80──いざこざ
庭に置いてあるUFOに乗る──
「その前に。ペール、今日もやるか?」
「あっ、いいっスねえ。じゃあ、失礼して」
ペールがスッと手を掲げる。
「『シャドウヴィジョン』っ」
ペールの影が蛇のように伸びて俺の影に食らいつく。
俺の影の一部が取られ、それがペールの影と一体化する。
「イルス、もう大丈夫っスよ」
「おう」
俺の能力コピーが済み、ペールがその力を使う。
「行くっスよー! クラフト~!」
ガタガタとそこらのガラクタが集まり、ペールの目の前にスクラップUFOが出来上がる。
似たようなガラクタUFOニ機が並ぶ。
俺らはそれぞれの機体に乗り込み、発進した。
「目的地はラッキータウンだ。えー、アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。安全運転を心がけましょう。機内サービスにキエラ特性のホワイトシチューはいかが?」
「あはははっ、なんスかそれ~?」
速度は普通くらいで、ゆとりある飛行で編隊を組んでラッキータウンを目指す。
「ペール。一応、俺らはカミラの勧誘に直接行く事になったんだが、まあ、あの文面だと答えはOKみたいなものだと思う。だから、どれかと言うとお前のUFOの飛行訓練とカミラとの顔合わせが主な目的だと言っていい」
「ウチみたいな陰キャ、カミラは嫌いだったりしないっスかね······」
「大丈夫だ。多分」
実は、そこんところは謎だ。
パラファンの中でのキャラ同士の関係というか、組合せでハッキリしないパターンがいくつかある。特に、四天王同士の関係はほとんど絡みが無い。
シュユとカミラだけは結構お互いの事知ってるが、他はほぼ無い。ローナは他の三人とほんの少しだけ面識あるが、無いに等しいし、ペールは引きこもりだから全員と面識ほぼ無し。
つまり、ここから先の人間関係はプレイヤーの俺にとっても未知の領域なのだ。
「まあ、カミラも引きこもりだから案外気が合うかもしれんぞ」
「え? カミラも陰キャなんスか?」
「いやー、陰キャっつうか、体質的に陽の属性は苦手だから陰にならざるを得ないって言うか」
「おお~。まさかの同志とはっ」
少し違う気がするが。ま、いいか。
「お。ユートピアタウンだ」
そんな話をしてる間に、ユートピアタウンの近くに差しかかった。
ラッキータウンに向かうにはユートピアタウンの真上を通って行くのが近道だ。
「ユートピアタウンの上を飛んでいくぞ」
「うう、陽キャの本拠地の上をっスか。これは覚悟要るっスね」
要らんだろ。
「まあ俺ら──というよりは俺がなんだが、この町の奴らには結構嫌われてるからな。下手に刺激しないようにした方が良いだろう」
「でも何時かはここを制圧してリゲル達を陰キャに改心させるんスよねっ?」
「お、おう。そうだな」
「楽しみっス~。見てろ~、ウチ、やるっス!」
目を輝かせてやがる。
「カーリーがあんな派手な頭を止めてちゃんとした清楚な髪になるのが楽しみっスよ! 清く正しく、本来の清楚な髪にしてやるっス!」
「いや~、一応あれは地毛なんじゃ······」
「あんなふざけた地毛ある訳無いっス! あんなのパーティーバーベキューの炎で炙って作ったんっスよ! それか福神漬けの壺の中に三週間浸ってなきゃ無理っス! 常識ある乙女ならあんな破廉恥な髪にはならないっス! どう考えてもふざけてるっス!」
「へえ? 誰がふざけてるって?」
「カーリーっス! だいたいなんスか?! あんな短いスカートで恥じらいもなく空飛んで! どう考えても淫乱娘っス! まずは、あんなパリピ陽キャのアホ丸出しパッパラパーヘアーはウチが改心させて──あれ? イルス、今の声イルスっスか?」
「············ペール。後ろ」
「え?」
ペールが後ろを振り向く。そこには、俺も今さっき居る事に気づいた人物が、頬をヒクヒクと痙攣させ、額に血管を浮き出たせ、ひきつった笑顔をペールに向けて浮かんでいた。
「······あ」
「随分楽しそうな会話してるねえ、ペール?」
「············ーーー!? か、カーリーィ?!」
「誰が福神漬け淫乱娘だあーっ!!!」
まさかのご本人登場。
カンカンに怒ったカーリーから炎が逆巻き、大きく振りかぶったオーバーハンドパンチの打ち下ろしがペールの機体に叩き込まれる。
──バコオオンッ──
「わああーっ?!」
「よくもまあ人様の髪の事色々言ってくれたねえ。あたい、キレちまったよ」
「ペールぅ! 大丈夫かー!?」
吹き飛ばされたペールUFOの横に並ぶ。今の一撃で、後ろ側がボッコリ凹んでいる。
「ああっ?! ウチのUFOが?! う~っ、これだからパリピは嫌いなんス! 何もしてない無罪の者をこうやって一方的に裁くから!」
「いや~、今のはまあ誰でも怒ると思うぞ······」
「イルス~、あんたがペールと一緒とはねぇ」
メラメラと燃え盛るカーリー。口元に好戦的な笑みをくすぶらせている。
「くそっ、カーリー、お前一体いつからそこに居たんだ?」
「たまたま空を見上げてたら不審物が見えたんで様子を見に来てみたら、あんたら問題児が居てねえ。また何かするんじゃないかとこっそり後ろにつかせてもらったんだよ」
「見て下さいっス! やっぱ陽キャはこういう姑息な事するんス!」
「陰口叩いてたあんたが言うな!!」
ポキポキと手を鳴らすカーリー。
「何もしなければそのまま見逃してあげようかと思ったんだけど、ペールには少しお灸を据えてやらないとね。それに、イルス。あんたにもついでにこの前の借りを返してやらないと」
うーん。この前の事まだ根に持ってんのか。
なるべくなら戦闘は避けたいんだが。どうしたものか。
「それに! あんたリゲルの事いじめたらしいじゃないっ! あの子、ほっぺ赤くなってたわよ!」
「えっ?! イルス、リゲルの事ビンタでもしたんスか?」
「んな訳ないだろ。ちょっともみもみして愛でてやっただけだ」
「えぇ······」
「このド変態が!!」
やべ。逆撫でしてしまったか。謝ろ。
「まあまあ、これまでの事は綺麗に水に流して見逃してくれよ。ほら、お前に水かけた時みたいにシュ~って感じでよ」
「ピキッ」
あ、火に油を注いだか。水の話だけど。
「おい、ペール。お前からも何か場を取り直す言葉かけてやれ。俺よりもお前ならまだカーリーからのヘイトは低いはずだ」
「任せるっス!」
むんっと自信満々に前に出るペール。
「カーリー」
「なんだい」
「······謝るなら今の内っス! 痛い目見たくなかったらそのふざけた髪型も、いやらしい服装も止めて清楚な陰キャに改心するっスー!!」
もうこいつに交渉事は頼まん。
「おいっ! 逆に挑発してんじゃねえー!!」
「あんたらあーっ!!」
ボワッと熱風が頬を撫でる。カーリーを纏う炎が激しく揺らぐ。
「もう許さないよっ! 覚悟しなっ!!」
「くそっ、結局こうなるのか!」
「なーに言ってんスかイルス。相手は一人。ウチらは二人。圧倒的有利っス」
「いや、まあそれはそうだが······」
「それはどうでしょう?」
『!?』
背後から聞き慣れた声がしたので振り返ると、そこには辟易した様子のレンが居た。
「カーリーがいきなり空に行ってしまったんでついて来てみたら······また貴方達ですか」
どうやらこのまま終わりじゃなさそうだな。
お疲れ様です。次話に続きます。




