83──古城の孤嬢
カーリー達を撃破した後、俺とペールは進路をラッキータウンへと戻した。
「よーし。もうすぐ着くな。ペール、そろそろだぞ。心の準備は?」
「大丈夫っス」
とか言っておきながら、心の準備が出来てないのは俺の方だけどな。
このラッキータウンには苦い思い出がある。
それは、殺戮の限りを尽くされ、無惨に壊滅させられた町の姿を以前に見ているからだ。
もうあの時点でハッピータウンもピースタウンも同じように陥落していたのは知っているが、その現場を見たのは唯一ラッキータウンだけ。
やっぱり直接見た光景はいつまでも記憶に残る。
そして、そんな惨劇を引き起こした張本人がカミラなのだ。
本来のカミラは、『大好きなブドウジュースを浴びる程飲みながら、沢山の眷属にチヤホヤされたい』という子供っぽい野望の元、ワイン製造所などを襲撃してブドウジュースしか作らせないように強制したりする迷惑な吸血鬼ではあるが、コミカルで根は優しい奴だ。
そんなカミラとの出会いも血生臭く終わってしまったもんな······。
「············」
「どうかしたんスか? イルス」
「え? ああ、何がどうしたって?」
「いや、なんだか恐い顔してたんで。何か心配な事でも?」
「いや、何でもない。そろそろ到着だな」
「······」
ペールがじっと俺を見てる。
「どうかしたか?」
「いえ。ただ、なんて言うんスかね。イルスってなんだか不思議っスね」
「不思議?」
「ええ。だって、以前会った時は······あの、怒んないで下さいね? なんていうか、その場の勢いだけで生きてるような人だったと言うか、何も考えてないようなというか、悩みとかそんなの全く無さそうな感じだったのに、今はちょっと雰囲気違うって言うか」
「そう、か?」
「はい。なんか、大人っぽいっス」
「······大人、か」
まあ、所詮は中身が30過ぎのオッサンだしな。若作りもいいとこだ。
「だが、大人は縛られた女の子のスカート捲って喜んだりしないぞ」
「ほんとっスね。ていうか、それは自分で言うんスね」
「変態と紳士は紙一重。女性を愛でるという一点は等しく、その愛情表現が異なる。俺は隠し事しないオープンスタイルの紳士だ」
「な、なんか凄いっスね。でも、ウチはそういうの嫌いじゃないっスよ」
「え? じゃあペール、お前もスカート履いてくれるか?」
「やだっス! 変態っス! キモいっス!」
「もっと言ってくれ」
「えぇ······」
ペールとの会話のおかげで少し気を紛らわせた。
少しして、ラッキータウンのシンボルの巨大な時計塔が見えてきた。
「おー。見えてきたな。時刻は昼前か。カミラを連れて帰ったらちょうど飯に出来そうだ。そしたら歓迎会をそのままやっちまおう」
「楽しみっス」
「お? お前はああいう賑やかなの苦手じゃなかったのか?」
「えと、それが。何故かイルス達とのワイワイはけっこう居心地良くて。嫌いじゃないっス」
「ほう。お前もすっかりアウトローだな」
カミラも俺らファミリーの色に染めてやる。
ラッキータウンのある地方は曇りや雨が多く、やや寒冷な地方だ。気候は秋に近い。
「少し寒いっスね」
「そうだな。だけど年中涼しいから過ごしやすい地方でもある。ちょっとだけ日照時間が少ないけどな」
「あー。なるほど。だからカミラがここを根城にしてるんスね」
「そういう事だ」
このパラファンの世界の吸血鬼は日光に当たっても死にはしない。だけど、長時間日の光を浴びると体調を崩してしまう。
つまり、日射病になりやすい体質の種族だ。
故にカミラは曇りが多いこの地方に住んでるのだろう。
「えーっと、古城は······こっちか」
マップを見ながら目的地を目指す。町外れの森の中に佇む古い城。そこがカミラの根城だ。
町の上空を滑空し、森へと進路を取る。
ややして、灰色の建造物が暗い森の中からヌっと頭を出すようにして現れた。
「あそこだ。ドラキュラ城だぞ」
「変わった名前の城っスね?」
UFOの高度を落とし、城の前に静かに着陸させる。
ペールと二人で入り口の大扉の前に立つ。
「おー。こうやって見ると威厳あるな。よし、早速中へ入ろう。念のため警戒はしとけ」
「なんでっスか?」
「なんでって······」
万が一崩壊の力に支配されてたら──と言う訳にもいかない。
「······いや、今のはナシだ。気前よく行くぞ」
「了解っス」
扉を押す。
「重いな」
俺の背丈の3倍は高い扉だからな。かなり重い。
扉はギギギッと音を立てて開いた。
「······入るぞ」
「お邪魔するっスー······」
二人で中へと入る。
案の定、中は暗くなっており、大ホールになってるであろうその空間の全容は伺い知れなかった。
「暗くてよく見えんな······」
「でもこのひんやりした感じ少し落ち着くっス」
『ククククク、ようこそ我が城へ』
「!!」
「い、今の声は······」
どこからともなく響く声。威厳に満ちて──はなく、幼い女の子がオママゴトのパパ役をなんとか演じてるかのようなこの声は──
『待ちくたびれたぞ、我が眷属イルスよ』
──ボッ、ボッ、、ボボボボッ──
気取った声の終わりに、そこら中から赤い火の玉が浮かび上がったかと思ったが、それは勝手に点いた燭台の火だった。
無数の灯りに照らされ、雰囲気のある暗い空間が浮かび上がる。やはり大きなホールだ。
その奥にあるホール階段。その中央に玉座のような大袈裟な椅子を置き、そこへ足を組んで座る小さな影。
しかし、この城の主。
「遅かったではないか。我を待たせるとは良い度胸だな。なあ、イルスよ?」
「カミラっ······!」
薄暗い明かりの中で白い八重歯を光らせ、精一杯に不敵な笑みを作ってみせるチビっ子吸血鬼のカミラの元気そうな姿がそこにはあった。
お疲れ様です。次話に続きます。




