51──戦慄、三度
上空から見ると、既に町のあちこちから煙が上がり、激しい戦いが繰り広げられていた。
「っ! バリケードを突破されたのか······!」
どうやら防衛線が崩壊し、アンノーンらが町に侵入しつつあるようだ。
遠方の西門や、南門で巨大な火柱が上がったり、局地的な吹雪が起こっているのが目に入った。
恐らく、各門をカーリー達主戦力がそれぞれ守っているのだろう。
だが、すると北と東は?
「──あっ」
東門に到達した時。その答えが分かった。
すでに東門は倒壊しており、辺りには惨たる光景が広がっていた。
必死に抗戦していたであろう住民達の変わり果てた姿が、大地に臥している。
「············」
気づかぬ内に操縦桿を強く握る自分か居た。
手に赤い痕が付くほど強く握っていたらしい。
「くそ······」
北の方で竜巻が起こっていた。メルはここには居なかったようだ。
この非常時だ。
俺は高度なんか気にせずに最短ルートで中央広場へと向かった。
町はどこもかしこももぬけの殻になっており、時たま、駆け回る守備隊を見る事はあったが一般市民の姿は無かった。
広場も同じくで、虚しい芝生の真ん中で、こっちに手を振っている人影ただ一つだった。
「イルスー! あ、レグルスー!」
女学生風に変装したキーラこと、キエラのすぐ横に降りて手を貸す。
「キエラ、すぐ乗れ!」
「ど、どうしたの慌てて」
「行きがてら話す! ともかく急げ!」
キエラを回収し、すぐに北の丘へと向かった。
「えっ?! カミラも?!」
「ああ、予想はしてたが······」
「そんな······それで、もしかしてローナが?」
「ああ、俺の代わりに戦ってくれている」
事情を軽く説明すると、キエラは悲痛な表情を伏せてしまった。
「キエラ?」
「どうして? なんでこんな事になっちゃったんだろう? 一体なんで? この前まで······たった2ヶ月かそのくらい前までは楽しくて平和な毎日だったのに······どうしてシュユもペールもカミラも、皆おかしくなっちゃうの?」
「キエラ······」
どうしようもない、行き場のない憤りや苦しみ。
今俺らの間にある同じ気持ちは、そんな傷ついた悲しみだけだった。
丘に近づくと、激しい爆音が聞こえてきた。
「まだローナは戦っている! キエラ、覚悟はいいな? すぐに戦闘になるぞ」
「任せてっ! きっと、カミラをちゃんと元にしてあげる! 今度こそはっ······」
「そうだな──うっ?」
なんだ? 視界が······。
「イルス?! どうしたの?」
「いや、少しだけ眩暈がな······もう大丈夫だ」
カミラに吸われた血の量はバカに出来ないものだったのだろう。ローナの力でも完全には回復出来なかったようだ。
厳しい戦いになりそうだ。
「丘が見えてきたぞ。キエラ、用意は──」
──ゾクッ──
「!!」
「今のはっ······!」
この背筋が凍りつくような独特の気配。そして、体の芯を鎖で締め上げられるかのような戦慄。
まさか──
「あっ! イルス! あれっ!」
キエラが声を上げて指差す方。
そこには巨大な影が空を飲み込まんばかりに膨らんでいた。
「まさかっ!」
そして──
──ズドドドオオンッ!!──
激しい雷鳴が連続で轟き、丘一帯を震わせた。
赤い稲光が天空を引き裂き、大地を滅茶苦茶に穿つ。
「今のは······」
一際濃くなった影の中。
そこに蠢く巨大な何かを見つけた。
「あれはっ······!」
それはドロドロとヘドロのような質感を纏って、妖しい瘴気を纏う巨大な翼であった。
あの、何度も味わった感覚。おぞましく、嫌悪感を抱く不快で不気味な力の波動。
「くっ! カミラも······」
影の中からコウモリのような姿の巨大な姿が現れ、その頭部に無数の目玉がひしめいていた。
例の力を解放したカミラの姿だろう。
「!? ローナ! ローナあああっ!!」
その醜悪に歪んでしまったカミラの元へ機体を飛ばす。
すぐ目の前にまで迫ったところで、カミラの目玉が一斉にギョロッとこっちを見た。
「ン? アア、イルスカ」
異形の口が歪に開いて、淀んだ声のカミラの言葉が俺らを出迎えた。
「ナンダ、キエラモ居ルノカ。ワラワラト虫ノヨウニ涌イテクル奴ラダ。何シニキタ?」
「そんな事よりローナはどうした?!」
「フン。我二本気ヲ出サセルトハ大シタ奴ヨ。ダガ、所詮ハ敵ジャナイ。ホラ、見ルガイイ。アソコ二居ルデハナイカ」
カミラの大顎が差す方向には、地面にぐったりと倒れるローナの姿があった。
「っ!! ローナ!」
急いで駆けつける。
機体を降りて抱き起こす。
「おいっ! しっかりしろ! ローナ!」
「ぅ············」
微かにうめくローナ。
生きてた。
良かった。
だが、全身傷だらけだ。あの美しい六枚の蜻蛉のような羽も、まるで溶かされたかのようにボロボロだ。
「しっかりしろ! ローナ!」
「ククク、我ガ崩壊ノ力ノ前デハ精霊ノ王デスラ無力。実二心地イイ」
「············」
ローナを抱えて近くの木の根元に寝かせる。
そして、クラフトで簡易敵なシェルターを作って囲った。
「待ってろ。すぐに助けてやるからな」
操縦席に戻り、機体を上昇させる。
カミラからは一定の距離を取りながら、ゆっくり旋回を始める。
「葬式ハ済ンダノカ?」
「んなもんやってねえよ」
まずはここから離れなければ。
「キエラ、行くぞ」
「うん!」
岩バズーカを出してカミラにぶっぱなす。
「フンッ、笑ワセルナ!」
翼でそれを弾くカミラ。
俺はバズーカを一定のリズムで撃ちながら、機体を徐々にカミラの側面へと滑らせた。
「火力が足りないか。なら、ガトリングショット!」
──ズドドドドドドドッ──
岩バズーカ六門掃射。
「グッ?! グアッ?!」
岩の弾丸が絶え間なくカミラの翼を打つ。翼膜の一部が破れて穴が空くと、天をつんざくようなカミラの咆哮が轟いた。
「アアアアアアッ!! オ、オ前エェ! ヨクモ、私ノ羽ヲオォ!!」
「悔しかったらかかってきな!」
挑発しながら、ローナとは真反対の位置に回り込み、アクセルを踏み込んで逃げる。
「逃ガスカアアアアアアアアッ!!」
巨大な憎悪を纏ってカミラが追いかけてくる。
お疲れ様です。次話に続きます。




