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4──カーリー

 

 俺の名前──と言うよりはこの体の名前を呼ぶこの声は──


 声のした方を見るとそこには──



「イルスっ······!!」


「お前は······カーリーか?」


 こちらを激しく睨み付ける赤い髪の少女。

 俺の良く知るキャラ。いや、人物のカーリーが居た。




 カーリー・スイピス。パラファンの主要キャラであり、主人公のクラスメイト。そして幼馴染み。



 真っ赤に燃えるような髪を肩辺りで切り、外にピンっとハネさせた髪型はまるで炎。

 切れ長の赤い眼をメラメラと燃やし、脳筋で直情の熱血少女。

 少し口が悪く、喧嘩っ早く攻撃的だが根は優しくてお人好しの善人。


 学園の制服である真っ白なブレザーには、彼女の赤は良く映える。



 それが主人公の仲間であり、攻略対象のメインヒロインの一人であるカーリーだ。


 そんな馴染みのあるキャラが、目の前に現実として現れると凄い違和感というか、形容しがたい感覚に陥る。だが、めっちゃ美少女なのは確かだ。




 いや。それにしても······


 少しお気楽で自信に満ちた表情が彼女の特徴のはずなんだが──



「イルスっ······お前は······お前だけはっ······」



 歯を剥き出して激しい憎悪に顔を歪ませている。闘志と言うよりは殺意とでも言うような激情を俺に向けているのが分かった。


 本来ならイルスに対しても『まーた来たか、イルス!』『性懲りのない奴!』『しつこいなアンタも!』とか言って、好戦的ながらもここまで憎んだりはしなかったはずだが······。


「こんな所でお前を見つけるなんて······神様があたいにチャンスをくれたのね」

「は?」



 なんだかよくは分からんがやる気まんまんのようだ。


 未だに泣き止まない子供らといい、ちょいと熱すぎる闘志をたぎらせてるカーリーといい、なんか違和感はあるが······。


 まあいい。今の俺はイルス(悪役)なんだ。

 ならば、ちゃんと悪役を全うしてやろうじゃないか。



「クッカッカッカ! カーリーよぉ、今日も暑苦しく燃えてやがんなぁおい! テメエなんかボコボコにしてやるぜ、ヒャーッ!」


 やべえ。楽しい。

 悪役って演じるとこんなに楽しいものだったのか。



 俺の挑発に、カーリーは何時になく怒りを漲らせた。


「イルスうぅ!!」


 ──ゴオオオオッ──



 あっという間にカーリーの全身を炎が包み込む。


 カーリーの能力は炎の力を操るものだ。

 さらには、その熱量に比例して自身の身体パワーを高める事も出来る。


 熱くなればなるほど、燃えれば燃えるほど強くなる。そんな熱血な奴だ。

 そして真正面からパワーでゴリ押しする脳筋で荒々しい戦闘スタイル。



 だとしてもだ。



「おりゃあああああっ!!」

「うおっと?!」


 ──ゴアアアアッ──


 頬を熱気が掠めていく。触れてもないのに肌が焦げそうな熱。


 こちらの身を心配する気持ちは一切感じられないほどのガチの攻撃だ。


 なんだかんだ言って、カーリーもイルスに対してこんな殺傷力のある攻撃を本気で当てに来たりはしなかったんだが。


「おいおい! ちょいと熱くなりすぎてやしないか?!」

「黙れええええ!!」


 炎の竜巻が巻き起こり、こちらに向かって来る。


「ぐっ?! こりゃ悪役ムーヴかましてる場合じゃねえな!」


 ほどよくやられながら反撃しようかと考えていたが、正直、これは遊んでなんかいられない。


 機体をターンさせ、全力で逃げる。


「?! 逃げるなあっ!!」


 そして案の定、カーリーが追って来る。この世界の住人は空を飛べる奴が多い。カーリーも飛べる。そのまま飛行して追ってくる。


 俺は操縦桿を一杯に倒し、フットペダルを踏んでスピードを上げ続けた。だが、カーリーも速度を上げて追いかけてくる。


 それでも、流石に飛行ビークルと生身では差が出始め、徐々にカーリーとの間が開き始めた。


「くっ······待てっ、イルス! お前だけはっ!」

「なーにをそんなに熱くなってやがる!」


 真っ正面からまともに戦うのは実に厄介。

 だが、俺にはゲームで得た知識と地の利がある。



 ここだ。


 くるりと機体を反転させ、カーリーを真っ向から迎え撃つ。


「かかってきな! この脳筋火だるま!」

「上等だああああ!」


 吠えるカーリー。全身を纏う炎が一気に大きくなった。


 今だ。


「おっと、そうはいかねぇぜ~! こい!ウルトラハンド!」

「!!」


 ──ズアアアッ──


 ガラクタで出来た巨大な腕がUFO下部から出る。これは逃げながらそこらの木や岩を繋ぎあわせて作った物だ。

 操作はレバー1つで簡単。カーリーの突進に向かって振り下ろす。


「くっ!」


 身を捻って避ける。流石の反応速度だ。


 だが──



「これでもくらえ~!」


 もう一つ作っておいた巨大バズーカを出して、そこらに落ちてた岩を発射する。


「なっ?!」


 ここまで俺を追うのにスタミナを消耗しているカーリーの動きにキレはない。しかも、考えなしに突っ込んで来たから間合いはこちらの物だ。


 慌てて避けるが、そこは想定済み。さらに連射して追い討ちをかけると、空中でのバランスを崩した。


「ギャハハ! そこだ!」


 それを見逃さずウルトラハンドで捕獲する。


 ──ガシィッ──


「うっ!? しまった!!」

「そして~! オラアっ!」

「ぐうぅ?!」


 ──グイイィンッ──



 ハンドで掴んだままカーリーを近くの川の中に突っ込ませる。


「わぶっ?!」

「ヒャーハッハッハ!! 水泳の練習だぜえ!」



 これで勝負はついた。


 カーリーの弱点は水。普段もカナヅチなので泳ぐのは苦手なタイプだが、戦闘中は特に効果抜群だ。

 カーリーの体力は全身を纏う炎に変換されているので、炎を消すと体力が一気に尽きるのだ。


「ほーれっ」


 水から引き揚げてやり、芝生の上にゆっくり転がす。


 ずぶ濡れのカーリーは力を失い、ぐったりと倒れたままだった。



「ギャハハハ! ざまぁねえなあ! カーリーよお! 頭冷えたか~? ヒャッハー!」


 戦闘不能となったカーリーの真上にUFOを停めて悪の高笑いを上げる。


 うーん。クズ!

 俺のイルスの再現は完璧だ。今の俺はめっちゃ悪役だ。



 さて、カーリーの反応はと。


 ゲームの時は大体『く、悔しい~!』とか『くっ、殺せ!』とか『アンタなんかに~!』と、なかなかそそる反応をしてくれたが。



 さあ、今ここで萌えさせてくれ!



「············ひっぐ······」

「え?」

「うっ、うぅ······ひっぐ······ううぅ······うっく······」



 あ、あの。いや······。



 普通にめちゃくちゃ痛々しく泣き出しちゃったんだけど······。



お疲れ様です。次話に続きます。

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