58──喜び?
本日3本投稿予定です。
「ちょ、ちょっと! イルスっ! あ、あんたどこ触って······んんっ!? あっ、こ、こら! ひあっ!? も、もうっ! 離れろ~!!」
──ガスッ──
「いてっ!!?」
肘打ちらしき感触が肩甲骨にめり込んだ。
「いつつつ······」
「この~!!」
──グニィ──
「いてて!! 痛い、痛い!」
プンスカ怒るキエラに頬をつねられる。
痛い。痛みだ。これは現実、夢じゃない。
「この変態! いきなり何すんのよ!」
今度はパッと手が伸びて耳をつねり上げてくる。
「いってててて!!」
いや、もう夢じゃないのは分かったからやめてくれ。ギブだ、ギブ。
「もうっ! 目覚めたっ?」
「覚めた! 覚めた! 参った!」
まだ顔を赤くして怒り気味のキエラに全面降伏すると、耳が解放された。
「ふう。まったく。あんたと居ると我が身がいつ毒牙にかけられるか心配よ」
睨みつけてくるその顔は、間違いなく本人そのもの。偽物でもないし、これは夢じゃない。
キエラは助かったんだ。
良かった··················。
「さ、早くしてよ。あたしお腹空いちゃった。今日はホットドックが食べたい気分だから──って······え? イ、イルス? あんた、まだ泣いてるの?」
「え······? あ、あれ?」
涙がまた溢れ、ボロボロと膝元の布団を濡らしていた。拭っても拭っても止まらない。
「は、ははは······みっともないよな······でも、止まらなくて······さ。ははは······」
「······イルス」
ふわっと柑橘類のような爽やかな香りがすぐ隣に座って、心配そうな目が俺を覗いた。
「あんた、大丈夫? その、もしかして痛かった? 耳とか、頬とか」
キエラの手がそっと肩に乗せられる。
その手からは温かい生命の温もりを感じた。キエラの、彼女が生きていると言う実感がほんのりと肌に染み渡るように。
「えっと······その、ごめん。やり過ぎちゃった、かな? あたしもさ、ほら、びっくりしたから、ちょっとさ······えと、大丈夫? それとも、そんなに怖い夢見てたの?」
「いや、そうじゃないんだ。嬉しくて泣いてるんだ。良かった、キエラ。無事だったんだな」
「??? な、何の話?」
混乱するように困った顔をするキエラ。
まるで何事も無かったかのようなくらいに元気で、そして俺の気遣いなんて理解出来ないというようなキエラ。
何をどうしたら、あの状況で助かったのか気にはなるが、とにかく今は嬉しい。
「あ、そうだ。キエラ、俺をここまで運んでくれたのはお前か?」
「え?」
「大変だったろう。ありがとな」
「············イ、イルスが······『ありがと』?」
「え? どうかしたのか?」
キエラの困惑はいよいよ大きくなったようで、まじまじと、今度は心配というよりは警戒するような眼差しで俺の事を見る。
「あんた本当にイルス?」
「え? あ、ああ。もちろん」
まあ、正確には違う。が、そんな事は知らないだろうし、言っても信じちゃ貰えないよな。
「俺は俺さ。当然、あの『崩壊の力』とかいう奴で狂ったりもしてないぜ?」
「ア、アンニンドウフ? 何それ?」
「何って······俺らを散々に苦しめたあの力だよ。あれで俺は······」
腕が失くなった所は見ていた。これからは隻腕生活だな。
思い出して少し憂鬱になったところでそっと手を伸ばしてみる。
そこには腕が無く、俺の手は虚空を掻き──
ん?
「?? あ、あれ? ある······」
ある。腕の感触がする。
確かに切断された腕が宙を舞ったはずだが──
「そんなまさか──」
──バッ──
「?! ちょ、ちょちょ、ちょっと!」
服を脱いで全身を見てみるが、どこにも怪我の痕が残っていない。腕も、肩も、綺麗だ。
「······無い。傷痕一つ······」
そんな事あり得るのか?
「そうだ、キエラ、お前は?」
──グイっ──
「!!?!???!!!」
キエラの体も大丈夫そうだ。綺麗な肌のお腹があるだけだ。多分、串刺しにされたろうに。
「キエラも無傷、か。でも一体どうして──」
「······ぃ························」
「ん?」
「いいぃやああああーーっ!」
──ベッチィーンッ!──
「ほんげええぇ?!」
「こっの!! サイッテー!! いきなり服を捲し上げて何したいのよーー!! スケベ! エッチー!!」
──バキッ、ドカッ、ボコッ──
「ぐべっ、がぼっ、げはっ、ま、参った、た、タンマ、タンマ、キエラ!!?」
「許さないわよー! イルスー!!」
「ごべええ?! ご、ごめんっ! 悪かった!」
かなりボコボコにされたところでやっと許して貰えた。
「ほんとにもう!! いきなり抱きつくわ、半裸になるわ、人の服を剥ぎ取ろうとするわ、次やったら2倍ボコるからね!」
「これの2倍とかって死ぬんだけど······」
クソいてえ。無傷から一気に満身創痍だ。
「はぁ、なんか疲れちゃった。イルス、もう目は覚めた?」
「とっくに覚めてる。だけど、まるで夢みたいだなあ。キエラが無事だなんて」
「······ねえ、やっぱり大丈夫? あんた変よ?」
またまた心配そうな目を傾けるキエラ。
それにしてもキエラは冷静だな。俺なんて溢れる感動と喜びで一杯で、もう今すぐ二人でダンスしたいくらいなのに、いやに落ち着いてる。
でも本当に無事で良かった。ああ、みんながあの剣にやられた時はもう駄目だと──
「······あああーっ!??」
「わっ! び、びっくりした。もう、驚かせないでよ! いきなり何?」
「キ、キエラ!!」
──ガシッ──
「きゃあ?! な、なに?!」
「皆はどうなったんだ?! カーリーは?! レンは?! メルは?! ローナは?!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて! イルス?!」
「皆は無事なのか?! お前が無事って事は皆も助かったんだよな?!」
「イ、イルス! 痛いっ!」
「あっ······」
思わずキエラの肩を掴んで詰めよっていた。つい力が込もってしまっていた。キエラが少し怯えたような顔をしている。
「す、すまん。取り乱した」
こんな事したら暴力を受けた記憶が甦るかもしれないじゃないか。
「ごめん······なあ、皆は無事だったのか? どうやって皆助かったんだ?」
「············」
キエラからの返答は無い。
ただ、俺をじっと見つめていた。
少しして、深刻な顔をした。
「イルス、本当にどうしたの? さっきから······なんか訳分かんない事言って······まだ寝ぼけてるの?」
「え?」
「ほら、もう今日は休んでなよ。食糧とかダストの事はあたしがやっとくから」
キエラが優しい手つきでそっと俺を押して寝かせる。
「ちょっと眠れば治るでしょ。休んでなって」
「い、いや。キエラ?」
「心配しないで。ゆっくりしてて」
なんだか凄く心配されている気がする。
キエラは何度も『休んでてて』と言って出ていった。
出てく時の心配そうな目つきが印象的だった。
お疲れ様です。次話に続きます。




