89──ようこそ無法地帯へ
数分の介抱の結果、カミラはなんとか目を覚ました。
「ハッ······わ、私は、生きてる·····?」
「よう、大丈夫か?」
パチパチと目を瞬き、辺りをキョロキョロと見回す。
「こ、ここはあの世じゃないよね?」
「大丈夫だ。イルスファミリー食堂だ」
「まだ顔色悪いっスね······」
ペールが支えて立たせてやると、カミラは椅子の上に座って頭を抱えた。
「う、うう。なんなのあのプリン······食べた瞬間、口の中で何か爆発して、喉を貫いて意識を寸断するような威力······」
爆弾の話なのかプリンの話なのか分かりかねる発言だが、まあ、キエラだしなぁ。
──ガチャッ──
「みんな待たせたわね。カミラの部屋の掃除が今終わったとこよ」
「ひっ?!」
食堂へ入ってきたキエラを見るや否や、カミラはペールの背にささっと隠れてしまった。
「キエラコワイキエラコワイキエラコワイ、プリンコワイプリンコワイプリンコワイ······」
「? どうしたの? カミラ」
もはやダストみたいだなカミラのやつ······。
まあ、そんな事よりだ。
「よーし。これで主要メンバーも主役も揃った事だし。おーいっ、野郎どもーっ! 集まれー!」
『ビョビョビョヒョーッッ!!』
晴れて二人目の四天王を仲間として迎えられたのだ。
パーッとやんなくちゃな。
「えー、では次のプログラムは、ダストワルツのパッパラパーオペラ。〈月の下の吸血姫〉気高く美しき吸血の姫に恋する青年達の愛の情熱をお楽しみあれ」
カスタネットやタンバリンを音楽隊ダストが気取って慣らしながら、キエラが語り手を務める。
「ああ、美しき姫よ。君の瞳はルビーよりも紅く、君の微笑みには月ですら恥じらい、薔薇の蕾が夜の露を受けて愛を囁くように花を開くだろう」
いいぞキエラ。俺が適当に作った語りをちゃんとそれっぽく流している。
村の青年役ダスト達が出てきて、ペールが照明を影で覆って暗くする。
照明係のダストが光る石で舞台を照らす。役者達がボコボコと踊る。
「アー、カミラ、キレイ!」
「カミラ、ウツクシイ!」
「ツヨイ、ケダカイ!」
「カミラ、ヒメ! ウツクシイ!」
楽曲隊が鈴をジャカジャカ鳴らして大いに盛り上げる。
俺が自分で用意しておいて言うのもなんだが、もう滅茶苦茶な劇だ。小学校の発表会でももう少しまともな物になるだろう。
だが──
「ハーッハッハッハッハッ!! 素晴らしい!
なんて壮大なオペラだ! クク、ドラゴン・ブラッドが美味いぞっ!!」
カミラ当人には大好評のようで、ブドウジュースの満ちたグラスを大袈裟に傾けて高笑いを上げていた。
「よーし、お前ら! そんな気高くて美しい吸血の姫をブドウジュースでもてなせ!」
『ヒョヒョーッ!』
ダスト達がブドウジュースのボトルを持ってワラワラとカミラへと群がる。
一体がボトルを傾ける。
「メゴ~」
──トクトクトクトク──
「おお、気が利くな。んくんく······ふぅ」
「パダンパ~」
──トクトクトクトク──
「ククク、ご苦労。んくんく······ぷはぁっ」
「メダモー」
──トクトクトクトク──
「お、おお。総出でのもてなしか。んくんく······」
「ガビビラ~」
──トクトクトクトク──
「う、美味い。美味いが、その、だな、もうそろそろ我のお腹が······」
──トクトクトクトクトクトク──
「んくんくんく······うえっぷ······も、もう······」
──トクトクトクトクトクトクトクトク······──
ジュースお注ぎ部隊からのもてなしにより、カミラが床に大の字になって寝る。お腹がポッコリと膨らんでいる。
「おいおい、まだこの後に食事もあるんだぞ」
「うっぷ······す、少し休憩してから······」
主役が食い倒れならぬ飲み倒れしてしまったが、その後の歓迎会も盛大に盛り上がり、最後のカミラからの挨拶となった。
「えー。コホン。よいかっ、者ども! 我が味方になったからには安心だ! 貴様ら眷属が世界を獲ったも同然と言っていいっ! 我が誇り高き力を存分に貸してやるっ! 貴様らも、我に付き従ってくるがいいっ! リゲルやその他もろもろもすぐに打ちのめし、我の足下に跪かせてくれよう!」
『ヒャホホホーッ!!』
大歓声を浴びるカミラは実に気持ちよさそーに笑っていた。
「うむっ! 結構ではないか、ここは!」
歓迎会が終わった頃にはすっかり夕方になっていたので、そのまま夕飯の支度へと移る事となった。
「そんじゃペール。夕飯の支度はよろしくな」
「了解っス」
夕飯はペールに任せておいて。
俺とキエラで部屋に案内してやるか。
「それじゃあカミラ。お前のために用意した部屋へ案内しよう」
「うむ」
今日の歓迎会で上機嫌になったカミラは鼻歌交じりの小ステップで後をついてきた。
「ふふふ。ご機嫌ねぇ、カミラ」
「まあな。思ったよりはここも悪くはないからな。我は孤高なる王であるが、請われては仕方ない。貴様らとの生活、受け入れよう」
「じゃあ、あたしが髪の毛とかセットしてあげるわね。ふふふ、カミラに似合いそうな服も用意しないとっ。あと帽子も」
「な、なんだ。ずいぶん積極的だな?」
キエラも妙に嬉しそうだ。あー、そう言えばキエラはカミラの事けっこう気に入ってて、妹みたいに世話焼きたがるんだったな。
あの時はちょこっとだけ存在した百合イベントがこうやって間近で見られるとは。
──ガチャッ──
「ここがお前の部屋だ」
「わあ~っ······」
深紅のカーペットを敷き詰め、可愛らしいシャンデリアを浮かべ、ピンクのベールに包まれたベッド。
ゴスロリチックなキャビネットとテーブルは、キエラが能力で変形させた物だが、なかなかの匠の技だ。可愛いリボンでポンポンと装飾されているのも細やかなこだわりだ。
窓は分厚い遮光カーテンによって完全に光を遮り、灯りとして蝋燭の燭台も配置してある。
「こ、ここが私の部屋?!」
「ああ。どうだ?」
「すごくいいっ! 可愛い部屋っ······あ。コホン! まあ、悪くはない。合格だ」
体裁をつくろうカミラにキエラがおかしそうにクスリと笑う。
「さて。部屋も気になるだろうが、くつろぐ前に他の共有スペースの案内もしておかないとな」
「うむ!案内せよ」
とても楽しそうな吸血姫をエスコートして、この廃墟の城を案内していかないとな。
お疲れ様です。次話に続きます。




