にカミラがとんでもねえ声を上げた。


「どうかしたの?」

「だ、駄目だっ! キエラ! お前はキッチンに立ってはいけないっ!」

「え、なんで?」

「なんでって······もがっ?!」

「ほ、ほら、あれだ。キエラばっかりに負担かけるのは申し訳ないからって言いたいんだよ!」


 カミラの口を塞いだまま、少し離れて耳打ちする。


「いいか、このキッチンにおいて最も気をつけなきゃいけないのはキエラに料理させない事だ」

「だったら今止めればいいじゃん!」

「しーっ! そんな事言って逆ギレしたらどうする? それでムキになって『毎日作る!』なんて言われたら俺らの死は確実だ」



 これは杞憂ではなく、実際にゲーム中であったイベントだ。イルスが本音を言ったばかりにキエラが逆上してしまい、アジトの食糧を全て料理して、イルスファミリーが壊滅状態になるという世にも恐ろしいイベントだ。



「だからな、キエラを傷つけないように適当にはぐらかして料理させなけりゃいいんだ」

「ぐむぅ。なんで我がそんな事······」

「またプリン食いたいか?」

「ひっ······分かったよぉ······」


 こうして、キッチンの冷蔵庫やらその他食品の保管場所等も合わせて説明し、そのまま夕飯をとる事にした。



「うんっ、じゃがいも熱っ、うまっ」

「美味しい。ペール、ごめんね任せっきりで」

「いえいえ。居候の身っスから」

「キエラ、これカミラと飲んじゃってくれ。昼間に空けたブドウジュースの残り」

「サンキュっ。はい、カミラ」

「プハアッ。ククク、この味よ。まさに夜の帝王に相応しき味だ」



 カミラも入れて四人の食事。途端に賑やかになった感じがする。





 食事も終わり、風呂なども済ませて就寝の時間になり、キエラとペールはそれぞれの部屋に帰っていった。



「さて、俺も寝るかね」


 ──くいっ──


「ん?」


 誰かに袖を引かれたので振り返ってみると、カミラであった。


「なんだ? どうかしたのか? あ、トイレについてきて欲しいのか?」

「違うっ! 貴様、もう寝るのか?」

「ああ、そうだが······」

「寝ぼけた事をぬかすな。夜はこれからだぞ? ほら、これでババ抜きやるぞ」


 そう言って俺の顔にトランプを突きつけてくる。


「いや、俺はお前と違って完全なる昼光性でな。もうお眠の時間で······」

「やだっ! 私はまだ眠くないのっ。暇だ~!

ババ抜きやろうよー!」


 ──ずるずるずる──


 駄々をこねて、俺の腕を無理やりとって引きずりはじめる。


「仕方ねえなぁ。おーい、そこに居るダストども。夜更かし好きな奴はこっちこい」


「ベアベーッ!」

「ポポアポー!」

「コココゴーッ!」


 頭合わせに何体かのダスト達を集め、歓迎会で使用したテーブルの一つに座ってカードを配る。


「クックックッ。さあ、今宵の生け贄は誰だ? 貴様か? それとも、貴様か?」

「ヒュエ~······」

「ポアー······」


 ダスト達に圧をかけてゆくカミラ。すっかり帝王気取りだ。


「ククククク。イルスよ、今朝はオセロでまぐれを起こしたようだが、今度はそうはいかんぞ。偶然やまぐれは起こらん!」


 どう考えてもトランプでのゲームの方がまぐれ勝ちがあり得るが、まあいっか。


「見よっ! 我の最初の捨て札! クイーンの二枚だー!」


 最初に捨てる札の時点でなんか盛り上がってる。


「さあ、準備は出来たぞ。まずは我から引く。クマもどき、カードを出せ」

「ヒャイー」


 カミラスタートからの時計回り。

 時計の針は深い夜中を告げている。



「よし、二枚揃った」

「ぬぬっ! やるではないか!」

「ポエーッ!」

「お、アライグマもどき、お前も揃ったか」

「ふん、我もすぐに揃えて一番にあがってやるわ······あっ!?」

「お? ババ引いたか?」

「な、ななな、そんな訳ないだろう?! 気高き吸血姫はジョーカーなど引かんのだ!」

「そうか。じゃあ、引かせて貰うぞ」

「······イルス、左のカードがおすすめだ」

「そうか。おすすめか」


 ──シュ──


「あっ!?」

「お、エースが揃った。ラッキ~」

「なんでそっちの右を取るんだー!!」

「ほら、おすすめなんて良いカード取れねえからさ」

「う~っ! 私だって! それっ! あっ?! ハズレ······う~っ······」



 なんやかんやあって、俺とカミラ以外のダスト達は上がった。


「くそ~! イルス、貴様だけは我が倒す!」

「やってみな。さて、二分の一か」


 俺がカミラからカードを引く番か。まあここは深く考えず、直感で──


 ──ぐい──


「ん?」


 ──ぐいぐい──


「······」


 取ろうとしてるのに、カミラが持ったまま離そうとしない。


「おい、カミラ」

「うぅ~······」


 涙目になってやがる。


「······はぁ」


 仕方ねえな。


 ──シュ──


「げげっ、ジョーカーかよ」

「っ! ハーッハッハッ! 運の無い奴め! そして、我のターンっ! 貰ったぞー!」


 ──シュ──


「!! やったーっ! 私の勝ち~!」


 最後にクローバーの7を引かれ、俺の手にはジョーカーことババが残された。


「ハーッハッハ~ッ! イルス~、言ったろう? まぐれは起こらんと! 貴様の負け、我の完全なる勝利だー!」

「このやろ~」


 わざと負けてやったのにっ。ムカつく!


「よし。じゃあ寝るぞ」

「何を言ってる? まだまだ始まったばかりではないか。次やるぞ!」

「この夜更かしロリめ」



 結局。


 その後も二時間近くやり、何度もわざと負けてやったりしてカミラも満足していた。



「ふぁ~あ······もう寝かせろ······」

「ククク、良いだろう。これで今朝の鬱憤は晴れた。ぐっすり寝れそうだ」

「そいつは良かったな······」



 流石に眠い。


「じゃあな。おやすみ······」

「ああ············イルス」

「ん?」

「············私を仲間にして正解っ。明日から楽しくなるぞっ!」

「······そうか。夜更かしした甲斐あったぜ」

「うむっ。さ、寝ろ寝ろ」



 子供っぽく、ワクワク笑顔のカミラを見ていると、あんな悲劇が夢だったかのように思えた。


お疲れ様です。次話に続きます。

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