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55──最悪の未來

 

 ─────!!!!!!!



「ッ······レンっ!!!!」


「──カフッ······」



 まるで──



 一輪挿しの百合の花が枯れて落ちるように。


 力を失ったレンの肢体が地に落ちた。



「レンっ!???」



 なんだ?



 何が起こった?



 え、レン? 血? 剣?



「レエエエエエエンッ!!」



 カーリーの絶叫がした。


 その絶叫に被せるように──


 ──ザンッ──


「あっ············」


 再び、刃が何かを貫く無情な音がした。


 血飛沫が地面をビチャビチャと汚し、カーリーの体がゆっくりと倒れた。



「カ······カーリー?」



 何なんだ?



 一体何が起きた?



 今、目の前に倒れている二人が居る。


 レンとカーリー。


 その腹部を漆黒の剣が貫いている。


 真っ直ぐで、シンプルな、何の装飾も模様もない、ただの刃。

 それは本当に、それ自体が目的であるかのようにレンとカーリーの細い身体を貫き、引き裂き、血の海に沈めていた。



「──────!!! レンッ! カーリー!」



 あまりに突然の事に、脳がついていけない。

 だが、それでも。俺の身体は動いていた。


 二人に手を伸ばした。


 ──ヒュオッ──


「──っあ」


 目の前をその黒剣が掠めていき、伸びていた俺の腕を浅く切り裂いていった。


 それだけのはずなのに──


「!!!! がっああああはああああ!!?」


 なんだこの痛みは?


 今まで経験したどの痛みとも違う。


 全身を数千もの針で刺されたかのような、緋色に揺らめく炎に包まれたような、氷に肌を引き剥がされたような──


 形容するのも難しい、そんな苦痛だった。



「イルスー!!」



 足がもつれ、倒れた瞬間。キエラがこっちに駆け寄ってくるのが見えた。


「キ、キエラ······」


 すぐに柔らかい温もりに包まれ、キエラの泣き出しそうな顔が一杯になった。


「イルスっ! しっかり!」


「レン······ちゃん? カーリー······ちゃん?」


 激痛に麻痺しかける意識の中、メルの抑揚の無い声がハッキリ聞こえた。


 キエラの腕の腕の中から見えた景色に、こちらへヨロヨロと歩いてくるメルの姿があった。



「え······? え。レンちゃん? カーリーちゃん? 二人とも······え?」

「!! メ、メルっ······」


 危ない!


 そう叫ぼうとしても、苦痛が首を絞めてるかのように声が出なかった。


 メルの背に迫るその黒剣がスローに見える。


「よ、避けっ······」


 ──ザシュッ──


 真っ赤な花が咲くように。

 薔薇の花弁が散るように。


 美しいとさえ言えるような血の雫が宙に広がった。


「なっ──!」


 その剣の新たな犠牲者はメルではなかった。


 メルを押しのけ、代わりにその一身に凶悪な切っ先を受けた人物。


「─────お姉ちゃっ······」

「ローナああぁ!!」


「······ぁ············」


 紅のレースを纏って、大地へと横になるローナ。


 華奢な身体が、なんの躊躇いもなく土にまみれて動かなくなる。



「··················お姉ちゃん?」


「ぐっ······」


 立て。立ってくれイルス。


 俺の身体だろうと、イルスの身体だろうと、どっちでもいい。


 動いてくれ。


「イ、イルス! 駄目っ、その傷でっ······」


 意識を寸断されそうな痛みに、平行感覚すら保てない。


 それでも、意志が体を動かす。

 呆然と崩れ落ちて、ローナの横に座り込むメルに、この身が歩み寄ろうとしている。


 ローナの肉体が光の粒になってゆく。


「おねえ······ちゃん······?」


 もう、そこにローナは居なかった。

 最後の光の欠片が何処へともなく行ってしまうと、残されたのは光を失ったメルだけ。


 瞳の輝きが失われたその眼から、涙がポロポロと零れ始めていた。


「え······お姉ちゃん? 嘘············だよ、ね?」

「メルっ! っ!? 駄目だっ! 逃げっ······」


 ──ザシュッ──



 生暖かい血が、俺の頬にベトリとくっついた。


 それは、今の今まで······。

 すぐそこに居たメルの血。

 俺にパンケーキを焼いてくれ、一緒にカーリーやレンとドライカレーを食べた一人の女の子の、その人生を流れていた生命の証。



「メルっ············!」

「··················コフッ······」


 メルの表情が苦悶に歪み、吐血する。

 その小さな身体には、その剣はあまりにも大き過ぎた。


 レンやカーリーと同じように······


 力を失って倒れるメル。


 元気に弾んでいたあの小さな身体は、今はもう虚しい肉体になって横たわっている。



「メルうううぅ!!」



 驚愕が、焦りが、混乱が、吐き気となって体の奥から沸いてくる。


 頭がぐちゃぐちゃになりそうな感情が俺の全てを握り潰すように支配している。



 そう、一言で表すなら───






 絶望。





『フフフフフフ。良い表情(かお)をするねぇ』



お疲れ様です。次話に続きます。

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