88──洗礼
本日3本投稿です。
──ポコポコポコッ──
「いててっ!? いてえって! 止めろって!」
「う~っ! ううーっ!!」
ご機嫌斜めのカミラによる柔らかポコポコ殴りに晒されながらアジトを目指す。
「どーして邪魔したのー!? あとちょっとで、あとちょっとであの良い子ちゃんリゲルを泣かせてやれたのに~!!」
「ま、まあまあ。カミラが強いのはよく分かったっス。あれならリゲルは何時でも倒せるっスよ」
「いてて、そうだぞカミラ。ペールの言う通りだ。あの戦況ならお前が勝ってたろう。なら、次も勝てるはずだ」
ペールのフォローに乗っかっておだててみると、単純なカミラがその気になった。
「ふ、ふん。まあな。我は強いから何時だってリゲルなんかボコボコだ」
「おう。また頼むぞ~」
「よかろう。ところで······イルス、貴様ちょっとそっちに寄れないか?」
「無理だ」
「イルス、ウチも言おうと思ってたんスが、もう少しそっち側に寄ってもらえると······」
「狭くてな。無理だ」
三人で押しくらまんじゅう状態のこの状況。存分に堪能しない手はない。
う~ん。人肌感じる温もりに脳に届くほのかな少女達の良い香り。ああ、ここは天国。
「あっ! イルスが恍惚な表情浮かべてるっス! やっぱりワザと密着してるっス!」
「やっぱり! この~っ!」
「いててっ! 分かった、分かった、少し離れるから怒るなって!」
ちっ。もっと堪能したかったのに。まあ、多少離れても美少女達に囲まれてる感はそのまんまだしここは妥協しとこう。
少しして、アジトが見えてきた。
「アジトが見えたぞ」
「ほう、あそこが貴様の城か。クク、我の城に比べれば庭鶏小屋だな」
「その庭鶏小屋に今日から加わるヒヨコがお前だ。喜べ」
「おのれ、バカにしてるのか?」
UFOを庭先に着陸させると、出迎えのダスト達がボコボコと寄ってきた。
『ヒャーッ?!』
そして、コックピットから颯爽と降り立ったカミラの姿を見るやダスト達は震えあがった。吸血鬼のような種は本能的に畏れるようだ。
「クックック、眷属ども、出迎えご苦労」
「ヒュエ~······」
「ライ~······」
「ピョエ~······」
その場の地面に平たくへばりつくダスト達。まるでお代官様にひれ伏す罪人みたいだ。
「ククククッ、ハーッハッハッ! 悪くない、悪くないぞ、この城も!」
かしずくダスト達にすっかり気を良くしたカミラはさっきまでの不機嫌は綺麗に消え、今度はご機嫌、いや、有頂天になっていた。
「イルス、なかなか良い所じゃないか。うん、この城も我の城に負けぬ立派な城だ」
「さっき庭鶏小屋とか言ってたろうが」
まあいい。
こんなに楽しそうにウキウキしてるカミラなんて見た事ないからな。ペールもそうだったが、ゲームをプレイして画面の向こうから見てただけじゃ分からない彼女達の表情がここにはあるのだ。無限の表情差分だ。
「よし、ちょうど昼ごろか。歓迎会で飯でも食うとしよう。カミラ、案内するぞ」
「あ、ちょっと待って下さいっス。イルス、何やらダスト達が騒いでるっス」
「ん?」
食堂へ向かおうとしたところでペールに呼び止められた。
「ほら。なんか居るんスかね?」
ペールの指差す方を見てみると、さっきまで俺らを出迎えてたダスト達が、北の空に向かって何やらヒャーヒャー騒いでる。
「イルスの事呼んでるっスよ」
「そうか? 分かった。よし、あー、そこのベンチでたむろしてる奴らー、こっち来い」
俺は近くに居た別のダスト達を呼び寄せた。
「カミラを食堂まで連れていってやってくれ。大事なゲストだ、粗相の無いようにな」
『ヒョヒョヒョーッ!』
「イルス、貴様は来んのか?」
少し寂しそうな目つきを上げてくるカミラ。
「いや、俺もすぐ行く。少しだけ用があるんだ。ほんとにすぐ行くさ」
「······分かった。すぐだぞっ」
「おう。男に嘘も二言もない」
「うむ。ダストども、案内せよ!」
『ヒャヒャーッ』
ボコボコと進み出すダスト達の後をカミラがついていく。後はダストとキエラに任せておこう。
「さてと」
ペールの元へ行く。その足下でダストらがヒャーヒャー騒いでる。
「お前ら、何を騒いでるんだ?」
「オヤブン、ソラ、ミロ!」
「キタ、ソラ!」
「テイサツ! カエッタ!」
「なにっ?」
言われた通り北の空へ目を凝らす。
遠くの方に小さな影が飛んでいるのが見えた。
「北側という事は······ローナの捜索隊か!」
ほとんど待たずして、鶏もどきのダストが俺らの元に舞い降りた。取り巻きダストが歓声を上げる。
『ヒョヒョヒョーッ!』
「ゴゲエ~ッ! オヤブン、オヤブン! オレラミツケタ! オレラ、ローナアッタ!」
「そうか! でかしたぞ!」
四天王最強とも言えるローナの発見だ。これは大きい。
早速、早馬ダストの足にくくりつけられたマップを開く。
マップには、北側遺跡の幾つかと、その周辺集落の2ヵ所に円が標されていた。
「ローナの返事は、と」
あいつは最も友好的だ。多分答えはイエスだろう。
『イルスへ
お手紙ありがとう。内容はしっかり拝読させてもらいました。気持ちは嬉しいけど、お誘いはお断りさせてもらいます。 ローナ 』
「なにっ?!」
「ありゃ。振られちゃったっスね」
これは意外。悪事の手伝いのオファーならともかく、俺が出した手紙は『もっとイルスファミリーを強くしたいから仲間になってくれ』的な事を書いただけなんだが······。
「ふーむ。これは直接勧誘に行くべきだろうな。しかし、マップのマークが多い······まあ、いい。よし、ご苦労だったな。よく休め」
早馬ダストに褒美の菓子を与えるとむしゃぶりつくように食い始め、周りのダスト達が功績を讃えるように跳ね回る。
「ペール。とりあえずカミラの歓迎会へ行こう。お前らも後で来いよ」
『ヒョヒョヒョーッ!』
ペールと共にアジトへ入り、廊下を歩く。
「うーん。ローナか。正直あいつに断られるとは思ってなかったからな。理由はなんだろ?」
「ウチも前に一回だけチラッと会っただけっスが、なんだか掴み所のない子っスよねえ」
「まあいい。今日はカミラの歓迎会もあるし、ローナの勧誘活動は明日からだな」
そうやってペールと話して歩いていると、食堂の方からキエラがやってきた。
「あ、二人ともお帰り」
「よ、戻ったぜ」
「ただいまっス」
「遅かったわね。カミラ連れて来るのに苦労したの?」
「いや。ただ、途中でリゲルとかと戦ってな。いや~、疲れたわ」
「そうだったんだ。ふふ、ならちょうど良かったわね」
「何がだ?」
キエラはドヤ顔で答えた。
「帰りが遅かったから、先に料理の用意を少ししとこうと思ってね。特性プリン作ってたの」
「えっ?!」
「え゛?!」
「カミラもお腹減ったー、とか言うから先に出しておいたわ。あんた達も早くいかないと無くなっちゃうわよ?」
「た、大変だペール! カミラが亡くなる!」
「い、急ぐっス!!」
「あっ、ちょっと!?」
キエラを押し退けて、急いで食堂へ駆け込む。
──バタァーンッ──
「カミラっ!!」
『ヒョ~······』
「あ」
時すでに遅し。
カミラの小さな四肢が床に投げ出され、くるくるヘアーが青白い顔を隠し、その周囲でダスト達が厳かに敬礼している。
「カミラーっ!?」
ぐったりした体を抱き起こす。口から泡を吹いていた。
そして、手から金色のスプーンが落ち、テーブルの上には欠けた紫色のプリンが残ってた。
「カミラーーー!」
歓迎会の前に葬式になりそうだ······。
お疲れ様です。次話に続きます。




