48──最後の四天王カミラ
本日2本投稿の予定です。
悲鳴の元へ急いで駆けつけると、そこには黒い巨躯を蠢かせているアンノーンが、鋭利な顎を軋ませて子供達に襲いかかろうとしていた。
「アンノーン?! くっ!危ないっ······」
駄目だ、俺の能力では間に合わない。
「はっ」
焦りに息が止まるような感覚を受ける俺の横を、素早く駆け抜けてローナが飛び出した。
美しい六枚羽が虹色に輝き、宙で舞ったかと思うと、稲妻が辺りを白紫に感光させた。
「うおっ?!」
鋭い衝撃波と、網膜を切り裂くような光が一瞬駆け抜けると、巨大アンノーンが煙を上げながら、地響きを立てて横たわった。
「ローナ!」
「私が回りを見る。三人を」
「分かった!」
アバ達はリゲルの墓にしがみつくようにして肩を寄せ合い、プルプルと震えて泣いていた。
「大丈夫か?! 三人とも!」
「ひっぐ、ひっ······」
「うわあああんっ!!」
「え~んっ、え~ん······!」
泣きじゃくる三人をなんとか立たせて、ローナに合図する。
「大丈夫だ、どこも怪我してない」
「良かった。でも、なんでアンノーンがこんな所に──」
──カンッカンッカンッカンッ!!──
今度は町の至る所から、狂ったように打ち鳴らされる警鐘の音が聞こえてきた。
それこそ、町中から発せられていた。
「これはっ······まさか、またっ!」
前回の時と同じようにアンノーンの大群が襲来したのだろうか。
だとしたら、そこにはあいつも居るかもしれない。未だに姿を見せない四天王最後の一人。壊滅したラッキータウンのあいつが。
「ローナ、お前は子供達とジェイムス夫妻を安全に避難させてやってくれ! 俺は町へ──」
『ほう、力の波動を追ってみれば、なるほど。ローナ・ロンナが居たとはな』
「!!」
嫌な予感ほど的中しやがる。
『ふむ。虫が何匹かいるようだが、まあいい。狙うは一人だ』
幼い声が、威圧的で尊大な態度を醸し出す物言いをする。
そして、シュユ、ペールと対峙した時と同じ不気味で不快な気配。
声のした方を見ると、いつの間にか灰色の曇りになった空から、ゆっくりと降りてくる小さな影。そして、当たって欲しくなかった確信。
「ククク。ご機嫌よう、雑魚ども。今日は良い曇り空だな」
舞い降りてきたのは、赤と白を基調としたゴシックドレスをふんわりと膨らませ、他人を見下すように笑う少女であった。
「くっ! やっぱりお前もか! カミラ!」
「ん? 誰だ貴様?」
パラファン四天王。
〈妖宴の白狐〉シュユ。
〈ドッペルゲンガー〉ペール。
〈呪われし聖女〉ローナ。
そして、〈ラスト・プリンセス〉カミラ。
カミラはいわゆる吸血鬼という種族だ。設定としては、パラファンの世界にも妖怪やモンスターが存在するが少数派だ。
その中でも、吸血鬼や鬼などの種族はほとんど残っていない。カミラは、そんな希少な種族の数少ない生き残りだ。
見た目は十歳を越えるか越えないかくらいの少女の姿だが、その実年齢は100を超えており、いつも尊大で偉そうな態度を取っている。
幼いながらも端正な顔立ちは、大人になればとんでもない美人になると予想させる程で、ややつり目のルビー色の瞳と薄紅の唇から覗く牙は妖しい雰囲気を醸し出している。日光を嫌うため病的に白い肌は少し異様だが、金髪ドリルヘアーといい、一見すると大人びたご令嬢のようだと印象を受けるだろう。
しかし、ゴシックドレスなどの少女趣味から滲み出ているのか、精神年齢は見た目通りかもっと低いくらいで、子供じみてる。
早い話が、偉そうで大人ぶってる我が儘な子供。
そんなカミラも、吸血鬼でありながら血を飲む事は出来ず、ワインばかり飲んでいる。と思いきや、ブドウジュースばかり飲んでいたり、なぞなぞに答えられなくて癇癪を起こしたりと、コミカルな特徴と愛嬌があった。
その瞳だって、ただルビーのように赤いだけの目だった。
今、目の前に居るような、おぞましい赤色の光なんて宿してなかったし、ましてや本当に威圧的なこの雰囲気なんてなかったはずだ。
「カミラ、お前もか。お前もその力に······」
「気安く我が名を呼ぶな。貴様のようなカスなど知らん。だが、どこかで会ったか?」
「······ローナ」
臨場体勢のローナを呼ぶ。
「この子らを連れて逃げろ。俺はカミラと話がある」
「でも、レグルス」
「早くしろっ!」
「······分かった」
ローナが隣に舞い降りて、子供達の手を引いて離れていく。
幸いにも、カミラはそれを止めようとはしなかった。
「ふん。まあいい。ローナは後で話をつければ良いだろう。さて」
浮遊していたカミラがフッと着地する。降りた瞬間、背中にバサッとコウモリのような羽がはためいた。
「貴様は何者だ? 初対面のはずだが、我を知っているようだな?」
「いや、顔見知りさ。もっとも、今は顔が違うけどな」
「訳の分からぬ事を抜かすな。我の質問に答えればそれでいい。貴様は何者だ?」
「俺は······そうだな。通りがかりの正義の味方兼悪役ってとこかな」
「······なるほど。ただの馬鹿か」
カミラの目が冷たい氷のように光る。
「時間を無駄にした。貴様などどうでもいい。とりあえず死んで貰おうか」
「やれるもんならな」
もう十分時間は稼いだだろう。
能力を使っても大丈夫だ。
「すまんっ、仏様方! 力を貸してくれ!」
俺は墓石や墓標を集め、一つの巨大な塊にしてカミラへと転がした。
「なに?!」
そして大きく距離をとってから改めてスクラップUFOを組み立てた。
「くそっ! 材料が足りねえか!」
木や石だけのUFOは防御力も機動力も劣る簡易的ビークルだが、仕方がない。
在り合わせの戦力を整えたと同時に、墓塊ボールが爆音と共に粉々になって四散した。
「この力······もしや貴様は」
降りしきる砂利の雨と砂煙の向こうから、カミラの驚きの顔が現れた。
お疲れ様です。次話に続きます。




