39──最強の四天王
すぐ近くで起きた爆発。
もしかしたら、ここにも居るのかもしれない。
変わり果ててしまった誰かが。
そして、今もこの殺戮を繰り返しているのかもしれない。
それならば──俺が、止めてやる。
「キエラ、多分戦闘になる。しっかり掴まってろ」
「う、うん」
例え、大切な思い出の人物であったとしても。
これ以上、この世界を好きにはさせない。
──ズガガアンッ──
爆発音が近くなった。
すぐ目の前から爆風と衝撃が響き、砂塵が巻き上がるのが見えた。
居る。
かなりの力を持った奴が。
「──! あいつは······!」
薄れてゆく砂煙の中。
空中に浮かぶ一つの影。こちらに背を向けていた。
そのシルエットは普通の人影ではない。
その背に、三対六枚の羽が開いているのが見えた。
もうその時点で、俺には誰が居るのか分かった。
こんな特徴的な姿をしているのは作中ただ一人。
「あっ、あれってもしかして!」
「······おいっ!」
少し強めに声を張り上げて呼ぶ。
その人物はゆっくりとこちらへ向いた。
「······イルス?」
「まさか、お前だったなんてな。ローナ」
今、俺の目の前には四天王最強と呼び声高い少女、ローナ・ロンナが静かに浮かんでいた。
ローナ・ロンナ。美しい妖精の少女。
まるで靄の濃い夏夜のような群青色の髪をたなびかせ、神秘的なグレーアイは儚く、その背の六枚羽はステンドグラスのように美しい。
全体的な雰囲気が“神秘、儚い”というような印象を与える妖精の少女だ。
そんなローナだが、設定的にも、ファンからの評価でも『最強』とされているのだ。
ローナの能力は単純であり、チートな能力ではない。
自身の魔力を〈糸念〉と言う、糸のような流れにして扱う事が出来る『手繰り力場』という能力だ。
これは糸状の魔力であらゆる物体などを自由に操れるものの、それ以上でもそれ以下でもない使用用途しかない。
糸はあくまでも魔力の流れなので、そのままでは殺傷能力は低い。
よくある糸系の能力みたいにスッパリ切断攻撃! なんてのも出来ない。
糸を組み合わせて巨大なモンスターを作るなんて事も出来ないし、糸を通して相手の力を吸収なんて事も出来ない。
ただ単に可視化されたテレキネシス、あるいは殺傷力の低いピアノ線くらいの代物だ。
では何故そんな能力者のローナが“最強”とまで言われるのか。
答えは単純。“強いから”。
ともかく戦闘センスが高く、かつ単純にフィジカルがヤバい奴なのだ。
この世界にも通常魔法が存在するのだが、普通は大した事がない。炎魔法ならせいぜいマッチの代わりになるくらい、水魔法なら空気中の水分を集めてコップ一杯産み出すくらい、風魔法ならそよ風、雷魔法なら静電気、土魔法なら泥団子──
とにかく魔法は攻撃用ではないのが常識だ。
だが、ローナの魔法は違う。
こいつの魔力の変換能力は桁外れで、どの属性の魔法を使おうとも、ほとんどが超攻撃魔法になる。
つまり、属性系の能力を持っているメインヒロイン三人に匹敵するかそれ以上の属性魔法を持ちつつ、自身の特殊能力も持ち合わせているのだ。
さらに近接戦の攻撃力も上位。欠点らしい欠点が無く、単体でどんな戦い方も可能。
故に最強と評価されているのだ。
そして、そんなローナがあの『崩壊の力』を手に入れたとなれば──事態は最悪だ。
「ローナ、まさかお前までもがこんな事するなんてな。正直お前相手はキツいが、やるしかない」
「? 何の話?」
「とぼけるな。行くぞ! 先手必勝だ!」
油断している今がチャンスだ。
こんな事もあろうかと岩バズーカガトリングをあらかじめ作成、装備してきてある。
「食らえ! 岩バズーカガトリング!」
──ズドドドドドドッ!!──
「っ!?」
ローナの六枚羽がはためき、俺の先制攻撃を躱す。
「いきなり何を······」
困惑の表情を浮かべるローナ。
その表情はまさに思い出と何一つ変わらないほど、ありのままだった。
「くっ、本当にやり辛いぜこの戦い」
だがやらねばならん。
これ以上ローナに罪を重ねさせたくはない。
ここは愛の鉄拳制裁で!
「覚悟しろローナ! ウルトラハンド・メタルバージョン!」
さあ新兵器の登場だ。機動性と操作性を犠牲にした打撃用に特化したこの鋼鉄ウルトラハンドでローナをぶん殴って──
「ちょ、ちょっと! 待ってイルス! ストップ、ストーップ!!」
「うおっ?!」
ローナに突進したところで、キエラがレバーを引っ張っり、さらにはブレーキペダルを踏んだのでUFOがガクンと体勢を崩した。
──ゴチンッ──
「いてっ!」
操縦桿にデコをぶつけてしまった。いてえ。
「いててて······おい、何すんだよキエラ!」
「ご、ごめん。でも、ほら良く見てイルス。ローナは普通みたいよ?」
「なに?」
指摘されたので改めてローナを見てみる。
「?」
不思議そうに首を傾げるローナは確かに俺の知るローナそのものだ。
目が赤くない。あの妖しい光を宿してない。
それに、背筋に悪寒が走るようなあの不気味な恐ろしい気配もしない。
もしかして、ローナは正気なのか?
「······おい、ローナ」
「?」
「お前、『崩壊の力』って知ってるか?」
「???」
ローナはふるふると首を横に振った。
············。
ということは──
「ローナ、お前は正気なんだな?」
「······」
なんと答えていいか分からないって面してる。
「質問を変えよう。この町をこんなにしたのはお前か?」
「違う」
今度はハッキリ答えた。
「今の爆発は? お前がやったのか?」
「うん」
ローナが地面に向けてスッと指を差す。
その指差す方に何体かのアンノーンが蠢いていた。
「あれを放っておくと危なかったから······」
「······」
なるほど。
どうやら話を聞く前にあいつらを片付けないといけないみたいだな。




