74──押し入り
天文台と言っても、巨大な望遠鏡などはもう外されてしまって無い。あくまで破棄された廃墟だ。本来の役割と機能は残っていない。
「へえー。なんか隠れ家って感じでいいな」
「何度も通ってたんでしょ? そんな初めて来た感出さなくていいわよ」
「なんかさっきから対応塩くないか?」
「さあ? 海が近いからっしょ」
後でお菓子あげて機嫌直さないとな。
「まあまあ。とりあえず、目的を済ませよう」
「分かったわよ」
雑草だらけの建物周りだが、入り口の扉までは獣道のように踏み分けられており、道標になっている。白いコンクリートの壁に緑のツタが這っている。
キエラと共に入り口に立つ。
「よし、それじゃあいくぞ」
拳を上げる。手汗が滲む。
もし、俺の予想が外れていて、既に崩壊の力に侵されていたら············UFOにまともな装備も搭載してない俺らじゃ絶体絶命に陥る。
「············ふぅー······」
──ドンドンドンドンッ──
「おーいっ、居るんだろ? 開けろー!」
──ドンドンドンドンッ──
シーン······。
もう一度ノックする。今度はさらに激しく。
「おいっ! お前が居るのは分かってんだ! 開けろー!」
さらに圧をかけて呼びかける。もっと激しくドアを叩く。正直言って不安が大きくなってきた。
だが、あいつはここに居るはずなんだ。なんたって年中引きこもりだから外に行くのなんて食糧を貰いに行く時くらい。しかも夜限定だ。
引きこもりニートみたいな生態をしているのは知っている。つまり、居るはず。
そして、居留守を使うような奴なのも知っている。
「オラオラオラア! 居るのは分かってんだぜー!? 居留守使ってんのもよー! さっさと開けろー! キエラ、お前もやれ」
「え~? あたしも?」
「そうだ。圧をかければ屈する奴だ。やれ」
「しゃーないわねー」
キエラと並ぶ。
──ドンドンドンドンドンドンドンッ!──
「ほらぁ、早く開けよーぜー!?」
「あんたが居るのは分かってんのよー? 早く開けなってば!」
「お前は完全に包囲されてる! 無駄な抵抗は止めて速やかに出て来なさい!」
「出てきなさいよ! 早くしな!」
──ドドドドドドドドドンッ──
「借りた金は返しましょーよー!」
「開けないと痛い目に遇わすわよ!」
「オラアッ! 耳揃えて出すもん出せやコラアッ」
「あたしらイルスファミリー舐めると怖いわよ!」
「スマキにして海に沈めんぞ!!」
ゴリラのドラミング並みのノックに、俺とキエラの無法者コールの同時攻撃。
その二つの攻撃に耐えきれる訳もなく──
『な、なんスか?! や、止めてっス! ここにはなんも無いっス! 帰ってっス!』
「っ!?」
ドアの向こうから応えが帰ってきた。
そう、ビクビクと怯えたような声音を混ぜた、俺の知る本来の彼女の声が。
「やっぱ居留守だったなー! 開けろーっ!」
『ひいいいっ?! や、やだっス! ウチは平和に密やかに暮らしてるだけっス! アウトローお断りっス! 帰るっス!』
声は返ってくるが、ドアを開ける気配はしない。
「くそ。居るのは分かってるが、やはりノコノコ出てくるタイプでもないか」
「どうすんの?」
「······仕方ない。手荒なマネはしたくなかったが。キエラ、ちょっと離れてろ」
キエラを下がらせ、UFOに乗ってウルトラハンドで扉を押す。
「いけ! 踏ん張れ俺のウルトラハンド!」
くそ! かてえ!ビクともせん。
まさかこんな堅固な防御で扉を固めていたとは。
「ねえ、イルス」
「なんだ?」
「その扉、押すんじゃなくて引くタイプじゃない?」
「······」
取っ手を掴んで引いてみると、鍵の壊れる音と共にあっけなく開いた。
「······結果オーライ! よし、キエラ、突入だ!」
「オッケー」
UFOから降りてキエラと共に中へと入る。
薄暗いホールであったが、魔法を動力とした証明などは生きてるしく、お洒落なスタンドライトが点いていた。
他には観葉植物がたくさん置かれていて、少し湿っぽい陰気な場所であったが、上品なアロマキャンドルなど焚いてあって良い雰囲気の空間となっていた。本を読んだりリラックスするのにはもってこいの空間と言える。
「へえー。良い部屋じゃない。少し湿気あるけど素敵」
「ああ、なんか森の奥の妖精の家って感じだな。おっと、肝心の本人は······」
辺りを探してみると、テーブルの横に不自然に配置されたロッカーを見つけた。扉の隙間からカーキ色の服の裾がはみ出ているのが見えた。
「そこだ!」
その扉の取っ手を掴み引き開ける。
──ガチャンッ──
「ひいいいーっ?!」
中には涙目になって震えている──ペールが居た。
「ペールうぅ!」
「ひゃああああっ!! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! もう逃げも隠れもしないんで許し下さいっス! 食べないで下さいっス!」
頭を抱えて座り込むペール。
当然、あの不気味な気配はしない。
子犬みたいに震えてがっちりガードして身を守る気弱な少女。俺の知るペールそのものだ。
無事でいてくれたか。
「······ペール」
かがんで彼女の肩にそっと手を置く。
「ひっ?!」
眼鏡の奥から怯えた光を見せるペール。
「ごめんな。怖がらせるつもりはなかったんだ。まあ、説得力ないけどさ。ただ、お前が無事な事を一刻も早く知りたくてつい、な」
「??? ウ、ウチの身に何か危険でも迫ってたんスか?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ。ともかく、危害を加える気は一切ない。少し話があって来ただけだ。立てるか?」
「え? あ、はいっス······」
手を貸して立たせてやる。まだ怯えたままだが、それよりも不思議そうな顔をしていた。
「あ、あのー。イルスにキエラ。取り乱してごめんっス。ウチ、家に来られるとパニックになるタイプでして······」
「あたし達の方が悪いんだし、気にしなくていいんじゃない?」
「そ、そうっスか。あ、今お茶淹れるっス。すみません、少し待ってて下さいっス」
「あ、構わなくていいぞ。俺らが押し掛けただけだし」
「い、いえ。居留守使っちゃったんでお詫びに淹れるっス」
「······イルスだけに、居留守。ってか?」
「············」
「······ペール、この馬鹿はほっといていいわ」
「あ、はいっス······」
気温が下がって涼しくなった。ちょうどいいぜ。
お疲れ様です。次話に続きます。




