6──メル
「レンちゃんっ!」
「メル!」
その小さな人影は飛び上がると、レンに合流して隣に浮遊した。
「ごめんね、あたしの攻撃当たらなかった······」
「大丈夫、まだチャンスはあるから」
「······メル」
メル。メル・ロンナ。主人公の仲良しチーム最後の一人だ。
パラファンは攻略可能なヒロインが多数存在するが、その中で主要キャラ、メインヒロインと格付けされる女の子が三人居る。
一人は主人公の幼馴染みでもあるカーリー。
一人は主人公のクラスの学級委員長のレン。
そして最後の一人が、主人公の妹の友達でもあり、同じクラスメイトの飛び級少女メルだ。
パラファンは異世界的な世界観であるが、その内容は要するに学園もの。
その学園で特別に仲良しなキャラがこの三人なのだ。主人公を含めて仲良し四人組みで、この四人が主にストーリーを進めるのだ。
猪突猛進の幼馴染みと、優等生な学級委員長、そして元気で純心な年下の女の子。
俺や、一部のコアなファンの心を射止めて止まない理由はここにある。
「イルス······」
メルの目。それはやはり俺の知るのとは違う。
メルとの思い出もたくさんある。個人的には推しの一人だった。ロリコンと言われようが構わん。
ふんわりとした若草のような髪をツインテールにして、おおきなリボンを着けている子供っぽさは可愛い妹のようだった。
濁りの無い、揺れる二つの瞳はまさに自然のおおらかさその物だ。
澄んだ瞳にはいつも愛と慈しみの心が宿っているかのように輝いていた。少なくとも、俺はゲームプレイの時にそう思った。
だが、今のメルの瞳に宿っているのはどうしようもない“哀しみ”であった。
そう、俺の事を責める悲しい目。
「イルス······どうして······どうして貴方は······」
「············」
推しに向けられるこの目は正直こたえるぜ。
辛い······。
いや。だが、これはこれで、なかなか。
「いや、そんな事より······クックックックラッカー! メルよぉ~、まーた泣かされに来たのか~? おチビちゃんよ~」
「っ······」
メルは優しい子だ。いや、メルだけじゃない。
なんだかんだ言ってこの三人はイルスにも優しかった。イルスが憎めない悪役だったという事もあるが、ごく希にイルスと各ヒロインが一緒に過ごすイベントとかもあった。
その中でも、メルは特に寛大だった。
イルスが学園のお祭りで出たケーキを食べられず、癇癪を起こして暴れ、主人公にボコされてくたばっていた所に手作りケーキを持って来て一緒に食べてくれたりした。
基本的に、悪さの現行犯でなければ親切にしてくれるのがメルなのだ。
そんなメルが──
「行くよ! ランス・ストーム!」
「うおっ?!」
強烈な攻撃魔法を放ってくる。
殺意──まではいかないが、明らかに本気。
「お前もか······!」
「メル、行きますよ!」
「うん!」
レンとメルの二人が鏡合わせのようにお互いの手を合わせる。
これは──
「行きます!」
「ブリザード・ラビリンス!」
「うっ?!」
吹き荒ぶ氷雪の嵐。
これは合体技だ。レンとメルの二人の力を合わせた。
メルの属性は風。単体での攻撃は威力も低く、まともに俺の機体を破壊出来る技は限られている。
だが、風の属性は他の二人の炎と氷の属性と相性が良く、その威力や効果を倍増させる力があるのだ。
レンの氷の力を、メルの風の力が強化して辺り一帯は吹き荒れる吹雪のごとく。
「ぐおお~っ! 寒みーっ!」
「アイスアロー!」
「!?」
飛び交う雪の中から届く詠唱。
咄嗟に機体を傾けると、やはり氷の矢がすれすれに飛んで行った。
合わせ技は厄介だ。
「よし、それなら──」
念のために作っておいた隠しスイッチを押す。
これはバーナーのスイッチだ。ガラクタバーナーをこれで点火させる。
もちろん、これで火炎放射みたいにして攻撃しようって訳じゃない。これで木片を燻して煙を出すのだ。
だが、煙幕に使う訳でもない。
「そ~らよっ!」
迫る追撃を避けながら煙を撒き散らす。UFO下部には様々な物を収納でき、今は溜めてある木片にバーナーで火を点けている。
これだけで良いのだ。
「っ?! コホッ、コホッコホッ、コホッ!」
吹雪の中からメルの苦しげな咳の音がし、同時に風の勢いが弱まる。
そう、これがメルの弱点。
メルは風を使う際、何も無い所から突風や竜巻を起こしてる訳じゃない。
周囲の空気を一度取り込んでから、エネルギーや形を変えて排出しているのだ。言ってしまえば、巨大な呼吸運動をしている。
そしてこの吹雪の渦は言わば巨大な空気の循環。この中で煙を焚けば、それは全てメルへと流れていく。
つまり、メルは大量の煙を吸い込む事になる。そうなれば当然──
「ゴホッゴホゴホッ! はっ、あぐぅ?!」
「メルっ!!」
吹雪が止む。止んだ景色の中から、激しく咳き込むメルと、それを支えているレンの二人が現れる。
完全に無防備な二人を見逃すほど俺は甘くはないぜ!
「スキヤキ隙あり~!」
「?!」
「ゴホッ、コホッコホッ?!」
ウルトラハンドでメルを狙う。
「?! 危ない!!」
それを庇ってレンがメルを突き飛ばす。やはりそうしたか。計算通り、いや、記憶通りだな。
「ヒャッハー!」
そのまま軽くパンチしてレンを打つ。
「うっ······!」
そして体勢のよろけた所を掴んだ。
──ガシッ──
「あぐっ!」
「コホ、コホッ?! レ、レンちゃんっ!!」
まずはレンを捕獲。レンは非力だ。一度物理的に捕らえてしまえば脱け出すのは困難。
そして、体も弱い。
「そ~れ~!!」
──グルングルン、グルグルグルグルッ──
「っ!!うぅうっ?!」
レンを掴んだままのウルトラハンドをぶん回す。少し加減はしてるが、かなりの遠心力がかかるだろう。
「レ、レンちゃん!」
このくらいでいいだろう。
俺は回転を止め、ぐったりとなったレンをカーリーの時と同じく草の上に寝かせた。
「さて。これで残るは一人だけか。ギャハハハッ! 俺様ってサイキョーだぜええ!」
倒す毎に悪役ムーヴも忘れない。
「さあっ、次はテメーでヒナーレだ! メルぅ!」
「っ?!」
バズーカをぶっ放す。
それをなんとか避けたメルをハンドで捕獲する。
「あうっ!」
「捕まえたぜえ~、子猫ちゃんよ~」
我ながら器用に操作して、そこら辺の蔦でメルを縛りあげる。
「あぐうっ!」
うっすらと涙目になって縛られるメル。
そんな彼女に劣情を覚える自分が居る。
お疲れ様です。次話に続きます。