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49──不覚

 


 本来の美しいルビーの瞳も、今は狂気を孕んだ血のような色になっている。



「その力。貴様はイルス?」

「そう言うお前は本当にカミラか?」


 俺の問いかけにカミラは初めて笑った。

 もっとも、かなり邪悪な笑みだった。


「何を言う。我は我。貴様もよく知る吸血鬼。気高く、美しく、そして最強の種。忘れた訳ではないだろうな?」


 自信に満ちて、生意気なその得意顔は、確かにカミラだ。

 そして、やはり俺の記憶とは違うカミラだ。


「俺の知るお前はもっと可愛げのある感じだったがな」

「抜かせ。帝王に愛嬌など要らぬ。強者は強者らしい振る舞いが相応しいのだ。まあ、そんな事はどうでもいい。それより──」


 八重歯──と呼ぶには凶悪過ぎる凶器のような牙を見せて笑うカミラ。



「探したぞイルス。しばらく見ないから死んだかと思っていたが、生きていたか。ククク、リゲルを葬った功労者だもんなぁ貴様は」

「······またそれかよ」

「胸を張るがいい。奴は我にとっても邪魔でしかなかったからな。褒めてやるぞ」


 嘘や偽りではなく、本当に褒めてるかのようなカミラの態度。







 イルスとカミラの仲は、四天王の中では一番よかった。理由は色々あるが、二人とも馬鹿だったからだろう。


 気取ってこそいるものの、カミラも相当アホの子であったから、イルスの馬鹿みたいな思いつきや提案に楽しそうに乗ったりしていた。



 それ故なのだろうか。


 邪悪な気配はするのに、カミラからは親しみのような感情を感じてしまうのだ。





「イルスよ、何故我の邪魔をする? 貴様は我の眷属であろう? 血迷ったか?」

「お前の下についた覚えはねえな」

「大目に見よう。そんな事より、だ」


 カミラは粉雪のような手を静かに上げて微笑んだ。


「イルス。我と共に来い。リゲル亡き今、我とお前が手を組めば恐れるものなど何も無い。ローナは少し気がかりだが、奴も取り込めば問題なかろう。どうだ? 貴様が平時から叫ぶような世界の支配も夢ではないぞ?」

「······」



 いっそのこと、俺の事なんて眼中に無いって切り捨ててくれりゃあ良いのによ。


 よりによって、こんな場面でどいつもこいつも勧誘してきやがる。




「さあ、来い。今のお前は『崩壊の力』を失っているようだが、()()()からまた授かる事も出来るだろう。迷う事などないぞ。共に世界を手中にしよう」

「······その前に一つ答えろ。ラッキータウンをあんなにしたのはお前か?」

「ん?」


 カミラは不思議そうな表情を浮かべた。


「そうだが? それがどうした?」

「······」

「さあ、それより早く来い。イルス、一緒におもうがままに生きよう。我と貴様でこの世界を支配しようじゃないか」

「わりいなカミラ。お断りだ」


 俺のその返答にカミラはキョトンとした。

 そして······少しだけ傷ついたように顔を歪ませた。


()とでは嫌なの?」




 カミラは自尊心の塊みたいな奴だ。

 でも、その本性は寂しがり屋の子供。強がりを保てなくなった時、本来の素顔を見せる。



 今は見たくない、その悲しそうな表情を······。



「お前がどうのじゃない。その訳の分からん崩壊なんちゃらとか言う力なんざ真っ平なんだよ。シュユも、ペールも、そしてお前までもを変えちまうそのクソ能力だけはな」

「······」


 カミラの手が力なくだらりと落ちた。


「そうか」

「っ······!!」


 次の瞬間には凄まじい殺気が全身から漲った。


「ならば殺してやろう」


 来る。


「消えろ。『ブラッド・ブリッツ』」

「くっ!!」


 カミラの全身から影がさ迷い出て、彼女の腕を浅く切った。

 宙に飛び散ったカミラの血が一瞬にして凝固。間髪入れず、それが紅に輝きだして目にも止まらない速さで放たれた。


 ──ズドオンッ!──


「ぐおっ!?」


 落雷の音に似た着弾音と共にUFOの一部分が破壊された。機体が大きく揺れる。


「速い······! それに、この威力もっ······」


 俺の知るカミラの力よりはるかに強大だ。


「ハエめ。落ちて、朽ちて、消え果てろ」





 カミラの能力。それは〈スイート・ブラッド〉と言う血を操る力。


 自身の血液を硬質化させて武器にしたり、一時的に意思を移せる力だ。




「見よ、貴様の下らんオモチャも我の眷属だ」


 先ほど破壊されたUFOのパーツ。

 それが不恰好な人形の姿へと形を変えて地面をガクガクと歩いている。



 カミラの血は、意思を持たない物質に一時的に意思を持たせる事が出来る。早い話が、輸血によって分身を生産出来るのだ。


 吸血しなくても眷属を増やせる能力。血を飲まないカミラならではの能力だ。



「こんな物で俺をどうにか出来るかよ!」


 簡易ウルトラハンドでそのガラクタ人形を粉砕する。


「ククク、酷い事をするじゃあないか」


 だが──と、カミラの歪んだ笑みが瞬く。


「これでどうかな? 『ペイン・レイン』」


 詠唱と共に、カミラから沸き立った影が空を覆って雲のように広がる。


 そして、そこからポツポツと雨が振りだした。


「雨?」


 ──プツッ──


「痛っ!」


 冷たい雨粒が腕に垂れた。

 と思ったら、それは鋭い焼けるような痛みを走らせた。思わず見ると、腕に針で刺されたような小さい傷が出来ていた。


「?!いってててて!!?」


 その痛みは途端に全身のあらゆる所を貫いていった。


 まるで何百、何千という針の雨に晒されているような耐え難い苦痛だった。


「くっ!!」


 墓石を引っこ抜いて頭上に掲げる。痛みからは逃れられたが、UFOもトトトッと削られている。


 せめてちゃんとしたUFOなら離脱も反撃も出来るんだが······この簡易UFOでは防御で精一杯だ。



「だが、こんな技を使えばお前だって······」

「貧血になると? ククク。そうだな。ならば──」


 パタッと雨が止んだ。

 回りの地面は全面くたびれたように傷んでいた。


 その光景を満足そうに眺めていたカミラが俺に不気味な笑みを見せた。


「確かに喉が乾いたな。少し喉を潤すとしよう」

「なんだと?」


 カミラのその不気味な笑みに気を取られ過ぎていた。


 ──ズズズッ──


「ん?」


 ──ズアアアッ──


「!!」


 真下の地面が途端に隆起し、それは土の巨人となって起き上がった。


「しまった!」


 高度を上昇させようとフットペダルを踏んだが遅かった。


 ──ガシャアッ──


「ぐはっ!」


 俺はUFOごと土巨人に握り潰された。


「があああっ?!」


 凄まじい圧力が身体中を締め上げる。関節や骨が一斉に悲鳴を上げ、内臓は今にも口から飛び出そうな感覚。


「がっ、ハッ······!」


 息が······止まる······。


お疲れ様です。次話に続きます。

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