66──パラダイスファンタジア······?
まさか。まさか、こんな展開になるとは。
一人でUFOを飛ばしながら、あれやこれやを考えるが、ハッキリ言って困惑している。
とにかく。現時点での情報と推論を整理しよう。
まず、俺はあの最悪な世界とは別の世界に居る。つまり、狂ったパラファンの世界ではなく、きちんとしたパラファンの世界だ。
今のところの最有力説は、過去に居るということ。つまりタイムリープしてしまったという訳だ。
何故? それは不明。
どうやって? それも不明。
しかし、過去に来たと考えるのがしっくりくる。あらゆる事象がそれを示唆している。
その最たる根拠がリゲルの存在だ。リゲルは1ヶ月前の隕石事故で既に死亡しているというのが本来(あの最悪な世界)の事実だった。
それが生きているという事は、俺が最初にこの世界で目覚めた時よりも過去ということ。イコールではないが、ほぼ同義だ。
············ただし。ここで一つの大きな謎が途端に浮上した。いや、他にも謎はあるのだが、一番予想外だったというかびっくりした謎。
それは、リゲルが女の子になっていること。
パラダイスファンタジアの主人公は名前と髪型や服装こそ変えられるものの、その肉体的な容姿は大きく変えられない。
当然、性別の変更も出来なかった。
つまり、リゲルは固定で男性になっているはずなのだが、あのリゲルは正真正銘の女性。まあ、すっ裸にして確かめた訳じゃねえけどさ。
「う~~~ん······」
もしかして、ここは過去ではなく別次元のパラダイスファンタジアなのか? そういう可能性もあるぞ。
だって、未來では確かにリゲルは男──
············。
あれ?
「そう言えば······」
待てよ。そう言われてみれば、未來の世界でリゲルが男だという話は無かった。と言うより、俺は先入観で男だと決めつけていたから、性別なんて気にも留めなかった。
あいつの性別に言及する会話なんて無かった。
「············あっ!」
いや! あった! 一つだけ! いや、一回だけ!
チズアだ! リゲルの妹!
あの娘のお見舞いに行った時、確かにこう言っていた。
『私には兄は居ません』
あの時は、精神的におかしくなったチズアの虚ろで痛々しい呟きかと思ったが、違ったんだ。
そう言えばその後に、『姉』って言葉も口にしてたような気も······あ、親の『娘も喜ぶ』ってチズアの事じゃなくてリゲルの事だったんか?!
まさかのここに来ての符号の一致。リゲルが女の子だったという事を裏付けるような言動がいくつかあったのだ。
「······いや、まあ」
冷静に考えると、リゲルが女の子かどうかってあんまし重要でもないような。
いや、そんな事はない。きっと何かこの世界の謎に深く関わっているはずだ!
············な訳ねえか。
まあ、それはともかくとして。
結構かわいかったなあ、リゲル。
あれが老若男女から愛される主人公なら、このパラダイスファンタジアは百合の花園に──
「······あっ」
そう言えば······。
前にちょっとだけ聞いた事がある。
パラダイスファンタジアは元々、女主人公の百合ゲーにする予定だったとかなんとか。
しかし、ターゲット層は俺のようにモテない野郎達だったんで、ハーレムを味わえるように主人公の性別は男にしたとか。
つまり、最初のコンセプトからするとリゲルを『女体化』させたのではなく、『男体化』させたという事になる。
と、するならば、リゲルが女の子なこの世界こそ本当の意味での原始のパラダイスファンタジア。
「············いや、それが分かったところで、だからどうしたって感じだよなあ······」
結局。
ここが過去らしいという説はその根拠が出たものの、新たな事実の発覚により、そもそも俺がゲームプレイしていた世界とも違うんじゃないか? という謎が生まれてしまった。
建設的な考えが纏まらないまま、俺のUFOはいつの間にかアジトに着いてしまった。
「分からん······何もかも······」
『ヒョーッヒョー!!』
庭に着陸すると、その辺りに居たダスト達が群がってきて俺の帰りを迎えてくれた。
午後は部屋で考え事したり、これまでの事を時系列にして紙などに書いて纏めたりして一人で過ごした。幸い、キエラも我が儘言ったりしてこなかったし、ダスト達も好きに過ごしていたから邪魔は入らなかった。
そうこうしてる内にすっかり日も沈んで夕方になっていた。
「もうこんな時間か。そういや昼飯も食ってねえから腹減ったな······」
無い頭を振り絞り過ぎて脳ミソが煮え立って味噌汁になっちまう。飯食って休むか。
廊下に出ると、またダスト達がボコボコとついてきて、そのまま食堂へと向かった。
食堂にも多くのダスト達が居たが、まだ食い物争奪戦は起こってない。
というか、ダスト達が物陰に隠れて台所の方を怯えたように見てるんだが······。
「よ、お前ら。何やってんだ?」
「オヤブン、ヤバイ」
「オレラコロサレル」
「アネゴ、ダイドコロ」
「リョウリ」
「はあ? ······あっ!」
慌てて台所に入ると、エプロン姿のキエラが何か下準備をしているところだった。
「あっ、イルス」
「キエラ、何か作ってたのか?」
「え? あー、うん。その、あんたの好物のシチューでも作ろうかなって······」
「え? 俺の?」
「うん。ほら、今日はちょっとやり過ぎたかなあ、なんて思って······そのせいであんたが変になったなら、あたしに責任あるかなって」
少し恥ずかしそうに目を逸らすキエラ。
正直、今日は俺の方が全面的に悪かったんだが、気にしていたらしい。
「······はは、お前のそういう所が可愛いんだよな」
「へっ? か、可愛い?」
「よし、夕飯も一緒に作ろう。見た所材料がシチューと言うより鍋よりだしな。あ、鍋にして皆で食うか? 家族みたいで楽しそうだ」
「············ねえ、イルス。あんたさ······」
「ん?」
「あんた本当にイルスなの?」
「············どうかな。もしかしたら別人かも」
「え?!」
「なんてな。嘘。さ、一緒に作ろうぜ」
「え、あ、うん」
こうして。
何かがおかしいパラダイスファンタジアが始まった。
だけど、悪い感じじゃない。
お疲れ様です。次話に続きます。




