62──一つの可能性
機体の速度が上がり、ユートピアタウンからどんどん離れていく。カーリー達が追ってくる気配はない。
「お、おい、キエラ」
「いいからっ! あたしがやる! あたしだって操縦くらいなら出来るし」
「いや、そうじゃなくてな」
すごく幸せな感触が肩に当たっててだな。おお、あったけえ。こ、こんなに柔らかいものなのか。めっちゃ良い匂い······。
「······うん。このままずっとこうして操縦してて欲しいわ」
「は? なんで············あっ!? っ~~~!?! こっの~~っ!!!」
──ベキッ、バカッ、バチィンッ、ドゴッ──
三分後。
ボコボコにされた俺は、鼻血で操縦桿を汚さないように気をつけながら操縦した。
「いてえ······」
「ふんっ!! ほんとにもうっ!! 朝から変な事ばっか言うし、いきなり泣き出すし、なのにスケベなとこはいつも通りだし! サイテーッ!!」
すまんな。男はみんな、馬鹿だろうが普通だろうが頭良かろうがエロには敵わないんだよ。
「いや、最高だったぞキエラ。またぜひ操縦を肩代わりしてくれると──」
──ボコッ──
余計な事は言わずに帰るとしよう。
アジトに着いて降りると、キエラはプリプリと怒ってさっさと部屋に戻ってしまった。
ダスト達がワラワラと群がってくる。
「オヤブン、アネゴ、ケンカ?」
「ああ、喧嘩っつうか、怒らせたっつうか」
「アネゴ、ヨクオコル。オヤブン、キニスンナ」
「はは、あんがとよ」
まあキエラには後で謝るとしてだ。
俺は今最高の気分なのさ。
死んだと思ってたキエラもあの三人もみんな無事だった。楽観的に見ればローナも無事なんじゃないかと思われる。
まるで、あの時の事が全て悪夢だったかのように、みんな元気に生きてる。
俺は洗面所へ向かった。顔中血だらけだ。もう乾いてきたから洗わないと。
水でサッパリしてタオルで拭き取る。鏡に映った自分──イルスの顔はにこやかだった。
「ははは。本当に全部夢だったのかな」
逆に、今のこの世界が夢だった。なんて事はないでくれよ。
あり得なくはないからな······。
「しかし、なんて悪夢だったんだ。あんな世界は二度とゴメンだ······」
特にやる事もないし、俺も昼飯までは自分の部屋で休んでるとしよう。
部屋に戻る。相変わらずの汚い部屋だが、家具が壊れてたり壁にビンの叩きつけられた痕もない、荒んでない部屋だ。
「そうだ。新聞······」
テーブルを見たが新聞も無い。あの悪夢の便りが無いだけでホッとした。
「はぁー。よくわかんねえけど良かった。さて、昼寝でもするか。この世界って気候がちょうど良いよな」
壁にあったカレンダーを見てみる。この世界は現実と同じ歴だから日付は確認しやすくて良い。まあ、今日が何日か知らねえから意味ないが。
今は6月のようだ。何日かまでは分からんが。
ユートピアタウンとその周辺は年間通して春の気候なんだったよな。だから全然暑くはない。
「············ん?」
待てよ? 6月?
「············あれ? なんか引っ掛かる······」
記憶の片隅に、何かが引っ掛かっている。このカレンダーの月に何か······。
「························あっ!?」
そうだ。確か······俺がこの部屋で見つけたあの新聞。リゲル死亡の見出しの載ったあの新聞の日付は確か7月だった。
そして今、見ているカレンダーは6月。
「············まさか························!」
部屋から飛び出し、キエラの部屋に急行する。
いきなり開け放つ衝動は理性で何とか思いとどまり、代わりにノックマシンガンをドアに叩き込む。
「キエラっ!! キエラ!! 開けてくれ! 聞きたい事があるっ!! キエラ!!」
──ドンドンドンドンドンドンッ──
──ガチャッ──
「うっさーいっ!! ドンドン、ドンドンって、あたしの部屋は太鼓かっ!!」
「キエラ!!」
──ガシッ──
「きゃっ!? なっ、イルス?!」
「キエラ! 今は6月なのか?!」
「え? そ、そうよ。あんたもカレンダー持ってるでしょ? あたしが捲ってあげてるけどさ」
「今は6月で間違いないんだな?!」
「な、なによ。そうだって。あんた怖いわよ」
「······そうか!」
「あっ! イルス!? どこ行くの?!」
背に届くキエラの声に答えずに、俺は反射的に外へと駆け出した。
庭先に停めてあるUFOに乗り込み急発進させる。
機体はすぐに上昇し、再びユートピアタウンへ向かってぐんぐん飛んだ。
「そうかっ······あったじゃないか、今のこの状況を説明出来るパターンが!」
俺は、あのシリウスとの戦いや、シュユ達の変わり果てた姿、キエラ達の死を悪夢か何かだと勝手に片付けていた。
だが、あれらの事が幻想だったとは考えにくい。五感の全てに記憶が残ってるくらいだ。
しかし、現実だったとしたら今のこの状況の説明がつかない。
悪夢ではなく現実。しかし、現実だったのならばキエラ達はもちろん、俺だって生きてる訳ない。
これらを矛盾せずに説明出来るパターン。それが一つあった。
それは──タイムリープ。
つまり、ここは過去の世界だ。
それも、俺がこの世界で目覚めた時よりもさらに前の時間。おそらく、隕石の爆発事件が起きるよりも前だ。
そう仮定すれば全てに説明がつく。
まず、キエラだ。
キエラはイルスの暴力によって心に傷を負ったために本来の性格よりも大人しかった。
ここが過去なら、まだ暴力を振るわれていないだろうからキエラも元気で勝ち気なままなのは極自然な事だ。
そして、ダスト達。
ダスト達は元々100体近く居たのをシュユによって半減させられてしまった。よって、残ったのは40体少々。
だが過去なら、当然無傷。100体以上居ても普通。当たり前なのだ。
ユートピアタウン。
隕石の爆発がなければ、恐らくアンノーンも居ない。アンノーンが居なければバリケードも見張り櫓も必要ない。そして、町の周辺で楽しく生活してても問題ない。
モブの子供達。
あいつらが俺を見て泣いたのは、リゲル殺しの犯人だとされていたからだ。そんな事する相手に恐怖を抱いたりするのは当たり前だ。
今日のあの生意気な態度も、そんな事がないからこその態度だろう。
そしてカーリー達ヒロイン三人衆。
モブの子供らと同じ。リゲル殺しの汚名が無いからこそ問答無用の戦闘には発展しなかった。
何もかもが上手く当てはまって説明出来る。
何故? どうやって? 過去に戻ったのか?
こればかりは分からないが、今はそれよりも重要な事がある。
それは、“どうやって過去に来たか”より、“これから未來はどうなるか?”だ。
ここが過去なら、まだ世界は平和なままだ。だが、これから先は──
いづれにせよだ。
ここが過去だと言う確信が欲しい。
そして、それを証明する最たるものがある。
今からそれをやりに行くのだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




