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44──我が家へ

 

「ロ、ローナ?」


 しまった、また墓穴を掘った。


「い、いや。オホン! 失礼、どちら様ですか?」

「? 何を言ってるのイルス。私。ローナ」


 駄目だ。完全に正体を見破られてる。おかしい、変装は完璧だったはずなのに。


「············ローナ、ちょっと」

「?」


 手招きすると、ローナは素直に俺に寄った。


「なに?」

「なんで俺だって分かったんだ?」

「なんでって。普通に。魔力がイルスだから」


 魔力で? こいつそんな事も出来たのか。


「つまり、お前には変装は無意味って訳か」

「なんで変装してるの? 顔まで違うけど······」

「え、えっとだな。前に言ったろう? 俺、ちょっと嫌われててさ、バレないようにしてんだ」

「? それって前からそうじゃない?」


 グサリとくる事を言うな。まあ、俺じゃなくてイルスの事ではあるが。


「ともかくだ。ここでは俺の事はレグルスって呼べ。イルスってバレたらマズイ」

「分かった」


 素直な奴で良かった。



 そんな流れで、ローナと行動を共にする事となった。



「しかし、お前が町に居るなんてな。なんだか不思議な光景だ」

「居てもいいって皆が言ってくれたから」

「そうか」


 まあイルス()と違ってローナは嫌われてる訳じゃないからな。あくまで本人が皆の迷惑にならないように孤独を選んだだけで、村八分にされてる訳じゃないし。


 それに──


「なら、メルにはもう会ったか?」

「うん」


 無表情な顔が、少し緩む。


「そうか。俺もさっきメルに会ってな。前に会った時より元気そうだった。やっぱり()()()()()に会えて、あの子も嬉しいんだろうな」

「そう、かな」




 ローナとメルは姉妹だ。ただし、腹違いの。

 ローナの母親は彼女が幼い頃に亡くなっており、メルは後妻の娘なのだ。

 その辺りもパラファンでは珍しい設定なのだが、二人の間に複雑な確執などはなく、仲はすごく良い。



「今は一緒に暮らしてるのか?」

「たまに。私の力はいつ暴走するか分からないから。ずっとは居られない」

「そうか。うん? その手に提げてる袋は?」

「パジャマ。さっき買った」



 話をしていると、いつの間にか北側の丘近くに来ていた。


「お前はこの辺りに何か用があるのか?」

「うん。リゲルの家に行くの」

「リゲルの?」


 予想外な言葉に、なぜか俺の心臓が動揺に震えた。


「だが、あいつは······」

「うん。知ってる」

「えっ」


 そんなやり取りをしていたら、すぐにリゲルの家が見えてきた。



「······ここは············」



 丘の上。見晴らしの良いその場所に小さな赤い屋根の家がポツンと立っている。

 長い煙突からはポカポカと煙が上がり、パンの甘い香りがした。



 ここだ。ここがリゲルの実家だ。パン屋なんだったな。


 懐かしい。俺の家ではないのに、何故か家に帰ってきたような気分になる。



「ここに何か用があるのか?」

「うん。チズアのお見舞い」

「チズアって······」



 チズア。それは妹だ。俺の──いや、主人公リゲルのだ。



 リゲルには義理の妹が居る。それが妖精のチズアだ。森の中でお腹を空かせて倒れているのを保護して、一緒に暮らす事になったのだ。


 設定では、妖精は親が居て生まれるパターンと、花や木から自然発生するパターンとがあり、チズアは後者の方だった。


 少し人見知りなとこもあるが、賢くて親切で、何より兄であるリゲルこと主人公が大好きな可愛い妹だ。もちろん攻略対象、やや背徳感ある禁断の愛のルートだった。




「ん? お見舞い?」


 待った。聞き流したが、どういう事だ。


「お見舞いって、なんで?」

「メルの親友だから。いつも妹がお世話になってるから、せめてお見舞いして──」

「いや、そうじゃなくてな。見舞いって、どこか怪我でもしたのか?」

「······私の口からは言えない。一緒に来る?」


 自分の目で確かめろって事か。


「ああ。見舞いの品は無いが」



 俺はローナの付き添いのような形で、懐かしのセーブポイント拠点へと入る事になった。



 ──ガチャッ──



「お邪魔します」


 ローナが扉を開き、俺も後に続く。


 入ってすぐは工房になっており、小麦の袋や薪が積み重なり、奥には立派な竈が設置されてる。



 そんな工房の真ん中は長テーブルになっており、そこでパン生地をこねている二人の人物が居た。


「こんにちは、おじさん、おばさん」


 そう挨拶するローナにその二人も作業の手を止めて微笑んで応えた。


「こんにちは、ローナちゃん」

「今日は一人?」

「いえ。知り合いと一緒に」

「あ、ども」


 このタイミングで俺も前へと出た。


「初めまして。レグルスって言います。ローナとはちょっとした知り合いでして」

「おや、初めまして。ジェイムスです」

「私はアニータ。初めまして」


 と、他人行儀な挨拶なんかしてみるが、俺はこの二人を、この夫婦を知っている。


 そう。俺の(主人公の)パパとママだ。


 つまり、リゲルの両親だ。



「すみません、突然お邪魔して。そこでローナと会ったものですから、ついてきてしまって」

「いや、構わないよ」

「ええ、ゆっくりしていってね」


 ゲームの時の記憶そのままに、二人は柔らかくて包容的な人間だった。


 だけど。やはりどこか······寂しそうだった。



「チズアのお見舞いに来ました。上がっても良いですか?」

「ありがとう。今日は起きてると思うからそのまま入って大丈夫だよ」

「きっとあの子も喜ぶわ」

「では、お邪魔します。レグルス、行こ」

「あ、ああ」


 部外者の俺が上がってもいいのか? まあ、誰も止めはしないし、いいんだろうが······。



 俺とローナは奥の扉を開けて、居住空間である廊下へと出た。ローナはその廊下の奥にある部屋の前で止まった。


 ──コンコンコン──


「チズア、入るね」


 ローナが中へと入る。俺もその後に続いた。



「············あ」



 部屋のベッドの上。そこに座っている人物。



 それは、間違いなくチズアであった。




 だが。




 そのチズアは、俺の知るチズアとは大分違っていた······。


お疲れ様です。次話に続きます。

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