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87──退却

 


「う~っ! イルスー! ペールー! こんな起こし方があるかーっ! 怒るぞーっ!」



 UFOの残骸から産声ならぬ恨み声を上げながら現れるカミラ。


「まったく、眷属でなかったらボコボコにしてるぞ! アジトに着いたなら着いたって······え?」


 パッタリとリゲル達と目が合うカミラ。カミラを見て目を丸くするメルとリゲル。


 カミラが頭の上に ? を浮かべる。


「あれ? 貴様らなんでリゲルどもに化けてるんだ?」

「えええ~っ?! カ、カミラ~?! ペ、ペールだけじゃなくてカミラも居たのっ?!」


 突然のカミラ出現にメルがびっくり仰天する。


「ま、まさかカミラまで居るなんてっ······」


 そりゃ驚くわな。

 ただでさえ、俺一人でも厄介で、ペールが居たらめちゃくちゃ厄介なのに、そこへまたカミラが出てくるんだからな。


 まさにボスラッシュだわ。



「んー? 貴様ら······本物か?」

「カミラ? カミラも居たの?」


 流石に驚くリゲル。四天王クラスが同時に出てくる事なんてないからな。こんな光景見た事無いんだろう。


「ほう。本物か。リゲルと、メルか」


 カミラがスッと目を細める。ルビー色の瞳の奥に好戦的な光が瞬く。

 ふわっと浮かび上がり、ガラクタの山から飛び立つ。



「なるほど。我の眠りを妨げたのは貴様らという訳か。そんな命知らずが居たとはなぁ」

「もしかして、ペールのUFOの中に居たの?」

「寝てたのだ」


 カミラがそう答えるとリゲルは申し訳なさそうにペコッと頭を下げた。


「ごめんっ、カミラが乗ってるとは知らなかったの。ごめんね?」

「ああ、気にするな。それは些細な問題ではない」


 牙を見せて笑うカミラ。しかし、その目は笑ってなかった。


「そんな事より、この間我とイルスがブドウ農園で優雅に過ごしてたのを邪魔した事。忘れてはおらんぞ?」


 あー。あれか。カミラルートのイベントだな。ワインが嫌いなカミラが農園をイルスと襲撃して全部ブドウジュースにするように迫る事件。

 当然、リゲル達ヒーローチームに成敗される。



 リゲルがパッと顔を明るくする。


「え? あ、あの件? 忘れずに反省してくれてたの? 偉いよっ、カミラ」

「ピキッ」


 あーあ。

 リゲルの悪意なき煽りがカミラの高慢チキなプライドを逆撫でしてる。


「クックック。愉快な奴だなリゲル」

「え? そう? ありがとねっ」


 あ、また。

 皮肉さえも本当の褒め言葉として捉えてしまうくらい聖人なんだな。

 いや、単にアホの娘なのかも······。


「フフフフ。まあちょうどいい。我は今、ものすごーく機嫌が悪くてな。貴様には感謝するぞ」


 体から赤いオーラを吹き出すカミラ。凄まじい魔力を感じる。


「リゲル、メル。貴様らはサンドバックだ」

「!!」

「あっ、待てカミラ!」


 日傘が無いから不利だ──と、忠告する前に猛スピードでリゲルに突進する。


 小さい体からは想像も出来ない圧を放つパンチが繰り出され、それをリゲルがガードする。


「うっ!」


 とリゲルが顔をしかめ、後方に大きく飛ばされる。ダメージは防げても威力は防げない。


 砂利を弾きながら、なんとか踏ん張って耐えるリゲル。怒ったように険しい顔をする。


「いきなり何するのカミラ! 危ないでしょ!」

「吸血鬼は危ない種族なのだ!」


 再度肉薄して、力任せに腕を振り回すカミラ。それを躱すリゲル。


「止めなさい! カミラ!」

「殴らせろ! このっ、人気取り娘っ!」

「リゲル! 援護するね! ガスタパーンチ!」


 面食らっていたメルがやっと迎撃に入り、必殺の竜巻パンチをカミラに放つ。


「ふんっ! しゃらくさい!」


 そのパンチを真っ向からカウンターブローで受け止めるカミラ。


「うっ!」


 本来なら相手を風圧で吹き飛ばすはずのメルの技だが、逆に弾かれる。


「クハハハッ! どうした? その程度か?」

「メルちゃん! もうっ、カミラ止めなさい!」


 ついにリゲルも反撃モードになり、カミラへと距離を詰める。


「えーいっ!」


 ──ドコオッ──


「小癪な!」


 ──ボコオッ──


 高威力の肉弾戦。格闘の応酬。



 その気迫というか迫力にペールが感心したように声を上げる。


「わ、わあ。カミラって強いんスね?」

「あー、まあな。肉弾戦の戦闘力だけならリゲルに負けないくらいは強い」


 流石に鬼の名のつく力は伊達じゃない。


「だが、カミラは強力な攻撃力と引き換えに体力や魔力の消耗が激しい。最初の内は強いが、戦いが長引くほど不利になる」

「そうなんスか?」

「本来ならその欠点を補うために吸血能力があって、血を飲めば回復するんだが、あいつは血を飲まないんでな」

「えっ? 吸血鬼なのに飲まないんスか?」

「飲めないんだよ」


 他人が血を流すのが可哀想で見てられないという、吸血鬼としては致命的な性格のせいでな。


「おっと、悠長にはしてられないな。ペール、今のうちにリゲルとメルの影を貰え」

「了解っス!」


 カミラが注意を引き付けてる間にペールの能力がリゲルとメルの影を奪う。


「これでオッケーっス!」

「よーし、お前もリゲルへ攻撃しろ。俺はメルを愛でる······じゃなかった。倒す」


 生身のままで乱闘に突っ込むペール。


「カミラ、ウチも援護するっス!」

「ふんっ、足を引っ張るなよ!」

「うっ!? ペールも?!」

「君の影も貰ってるっスよ! 食らえ、『シャドウハック』! スターシューティング!」


 黒い星型の影が空を切り、リゲルに当たって砕ける。


「きゃあっ?!」


 流石にオリジナルほどの威力ではないが、けっこう効き目があったようだ。体勢を崩すリゲル。


「貰ったぞ!『ブラッド・ブリッツ』!」


 カミラが自らの腕に爪で傷をつけ、血を流す。

 その血は妖しい光を帯びて、稲妻のように瞬いて、リゲルへと駆けた。


 ──バリッ──


「?! しびびびびびっ?!!」


 赤い雷を食らったリゲルが感電したようにビリビリと震える。


「あっ! リゲル!? やめろーっ!」


 不利になり始めたリゲルを助けにメルが介入しようとするのを俺が通せんぼする。


「おっと! ここから先は行かせんぜ」

「イルスの意地悪っ! どかないと~······」


 攻撃の準備をするメル。


「おっと! そうはいかないぜ! 新武装、ホーネットガン!」


 バズーカ砲から網を発射。本当はリゲル撃退のために用意しておいた切り札だが、メルを無力化しておけば3対1で俺らの勝ちだろう。


 メルはまんまと、お手製ツタの網に捕らえられた。


「わわわーっ?!」


 その網をハンドで手繰り寄せる。


「おー、大漁、大漁。おや、これは大物だ。もしかして人魚かな?」

「うっ、くっ、こんな網なんか!」


 なんとか網を破ろうとするが、残念ながらメルの属性は風。風は網をすり抜けていくから無意味だ。カマイタチ的な技は持っていないし。


「さあ、良い子にしてるんだぞ。もうすぐリゲルともども愛でてやるからな。うーん、メルのほっぺもやわかそ~だなー」

「やだあっ! リゲル~! がんばれー!」


 メルが網の中からリゲルへエールを送る。

 しかし、当のリゲルは流石に苦戦していた。


 ──ズドオンッ、バリッ、バコオンッ──


「はぁ、はぁ、はぁ、くっ······!」

「ふぅ、ふぅ、リ、リゲル、流石っスね。でも、もう疲れてきたんじゃないスか?」

「まっ、まだまだっ······」


 リゲルの顔に疲労が滲んでいる。よし、このままペール達がやっつければ、ぐったりしたリゲルを思う存分愛でる事が出来る。頑張れ、ペール、カミラ──


「って! カミラー?!」


 よく見たら、カミラはぜえぜえと息を切らせて地面に這いつくばっていた。


「お、おいっ! 大丈夫か?!」

「ぜぇ、ぜえ、ぜぇ、な、なんでも、ないっ! わ、私が倒すん、だっ······」


 しまった。スタミナ切れだ。ただでさえ燃費悪い上に、今は日傘も装備してないし、帽子も被ってない。太陽の光で急速に体力を消耗したのだろう。とても戦闘継続出来る状態じゃない。


 しかもペールもバテ始めてる。これでは優勢とも言い難い。



 よし、ここは──逃げるか。



「おいっ! リゲル!」

「っ?!」

「見ろ! メルは俺が捕まえたぞ!」

「リゲル~っ!」

「?! メ、メルちゃんっ!」

「ほら、返してやるぜー!」


 網ごとメルを空中に放る。


「わ~んっ!」

「!! メルちゃんっ!」


 予想通り、リゲルはわき目も振らずに全力でメルの方へと飛んだ。


「よし! この隙に!」


 ──ガシッ──


「うっ?!」

「わっ!」


 その隙に、カミラとペールをウルトラハンドで確保し、急速力で離脱を開始。


「こ、こらっ! イルス! どこへ行く?! 戻れっ! あと一歩でリゲルを倒せるのにっ!」

「今回はこのくらいにしといてやろうぜ。それよりお前らだって疲れたろ? 帰るぞ」

「ふぃ~。正直助かったっス~」

「う~っ! あとちょっとで勝てたのに~!」


 癇癪起こしかけるカミラと、ホッとしたように力を抜くペールの二人をコックピットに引き入れる。


 離脱を始めた俺らに、メルを救出したリゲルが気づいてあっと口を開けて、何か叫んでいた。



 でも、追っては来なかったし、もう追いつける距離でもなくなっていた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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