84──カミラ、ゲット
「クックックックッ。恐怖におののき、ある種の畏敬をも抱くその目。悪くないぞ」
愉快そうに笑うカミラ。
尊大で、気取っていて、中2病なその振る舞いや言動も、その本体のお人形のような可憐さも。
どちらも俺の知るカミラそのものだ。
あの時──
『ヤダアッ!』
血の涙を降りしきりながら灰のように虚しく消えていった彼女が、元気に、生意気に目の前に居てくれるのだ。
やっぱり。嬉しいよな。
「ん? なんだその薄気味悪い笑みは。おい、イルス。我の前でニヤニヤと何を笑ってる」
「······いや、ははは······元気そうで良かった」
「は、は?」
カミラはビックリしたように、芝居がかった面を無くして素の表情になった。
「え? 今なんて?」
「元気そうで良かった。こうして無事に会えて本当に嬉しいよ」
「?! え? いや、え? あ、あれ? あ、あなた、イルスだよね? 別人?」
「イルスだ。まあ、とにかく良かった」
本当は一緒にワルツを踊りたいくらい嬉しいが、ここは堪えてイルスとして振る舞わなければ。
「ん? そっちに居るのは······」
俺の後ろで控えめに立つペールにやっと気がついたカミラが好奇の目を向ける。
「見慣れない奴が居るな。貴様、誰だ」
「あ、あの······お初にお目にかかるっス。ウチはピースタウンのペールっス」
ちょっと上がり気味のペールがおどおどと自己紹介をすると、カミラがまた驚いた。
「ほう。あのドッペルゲンガーのペールか?」
「は、はいっス」
「そうか、貴様がそうか。ふむ。噂は聞いてるぞ。なんでも、毎日バーベキューしながらダーツで遊んで、海で遊んでは大勢の人間と一緒に酒を狂ったように飲み回してるとか」
「違うっス! それはウチが撲滅したいパリピっス! ウチは清楚な乙女っス!」
「あ、そうなのか。まあいい。ともかく、あのリゲル達をも手こずらせる程の実力者だと聞いてるぞ。そんな強者には見えんがな」
流石に同格の四天王だけあってカミラはペールに興味津々のようだった。
「ふむ。そんな奴がイルスの元に居るとはな。ククク、なかなかの手土産ではないか」
「ペールも俺らファミリーに加わってくれたんだ。仲良くしてやってな」
「まあいいだろう。眷属の望みに応えるのも支配者としての務めだ」
満足そうに小さく笑って、カミラがストっと玉座から下りる。
「改めて。よく来た、我が眷属イルス。そしてその僕の影使いよ。お前達のような者を我が軍門に迎えた事、素直に喜ぼうではないか!」
「ん? なんだって?」
なんか今聞き捨てならないワードが出たような。
「おいカミラ」
「ん? なんだ?」
「お前、俺からの手紙をダストから受け取って読んだんだよな?」
「ああ。もちろんだ。返事も送っただろ?」
「うん。まあ、返事かはなんとも言えんが。とにかく、お前は俺達のファミリーに加わる事に承諾してくれたんだよな?」
「え?」
「えっ」
·····················。
『え、何その話? 初めて聞いたんだけど?』
とすら聞こえてきそうな面をするカミラ。
「え? 何その話!? そんなの聞いてないっ!」
ほぼ表情通りの言葉を上げるカミラ。
「え!? だって、だって、私の手下になるって話なんでしょっ?! イルスとキエラも、その下に居るダストとかぜーんぶっ!」
「いや、そうじゃなくてな。むしろその逆でだな。お前が俺のファミリーに加わってくれないかって話なんだ。まあ、“部下”って言うよりは“仲間”って感じなんだがな」
「·········えっ?!!」
再度すっとんきょうな声を上げるカミラ。
「ちょ、ちょちょちょっ! ちょっと待って!」
そう言うと、慌てたようにスカートの中に手を突っ込んで、俺からの手紙を取り出した。
「え、えっと······『──という事で、ぜひ俺らの仲間になってくれないか? 返事を待ってる』············ほらあっ! 私の手下になるって書いてあんじゃん!!」
「書いてねえだろっ! なんで自分で読み上げといて間違えるんだよっ!」
「だって、仲間になるってつまり私の手下になるって事でしょ?!」
「解釈拡大しすぎて地球一周しそう!!」
どんな思考回路すればそんな解釈出来るんだ。
「だからな、別に俺の部下になれって訳ではないが、逆に俺がお前の手下になる訳でもなくてだな。つまり同盟を組むような感じで······」
「······う~っ!! やあだーっ! やだやだやだっやーだーっ!! 私が支配者じゃなきゃやーだーっ!!」
床にひっくり返ってバタバタと手足を力任せに叩きつけるカミラ。
ダメだ。話を聞かない駄々っ子モードに入ってしまった。
うーん。別に俺はリーダーとかじゃなくて手下でも良いっちゃ良いんだが、これから先の事を考えるならやっぱり俺が組織のリーダーであるべきだろう。でなきゃ、目的に向けての備えなどを思うように進められないかもしんないからな。
「はぁ~······仕方ない」
こうなったら本人も納得の説得方法でケリをつけるしかない。
「よし。分かったカミラ。この話は一旦保留にしよう」
「やーだーっ······え?」
ピタリと駄々を止めて、心配そうに目を揺らすカミラ。
「え? それって私は要らないって事?」
「いや、お前はどうしても欲しい」
「ふえっ?!!」
「わ~お······大胆っス······」
カミラルートの時の知識が役に立ちそうだ。
「だからよ、ゲームで白黒つけないか?」
「え? ゲーム?」
「ああ。そうだな。オセロなんかどうだ? リバーシだ、リバーシ。俺が勝ったらお前は俺の仲間。お前が勝ったら俺はお前の手下に。どうだ、簡単なルールだろ?」
「!!」
俺の申し出に、カミラは一瞬目を丸くして驚いたが、すぐにそれが自信の笑みへと変わった。
「ク、ククク······ハーッハッハッハ!! 言ったな?! 言ったな? イルス! 我とオセロで勝負すると言ったな?!」
「おう、言ったぞ」
「その言葉っ !嘘も二言も無いだろうな?!」
「もちろん。その代わり約束しろ。俺が勝ったらちゃんと俺の仲間になるんだぞ」
「良いだろう! 叶う事のない約束だ! いくらでも約束してやろう! お前が勝ったら我を好きにしていいぞっ!!」
カミラ。
そういう危ないセリフは軽々しく言うな。俺みたいな紳士相手じゃなきゃ、お前はすぐに薄い本みたくエロい目──じゃなかった、エライ目に遇わされるぞ。
「よし、事前確認完了。オセロ持ってきてくれ」
「よかろう! 待ってろー!」
嬉しくて堪らない様子で奥の部屋へと消えるカミラ。
ペールがそっと耳打ちしてくる。
「大丈夫なんスか? そんな約束して。あの感じだとカミラ自信あるみたいっスよ?」
「そうだろうな。なんたってあいつはオセロ数十年無敗の記録を持ってるんだからな」
「ええっ?! めちゃくちゃ強いじゃないっスか!? そんなの勝てるんスか?!」
「ああ。問題ない。なんならお前が代わりにやるか?」
「む、無理っスよ! そんな相手に勝てる訳ないっス」
ペールはすっかり怖じ気づいて、不安そうになった。数十年無敗という肩書きが効いたのだろう。
まあ。
──タッタッタッ、タンッ──
「待たせたな! 持って来たぞイルス!」
「おう。早速やるか」
「クククッ。イルス、せめて惨敗する前に教えておいてやろう」
「なんだ?」
「我はオセロに関しては数十年無敗だ!!」
「そいつはスゲーな」
無敗なのは当然さ。
だって──
10分後。
「う、嘘······」
「はい、俺の勝ち」
白62の黒2。
白は俺だ。
「よーし。これは文句ないな。俺の勝ち」
「う、う、嘘だー?! な、なんでー?! だって、私はオセロ数十年無敗なのに~?!」
「いや、そりゃそうだろ······」
だって、自分一人で白黒動かして、自分で自分としか勝負してないんだ。一人オセロ歴数十年。
そりゃ一度も負けはしないだろ。まあ、逆に全部負けてはいるのかもしれんが。
「う、嘘だ! こんなのおかしいー! ナシ!
ナシ! この勝負ナシーっ!」
「ほう? いいのかカミラ? 高貴で誇り高いお前がそんな事言って」
「えっ?!」
「そうか、ナシかぁ。気高くて誇り高い吸血鬼のお前なら約束を違える事なんてないと信じていたから俺も持てる力を出しきったんだが······」
「うっ! うっ······!」
「はぁ~。カミラの器の大きさなら、例え間違いが起こったとしても笑って済ましてくれると思ったんだけどなぁ~」
「う~~っ······分かったわよーっ! 私の負けでいいよーっ! もう勝手にしろ~っ!」
半べそかいてその場にペタンと座り込むカミラ。もう体裁も抵抗の意思も無い。
カミラの確保。成功。
お疲れ様です。次話に続きます。




