46──墓参り
家からそう離れていない場所。
そこに広い墓地があった。
広い草原に、沢山の墓石や木の墓標が並んで、風に晒されている。
遠くに山が見え、すぐ眼下には町が見える。高台となったそこは、とても見晴らしの良い場所だった。
だが、寂しい風の吹く場所だった。
こんな場所は知らない。俺がゲームをプレイしていた時には無かった。
「ここは······」
「墓地」
「いや、そりゃ見れば分かるんだが······」
ゲームと違う。と言ったって伝わらんしな。
「こんな所に墓地なんかあったか?」
「私も聞いた話になるけど、隕石爆発事件のあの日から、犠牲になった人達をここに埋めてるんだって」
「お前······あの事件の事知ってたのか」
「それも話で聞いた」
「············どこまで知ってる? あの事件の事。その、リゲルの事とか」
そう聞いてみると、ローナは振り返りもせずに歩きながら答えた。
「全部聞いた。新聞も読んだ」
「······そう、か」
何も言えず、俺は黙って彼女の後に続いた。
墓標の合間を縫っていくと、一番小高くなっている所に一際大きな墓があった。
そこには沢山の花束やお菓子などが供えられており、誰の墓かはすぐに察した。
「······」
ローナはその墓の前に立つと、ゆっくりと屈んで静かに目を瞑って手を組み合わせた。
「······イルスはお祈りしないの?」
追悼しながら、ローナが言った。
俺も、彼女の隣で同じようにした。
しばらく、風に揺れる草葉の音と、木々の擦れ合う音だけがその場を行き交っていた。
「······なあ」
祈りの沈黙を破ってローナに訊ねてみた。
「どうして······あの事件の事を知ってるのに、その······俺の事を責めないんだ?」
「私にはその資格が無いから」
ローナは淀みなく答えた。俺と同じように祈りを止めて立ち上がる。
「私もリゲルにはいっぱい迷惑かけた。みんなにも。そうやって誰かを傷つけてきた。だから、イルスの事を悪だとは責められない。私も同じようなものだから」
「それは違うだろ!」
思わずローナの肩を掴んでいた。
ローナはビックリしたように目を丸くした。
「お前のはどう考えても不可抗力だ! お前がやりたくてやった事じゃない! 望んで誰かを傷つけた訳じゃないだろ! お前はそんな奴じゃ······」
ローナの神秘的な瞳が驚きっぱなしで俺を見つめている。
そして、今度は不思議そうに光を瞬かせた。
「イルスは······やりたくてやったの?」
「!!」
それは············。
答えられる訳がない。
だって、俺はイルスじゃないんだから。
「俺は············」
「······イルス」
ローナが静かな目で俺を見た。
「貴方は本当にイルス?」
「!?」
すぐにローナから手を離し、目を逸らした。
透き通るような瞳に、俺の何もかもが見透かされるような気がして。
「俺は俺さ。正真正銘、リゲル殺しの······」
「······私が貴方を責めないのは──」
変わらない静かな声が続いた。
「貴方に不思議な物を感じるから」
「え?」
思わず振り向くと、ローナは表情を静寂のままにして言った。
「貴方からは邪悪な物を感じない。以前、私と一緒に暴れた時の貴方からは無邪気な悪意を感じた。汚れてはいないけど、怒った子供のような、手のつけられない悪意を。でも、今の貴方にはそれが無い。なんだか不思議な意思を感じる。あえて言うなら──寂しい優しさ」
「············」
その後は会話がなかった。
俺らはただ、リゲルの墓石を見守るように、そこに佇んでいた。
リゲル。
お前は本当に死んじまったのか?
みんな、お前が居なくなって大変な事になってるぞ。
俺はいくつもの涙を見てきた。どれもこれも、お前が居ない事で流れた涙だ。
お前は愛され過ぎていた。だから死んじゃ駄目なんだ。俺みたいに······居ても居なくても変わらない人間じゃないんだ。居なくちゃいけないんだ。そんなヒーローなんだ。
だから、戻ってこいよ。星になって。
『あっ! 誰か居る!』
「ん?」
目の前の墓石と、この空のどこかのリゲルに想いを馳せていたら、後ろの方で子供の声がした。
ローナと共に振り向くと、そこには見知った顔のマスコット達。
「あ、お前らは······」
アバにユサにキャト。モブの子供らだ。
何気に俺がこの世界で最初に遭遇した住民でもある。
「あ、ローナちゃんだ」
「ほんとだ、ローナだ」
「あれ? 隣の人は?」
こっちに近寄ってくる三人。ローナではなく、好奇の目を俺に向けている。
「お兄ちゃん誰?」
アバが少し警戒するように見上げて言う。
俺が答えようとすると
「この人はレグルス。別の町から避難してきた人」
と、ローナが答えた。
俺ではなく、見知ったローナからの答えに安心したのか、三人がちょっと警戒を解く。
「そっか。お兄ちゃんもひなんみんなんだね」
「ローナちゃんの知り合いなんだ」
「二人はお友達?」
「友達? いや······俺は、その······」
「うん。友達」
返答に詰まる俺の代わりにローナが頷く。
「昔からのお友達」
「······そう、だな」
「そうなんだ。僕、アバ」
「あたしはユサ」
「あたしキャト」
「俺はレグルス。よろしくな三人とも」
この時初めて、三人が花束を持っている事に気がついた。
お疲れ様です。次話に続きます。




