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67──彼女達の日々

 


 夕方になった頃には、イルスによって荒らされた屋台通りもすっかり綺麗になっていた。



「ふぅーっ。よしっ!」


 岩バズーカによって辺りに残ってしまった岩を軽々と運び、片付け終わったリゲルが手をパンパンと払い、満足そうに頷く。


「これで明日は何時も通りにみんなが使えるかな」


「おーい、リゲル~!」


 そこへカーリーが来てジュースの缶を渡す。


「お疲れ。なんとか今日中に終わったね」

「ありがとカーリー。レンとメルちゃんは?」

「向こうも終わったみたいだよ。さっきたこ焼き屋のおじさんがお礼にってたこ焼き焼いてあげてたから」

「うんうん、よかった、よかった」

「それにしてもっ! イルスめ~! 今度会ったらタダじゃおかないんだからっ!」

「まあまあ、誰も怪我してなかったんだし、イルスには次会った時注意しとこ?」

「甘いよリゲル。ああいう馬鹿は一旦痛い目に遇わないと理解出来ないんだから!」

「けっこう何度も痛い目見てるような······」

「······そうだった。なのにまたこんな馬鹿な事すんだよねぇ。はぁ、本当に馬鹿」


 二人は他の後片付けなどを軽く済ませ、同じく作業を終えたレンとメルの二人に合流した。


「リゲル、お疲れ様です。すみません、力仕事ばっかり任せてしまって」

「平気だよ。私、体力だけは自信あるから」

「リゲル、はいこれ! さっきたこ焼き屋さんがくれたの! リゲルにもって」

「えっ、本当? ありがとう! 嬉しいな~、動いたらお腹減っちゃって!」


 まだ温かいたこ焼きをポクポクと口へ放り込んでいくリゲルにカーリーが苦笑する。


「夕飯前だから控えたら?」

「たこ焼きはアツアツが一番っ」

「まあ、そうだけどさ」


 四人は肩を並べながら帰り道へと着いた。


 山にもたれ掛かったオレンジ色のとっぷりした夕日が、彼女らの充実感を長い影にして地面に落とし、少し冷えた風が心地よく疲労感を拭っていく。



「メルちゃん、たこ焼きありがとう。明日おじさんにお礼言わなきゃ」

「リゲルは律儀ですね」

「お礼を言うのは当然だよ。あ、そうそう。レン、頼まれてた学級便りは机の上に置いておいたから。明日学校で確認してね」

「ありがとうございます。すみません、いつも頼んでしまって」

「ううん、いつでも頼ってよ。学級委員長は大変だもん。手伝わなくちゃ」

「ねえ、リゲル。明日家に行っていい?チズアちゃんとパン作りしたいんだー」

「もちろん! おいでよっ。最近忙しくてあんまし家に来れなかったからチズア寂しがってたよー」

「うえぇ?! チズアちゃん、ごめんね~!」

「あっははは、ここで謝ったってしょうがないっしょ。リゲル、あたいも行っていい?」

「うん。カーリーのカレーパンも久しぶりに食べたいな。あ、レンもどう? 久しぶりにミルクパン作って欲しいな」

「ええ、喜んで。ふふふ、結局みんなでまたパン作りになっちゃいましたね」



 取り留めもなく、そして特別でもない日常。それを繰り返してきた彼女達の掛け替えのない時間。リゲルも、そして他の三人も、そんなありきたりでありふれた日々が大好きだった。



「それしてもさー」


 カーリーが眉間にシワを寄せる。


「今日のイルス妙に手強くなかった?」

「うんっ! あたしなんて一発でパコーンってやられちゃったもん」

「ええ。確かに今日のイルスは一味違いました。と言うより、何か変でしたね」


 そんな三人の会話にリゲルもうーんと唸った。


「確かに。今日はあっさり退いてくれたよね。何時もならムキになってすぐ乱暴な事するのに」

「上手くは言い表せませんが······何か、こう理性というか、知性のような物を感じましたね」


 レンの感想にカーリーがムキになったように頭をブンブンと横に振った。


「冗談っ! いきなりリゲルのスカート捲る奴が知性的なもんか!」

「それはまあ······そうですね」

「エッチなのは何時もと変わらなかったねー。でも、何て言うのかな。心なしか何時もより攻撃を手加減してくれた気がするー」

「それは······まあ、そうかもだけど」


 カーリーがリゲルに振り向いて、気遣わしげに尋ねる。


「リゲルも大丈夫? いきなりあんな事されて怖くなかった?」

「え? う、うん。平気だよ。ありがとう。でもびっくりしちゃった。それで思いっきり叩いちゃったんだけど、イルス、大丈夫かなぁ」

「自業自得でしょっ! 心配する必要なんてないない! ザマーみろって感じ!」

「ふふ、カーリーはイルスの事になるとムキになりますね」

「本当はちょっと好きだったりして~」

「んな訳あるかいっ!!」

「あっははははははは」



 賑やかに笑えるその時間がリゲルは何よりも好きだった。大事な友達と一緒に笑っていられるそんな日々こそ、彼女の力の源であった。

 小さな『当たり前』こそ、希望なのである。




「じゃーねー、みんなー」


「また明日っ」

「さようなら」

「ばいばーいっ」




 カーリー達と別れたリゲルは、家へと続く丘をステップしながら軽やかに登っていった。


「らんら~ら~ん。明日は久しぶりにみんなと遊べる~。えへへへ。ん? あっ」


 丘の上はすでに群青色に深まり、その底に一等星の醒めるような白い輝きがあった。


「一番星っ。綺麗だな~」



 ふわっと浮いて、静かに降りてくる夜の中に身を浸しながら、リゲルはその星の瞬きを自分の瞳の中へと灯し、満面に笑いかけた。



「こんな日が何時までも続きますように」



 星の光も笑いかけるように細かく瞬いた。


お疲れ様です。次話に続きます。

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