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75──ペール、ゲット

 


 テーブルに着いて待っていると、奥の部屋からお盆を持ったペールが戻ってきた。



「どうぞっス······」


 高価そうなカップが置かれる。温かくて爽やかな香りが薄い湯気と共に漂う。


「これ、紅茶か?」

「あ、いえ。ウチのとこで育ててるハーブを使ったハーブティーっス」

「うーん、良い香り。落ち着くわ」

「そ、そうっスか? へへへ······」


 照れ臭そうにお盆で顔半分を隠して笑うペール。その控えめな笑顔も懐かしい。


「お。俺はお茶の味なんか分かんない口の男だが、香りは確かに良いな」

「あんたいつも『お茶ぁ? 葉っぱなんか旨い訳ねえじゃん、馬鹿でえ~!』って言ってるくせに」

「そうなのか?」

「なんであたしに聞き返すの?」


 イルス。頭だけでなく舌も馬鹿だったか。


「それにしてもこのカップも可愛いわね。それに、凄い綺麗。まるで新品ね」

「あ、まるでじゃなくて新品なんス。その、お客様来る事なんてないんで······」

「でも、みんなでお茶会すんのに憧れて揃えておいたんだよな」

「なっ、なななんで知ってんスか?!」

「お前の事は大体知ってる」

「うえぇ?!」

「あんたストーカーなの?」


 いかんいかん。ペールルートの事思い出して話してると怪しまれそうだ。ここは少し言葉を選びながら話さなくてはな。


 まあ、俺のプレミはともかくとして、ペールの奴もだいぶ落ち着いてきたみたいで、これなら話を進められそうだ。



「あの~。それで······」


 自分も座ってカップをおずおずと持つペールが、上目遣いで俺とキエラを見比べる。


「お二人とも今日は何用で? もしかしてまたこの間みたいにリゲルと戦おうって感じっスか?」




 あー。あれか。パラファンは、各四天王の攻略ルートに行かない限りは四天王との戦闘がそれぞれ何回かあるんだ。

 ルートによって、誰と何回戦うかは変わってくるが、ペールの場合は大体二回か三回。


 今この世界の時系列は分からないが、キエラが四天王全員と面識がある事を考えると、ゲーム中盤以降だろう。


 なら、ペールも多分一回か二回かはリゲル達と戦ってるはずだ。




「ウチも善戦しましたが、やっぱ強いっスよリゲルは。それに、リゲルの能力だけは完璧にコピーできないっスからねえ。お力になれるかはあまり自信がなくて······」

「いや、今日は別件だ。まあ、似たようなもんかもしれんが、少なくとも今すぐリゲルを倒そうとかそういう訳じゃない」

「そうなんスか? では、どういった内容で?」

「うん。そうだな。えっと······」


 うーん。何て言えば単刀直入で伝わりやすいか。


『我がイルスファミリーは戦力増強のために何人かの選ばれし猛者を傘下に加える事にした。ペール、お前も選ばれた一人だ。来い』


 では、少し堅苦しいか。


 もっと分かりやすくて、かつちゃんと俺をリーダーとした同盟に出来る言い方······。


 おっ。



「······ペール」

「はい。なんスか?」

「俺の女になれ」

「························ばい゛?!」

「あんた何言ってんのっ!!」


 キエラに思いっきり頭をぶったたかれた。


「語弊があった。俺と一緒に一つ屋根の下で生活してもらうぞ」

「ばい゛?!!」

「そうじゃないでしょ!!」


 たんこぶが二つ出来た。


「言い方が悪かった。俺の仲間として俺らのアジトに来てくれ」

「······はいっ?!」


 ペールが眼鏡フレームいっぱいに目を大きく見開いて口をあんぐり開ける。


「な、なんですと?!」

「そのまんまの意味だ」


 驚くペールに再度通告してやる。


「俺達イルスファミリーに加わってくれ。そのために迎えに来たんだ」

「ちょ、ちょっと待って下さいっス!! え?

ウ、ウチがイルス達の仲間に?!」


 困惑して目をグルグルにするペール。


「ご、ご存じの通りウチは、あの、大人しめと言うか、地味というか、慎ましやかー、というか、つ、つまり、イルスファミリーみたいなイケイケパリピヤンキーグループはそもそも生息区域というか、ビオトープに大きな差があるというかっ!」

「いきなり早口になったな」


 まあ、言わんとしてる事は分かる。


「そこは安心してくれ。確かにキエラみたいなギャルは居るが、俺らはそんなイケイケパリピじゃない。つまり、陽キャじゃない」

「嘘っス!! どっからどう見てもパリピっス!」

「それは誤解だ。俺らが陽キャのパリピならリゲルとも仲良くやれてる。だろ?」

「そ、そう言われると、そうかもしれませんが······」

「それに、ファミリーに加われって言っても、俺の部下になれって言ってる訳じゃない。まあ、組織の都合上、俺が一応リーダーではあるかもしれんが、だからと言ってお前が部下とか(しもべ)になる訳じゃない。キエラと同じ幹部的なあれだ」

「············」


 ペールはあうあうと、言葉を見失っていたが、キエラと俺をチラチラと交互に見た後、頭をぶんぶんと横に振った。


「む、無理っス! 共同作戦は出来ても共同生活なんかとても耐えられないっス! ウチみたいなのは集団行動ダメなタイプなんっス!」

「そんなの思い込みだ。お前なら大丈夫だ。それに、幹部だ。幹部だぞ~? キエラに対して『よっ、キエラっち、おつ~!』とか、『キエラっち、パフェいかん? いぇ~! スイーツしか勝たん!』とか言ったって良いんだ」

「!? ま、マジっスか?」

「ああ、 マジマジ。どうだ? 楽しいぞ~?」

「············っは?! や、やっぱ無理っス! ウチには無理なんス~!!」

「······そうか」


 ふむ。まあ想定内と言えば想定内だ。

 よし。



「あー、キエラ。ちょいこっち来てくれ」

「ん?」


 俺はキエラを呼んで、ペールから少し離れてそっと耳打ちの打ち合わせをした。


「······て事だ。やるぞ」

「はぁ······どうなっても知らないわよ?」


 二人で席に戻るとペールが緊張して待っていた。


「な、なんの相談スか?」

「いや、嫌がってるようだから止めようって話をしていたんだ。俺らはこのまま引き上げるよ」

「ほ、ほんとスか?」


 ホッとしたような、どこか残念そうな顔をしてペールが大きく息を吐き出す。


「はぁ~······き、今日はなんか疲れたっス······」

「うん。だがその前にペール。一つ頼みを聞いてくれ」

「なんスか?」

「ちょっと後ろ向いてくれ」

「? はいっス」

「背中に手を回してくれ」

「こうっスか?」

「そのまま動くなよ」

「はいっス」


 キエラに目配せする。


「じゃあ俺らは帰る······な訳ねえだろおおー!!」

「へっ?」


 キエラと共にペールへ飛びかかる。


 ──ドドッ──


「わ、わあああ~?!?」

「よし! キエラ、そっち縛れ!」

「オッケー!」


 そこらに落ちてたタオルをキエラがロープ状にした物でペールの腕を縛る。


「ひええ~っ?! お、お助けっ──もがっ?!」


 俺も似たような物でキエラの口に猿ぐつわしておく。そして、足も同じように縛り自由を奪う。


「よしっ。任務完了!」

「もぐぁっ、もがが~っ?!!」

「悪く思うなよペール。どうしてもお前を仲間にしなきゃなんねえんだ。キエラ、入り口まで運んでやってくれ。ウルトラハンドで取る」

「はいはい」

「もぐぁ~っ?!!」



 こうして。



 四天王ペール。勧誘(拉致)に成功。



お疲れ様です。次話に続きます。

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