47──失われていく世界
アバ達は、花束を墓石の上に飾っていった。なぜ供えないのか不明だが、小さな体を一杯に使って上に掛けていった。
「もっとそっちにやって」
「赤い花はこっち」
「空に向けて」
何か思案があるのか色々と指示を出合いながらその作業をやる三人。
それが終わると、皆して墓石の前に座りこみ、祈る事もなく空を見上げ出した。
よく分からない行動だな。
だけど一つ分かった事がある。
初めて会った時に、子供三人だけで町の外に出て花を摘んでいたのはこの為だったんだな。
それにしても、大人も連れ添わないで自分達だけで墓参りとは。偉いが悲しい光景だ。
褒めたくなるな。
「みんな偉いな。三人でお墓参りか」
子供は褒めて伸ばす。教育の基本だ。
なんて勝手に満足していたら
「違うよ!!」
「お墓参りなんかじゃない!」
「これはお墓じゃないっ!」
「うおっ?!」
途端にものすごい剣幕で怒りだして立ち上がる三人。子供ながらに激しく睨んでくる。
「リゲルは死んでなんかいないよ! これはお墓じゃなくて灯台なんだ!」
「灯台?」
「そうよ! あたし達がこうやってリゲルに見えるように花を置いてるの! リゲルはお花が大好きだもの、きっと空から降りてくる!」
「············」
「だってリゲルはねっ、町の回りの橋とか水車とか道をね、直してくれてるんだ!」
「そんな事出来るのはリゲルだけだもん! だからリゲルは居るの!」
「きっと、あたし達を驚かせようとしてるだけで、ちゃんと皆のために良い事してくれてる!」
「カーリーだって言ってたよ! きっとリゲルがやってくれたんだって! レンもメルも同じように言ってた!」
三人は今にも泣き出しそうで、唇を噛んで泣くのを必死に堪えているようだった。
でも、真っ直ぐで、心の底からそう信じているようだった。
「······そうだな。こんなに綺麗な花があればきっと空から見ても目立つ。すぐに降りてくるな」
そう言うと、三人は笑った。
「うん!」
「帰ってきたらお腹減ってるだろうし、皆で何かご馳走してあげるの!」
「それでね、また一緒にパンを作るの!」
「そっか。早く帰ってくると良いな」
それ以外の言葉なんてあるのか。何も言えねえよ。何も。
俺はローナと共にそこから立ち去り、墓地を歩いて回った。
「ここだけじゃない。墓地は他にもある。でも、ここが最初に作られた。リゲルのために作られたから。そして、隕石の破片で亡くなった人達も同じように埋葬されてる」
「あの子らは······本気なのかな。リゲルが生きてるって。本当にそう思ってるのか?」
ローナは首を横に振った。
「あの子らは本気でそう思ってるかも。カーリーやレン、メルも、心のどこかではリゲルが生きてると信じたいんだと思う。だから、町の周辺の橋や風車が直されて、材木とかが届けられた時、みんな喜んだ。もしかしたら、リゲルが帰ってきたんじゃないかって」
「······」
「でも、本当は分かってる。違うって。本当に生きてたら真っ先に皆に会いに来てくれるって知ってるから。でも、真実を知りさえしなければ、自分達の信じたい事が本当の事のように思えるから」
町の住民達は未だにリゲルの死を受け入れられないのだろう。それくらい、彼はみんなにとって希望であり、大切な人間だったんだ。
「それにしても。随分と墓が多いな······」
パッと見だけでも100はある。いや、もっとあるだろう。
「ここ以外の墓地も似たようなものか?」
「うん。避難民の人達もけっこう亡くなってるから。怪我とかしてて、ここに辿り着いた頃にはもう手遅れって事もあったみたい」
「そうか」
墓石を一つ一つ見ていく。そこに刻まれてる名前は知らない物で、どこのどういう人だったのかは分からない。だけど、そこに刻まれてる名前は確かにこの世界で生まれ、生きてきた人生の標だ。
「うん?」
そうやって名前を眺めていた時だ。
見覚えのある名前が刻まれているのが目に入った。
「これは······『ラビィ・カロット。多くの子供を導き、教えた教育者、今ここに眠る』」
ラビィ。そして教師。
思わずローナを止めて、その墓を指差して尋ねた。
「ラビィ先生、か?」
「うん」
ラビィ先生。パラダイス学園の教師。
ウサ耳の生えた獣人という種族の女性で、パラファンでは主人公のクラスの担任をしていた。
「亡くなったのか?」
「最初にアンノーンの襲撃があった時にらしい。子供達を逃がしてる間に亡くなったって聞いた」
「そう、か······」
知らない人も、知ってる人も。
数えきれない死と悲しみがこの世界を覆っている。
どうして。どうして、こんな事になっちまったんだ?
俺が、イルスが、リゲルを殺したからなのか?
『うわあああああああっ?!』
「?!」
暗い感情が押し寄せていた時。
リゲルの墓の方から、子供達の悲鳴が聞こえた。
「今のは?!」
「イルス!」
気づいた時には、俺とローナは走っていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




